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なんのはなしですか。【長編小説】21

 自分のメモに書かれている見覚えのある言葉。下ネタ、官能的な話…?あっ…!下心!!

 そうだ、あの時のコメント欄にいた!柊!藤本柊!奴だ。柊という名前であのもっさんもっさんの寝ぐせ頭!それに今日は木曜日!
 間違えない、蒔倉が例のタグを初めて使った『美味しいものは作りたい』を書く元凶になった人物!

 しかし、あの頃の藤本柊は難民ではなかったはず…いったいいつから…ここは意を決して探るか。
 宮下は席を立ち上がった。すると蒔倉がその音に気づき宮下の方を向く。

「あ、宮下さんお仕事終わったんですか?」
「うん、何とかね、だから僕も話に混ぜてもらおうかな」宮下は二人のいる席へ移った。

「宮下さんは柊さんとは初めましてですか?」
「そうだね、初めましてだね。僕は宮下と言います」
 そう言うと宮下は柊へ向けて名前を開示した。柊もよろしくお願いします、と名前を開示する。やはり間違えない。宮下は藤本柊の漢字が同じである事を確認した。

「さっきはバナナとかナスとかピーチとか聞こえてきましたけど、食べ物の話でもされてたんですか?」宮下が訊く。
 二人は見つめ合って少し困ったように笑うと蒔倉が言った。
「食べ物…のようなそうでないような…ナニの話しですかね」と誤魔化すように笑う。

 いーや、騙されない。蒔倉のその手にはもう引っかからない。藤本柊が難民である確証を得る。宮下は腹をくくった。

「そういえば、食べ物の話で思い出したんだけど、蒔倉さんの書いた記事見たよ。官能的な詩とスープの話。なんの話しか分からない感じが良いね。それと間違えてたら申し訳ないんだけど、そこのコメント欄に藤本さんいませんでしたっけ?」と宮下は柊の方を向いた。

 柊は「ぇっ」と驚いた様子で宮下を見た。

「まさか見られちゃってたとは、お恥ずかしながら」と柊が笑う。
「そんな前の記事読んでくれたんですか。なんか、ありがとうございます」と蒔倉も笑う。
「やっぱり藤本さんでしたか。コメント読んだ感じだと、蒔倉さんがあの記事を書くキッカケになったのが藤本さんってこと?」
「そうですね。宮下さんもコメント欄まで味わうタイプなんですね」と蒔倉はなんだか嬉しそうに話す。
 どうやらミッケだとは疑われていないようだ。蒔倉が単純な奴で良かった。宮下は胸を撫で下ろした。

「コメント気になるよね。もしかして藤本さんがもともとタグをお使いだったんですか?」宮下は柊を見て訊いた。
 これは賭けだ。ミッケであると疑われれば終わる。
 柊は目を少し見開いて、やや考えるように言った。

「なんの話しですか」

 きた、当たりか。そう思ったがその後も柊は何も話さない。ヤバい。もしやバレたか?それとも本当に違ったのか。宮下は焦った。
「え…っと…」

 宮下が助けを求めるように蒔倉へ目をやると、蒔倉もなぜかキョトンとしている。
 宮下は頭を抱えた。ダメだ、蒔倉は当てにならない。

 宮下が勘違いと言いかけた時、柊が、ふっ、と少し吹き出すように笑った。
「ぇっ」と宮下が柊を見る。

「使い勝手いいですよね、あれ。でも私はみのむしさんのその記事を見てからですね」そう言って表情を緩ませた。
 宮下は心の中で泣きそうになりながら拳を握った。
「あ、そうだったんですね。それを見てから…」感染したのかと言いそうになったが、まだウイルスの確証はないためNo.874には触れない事にした。

「割となんでも使えますからね。おかげで好き勝手話せるのがいいですよね」と蒔倉が笑顔で言う。

 蒔倉が能天気で良かった。本当にありがたい。このまま鈍感な蒔倉のままでいてくれ、宮下は心の中で手を合わせそう願った。

「うん、なんでも使えるよね。分かる分かる」と柊も頷く。
 宮下も同意を装い頷いていると握っていたスマホが鳴った。

 そこには榎本からメッセージ『難民と接触した』の文字。宮下にも緊張が走る。
 こちらも新たな難民を見つけた。蒔倉が難民になった原因はまた今度探ることにして、一旦難民についての情報共有が先決か。宮下は『僕もです』と榎本へメッセージを送った。

 酒場の二人には急な仕事が入ったことを伝え、また今度とその場を後にした。




次へ続く





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