なんのはなしですか。【長編小説】19
読み聞かせが終わると女性は子ども達へ質問した。
「みんなは今日どんなモンスターに出会ったのかな?」女性は子ども達を見渡した。
すると女の子が「今日はリスンに会ったよ!」と言った。男の子も「俺はゲラゲラ!」と自慢げに言う。他の子も「ピエーンが泣いてた!」「ムスカが怒って叫んでた!」など子ども達は様々な名前をあげていった。
女性は穏やかな表情で「良かったね」「すごいね!」と子ども達の話に頷きながら微笑む。
目の前の楽しく明るい空間が榎本には曇天に感じられた。自分にこの状況が救えるのか。自問自答したところで答えは出ない。ただ、今できることをやっていくしかなかった。
「じゃあ、今日のところはこれでおしまい」と、女性が子ども達へ伝える。
子ども達は「えー」と残念そうではあったが、一緒に来ていた親や友達と楽しげに話しながら、それぞれの家へと帰って行った。
榎本は片付けを始める女性の元へ近づいた。
「素敵な読み聞かせだったので聴き入ってしまいました。いつも子どもが対象なんですか?」
榎本の質問に女性は手を止めて振り向いた。
「なんの話ですか」女性が微笑んで訊いた。
「いえ、そういうボランティアか何かなのかなと思いまして」榎本も笑顔で返した。
「そうですね…特には考えていませんでしたが、創作が好きで楽しくて、それを誰かと共有したくてやってるんです」女性は穏やかに話した。
「創作…そのお話は御自身で考えられたんですか?」
「いえ、AIと一緒に考えたものです」
「なるほど、AIですか。今はいろんなことができますからね」榎本が笑って答える。
「おかげで私の世界が広がりました」
AIは物語やイラストなどで自分の考えてる事を表現してくれるので。と、女性は嬉しそうに榎本へ話した。
「それは良かったですね。良ければ先程の朗読や絵本の内容を詳しく教えて頂けたりはしませんか?路地裏モンスター、人気みたいなので子どもとの共通の話題として」
「えぇ、大丈夫ですよ。私のnoteオンラインにありますので、ぜひご覧下さい」
女性はそう言うと自身のnoteオンラインに載せているリスンの朗読とチクリンの記事を榎本へ共有した。
noteオンラインとは、クリエイターが文章や画像、音声、動画を投稿して、ユーザーがそのコンテンツを楽しんで応援できるメディアプラットフォームことだ。気軽に記事の発信・共有ができるサービスで、noteの街では欠かせないものとなっている。
榎本が共有された記事を開くと、そこには朗読の音声データが載せられていた。あの声がいつでも聞けるのか。榎本は喜びに浮かれた心を静かに律した。
「ありがとうございます。優谷美和さんとおっしゃるんですね。すみません自己紹介が遅れました。私は榎本と申します」
そう言うと榎本は自分の名前を優谷へ開示した。
「そういえば自己紹介まだでしたね」優谷も優しげに笑う。「優谷美和です。よろしくお願いします」と、軽くお辞儀した。
一つ一つの所作が丁寧で優しさが伝わってくる。こんな素敵な人まで…榎本はぐっと胸の内に憤りを感じた。
「こちらこそ。よろしくお願いします。いつか必ずモンスターから救い出しますから」
榎本の真剣な眼差しに優谷は首を傾け「救い出すって、なんの話ですか」とおかしそうに笑った。
「あ、いえ、こちらこ話なのでお気になさらず」
榎本は、つい口走った心の声を慌てて笑って誤魔化した。
優谷も、榎本さんってなんだかおかしな人ですね、と楽しそうに笑う。
おかしな人か…榎本は「そうですかね?」と笑いながら、せっかくこうして楽しく話している相手が難民であるかもしれないことに少し虚しさを覚えた。
できることならこんなに朗らかな女性を、おかしな人と疑いたくはなかった。榎本は、そう思いながら優谷の後ろ姿を見送った。
次へ続く
いいなと思ったら応援しよう!
サポートして頂けるとありがたいです(*´꒳`*)