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なんのはなしですか。【長編小説】25

 翌日、榎本が目覚めたのは午前9時頃だった。今日は休日のため取り立てて用事はない。
 榎本は昨日の事を酔っていてあまりハッキリとは覚えていなかったが、一応報告をと宮下へ電話した。

 理生から聞いた青豆という人物の名前。それと理生がミルコ信者であり、宗教的な洗脳の可能性も考えられることを伝える。
 宮下は、午前中に溜まった業務を終わらせて、午後には路地裏へ向かうという話だった。

 二日酔いとまではいかないが、少し体がしんどい。しかし、小腹は減っていた。
 午後になり、榎本は近くのコンビニへと向かった。

 歩道橋を歩いているとその下の道を見覚えのある女性と男性が2人並んで歩いている。
 女性は、以前路地裏の奥の喫茶店で出会った、黒猫に餌をあげていた人物だ。
 そして、もう1人の男は…昨日、酒場にいた同年代くらいの店主だ。首へ蛇を巻いている男なんて、そいつくらいしか見たことない。店の何かのコスプレかと思っていたが、まさかデフォルトだったとは。まぁ、ファッションは個人の自由か。
 しかし、どうしてそんな男と。榎本は2人が気になり後を追った。
 2人は暫く歩くと、おもむろにスタバへと入っていった。

 ここへ来てスタバか。榎本にトラウマが蘇る。しかし、ここで引くわけにもいかない。女性とその相手がどういう関係なのか、ハッキリさせておく必要がある。榎本は意を決した。
 少し時間を置いてからスタバへ向かう。疑われず接触するためには偶然を装う必要があった。榎本は待つ間に、注文する商品の名前を暗記した。この呪文ような横文字を唱えるだけだ、そう自分に言い聞かせた。

『トール・アイススターバックスラテ・エクストラショット』
 まるで変身できそうな、はたまた力強い攻撃を放てそうな気さえする。いや、スタバで戸惑わず注文できる男になる。そう誓った。

 榎本はスタバへ足を踏み入れた。言うまでもなく、注文を終え商品を受け取る。
 2人が居る位置は把握済み、相手はこちらに気づいていない。
 榎本は2人の近くを通りかかる際に、トレーに乗せていた紙ナプキンをさり気なく落とした。そして拾った時にたまたま気づいたかのように「あっ」と声を上げる。
 女性もその声で榎本の方を向いた。

「黒猫の喫茶店の方…ですよね?」榎本が訊いた。
「あ、あの時の…」女性が少し驚いたように榎本を見る。
「お久しぶりです。彼氏さんとご一緒の所、お邪魔しちゃってすみません」榎本が申し訳なさそうに言う。
 一緒にいる男は特に否定もせずニコニコと微笑んでおり、上機嫌のようだ。
「あ、いえ、違うんです。コニシさんとはそういう関係じゃなくて」と女性が慌てるように両手を振る。
 その言葉に榎本は少しほっとした。
 コニシ。つまり、あの店の店主はコニシと言うのか。榎本はコニシを見た。

「あ、勘違いでしたか。すみません」榎本は2人を見るように謝った。
「いえ、まぁ、そう見えても仕方ありません」コニシは穏やかに話した。
 榎本にはコニシが、まるでカップルと間違えられたことを喜んでいるかのように見て取れた。
「コニシさんにはお店のことで相談に乗って頂いてるだけなんです。今は仕事のことで手一杯なので恋愛は…」
 榎本は女性の言葉に内心がっくりと肩を落とした。
 横にいたコニシも「え…」と一瞬固まる。どうやら同じように虎視眈々と狙っていたのか。

「そうだったんですね。色々お忙しいですよね…失礼しました。どうやら今は私達にチャンスはないみたいですね」と榎本がコニシへ向けて少しおどけたよう笑いながら訊いた。
 コニシは榎本の方を向くと落ち着いた様子であの言葉を放った。

「なんの話しですか」

 榎本は少したじろいだ。まるで奴はその言葉を使い慣れているようだった。
「いえ、ちょっとした冗談ですよ」榎本は笑って誤魔化した。
「すみません、私がちゃんとお伝えしていなかったので…」女性は申し訳なさそうに目をつぶっている。
「いえ、あなたのせいではないですよ。こちらこそ、くだらない話に付き合わせてしまってすみません。また機会があるときにでも。あ、一応名前を…」
 そういうと榎本は女性へ宛てて名前を開示した。
「あ、RaMです。その時はぜひ。お店にもまた、いらしてください」RaMも同様に開示する。

「コニシさん、でしたよね?また呑みに行った際はよろしくお願いします」榎本はコニシにも名前を開示した。
「ウチへいらした事があるんですね。いつでもお待ちしております」コニシも笑顔で名前を開示した。

 榎本は2人の元を後にした。まだ2人の詳しい素性は分からないが、とりあえず名前が分かっただけでも情報としては大きい。念の為、宮下へ電話で連絡しておくか。榎本はスマホを手に取った。




次へ続く





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