なんのはなしですか。【長編小説】26
今朝、榎本からかかってきた電話によると、洗脳という線も考えられると。そして、遭遇した難民の数も増えてきた。この辺で一度情報を整理しておく必要がある。
宮下はパソコンを開いた。まずは難民リストの追加からか。
『難民リスト』
1.(幻)蒔倉みのむし
2.(レジェンド)おすぬさん
3.(オヤジ)persi
4.(プリンセス)ミルコ
5.(読み聞かせ)優谷美和
6.(寝ぐせ頭)藤本柊
7.(酔っ払い)理生
『おかしくなる原因』
1.中毒性の薬物
2.ウイルス(No.874)
3.組織的な洗脳
難民の特定は着々と進んではいるが、難民が増える速度の方が遥かに早いと考えられる。
原因についても未だ確信が持てるものはない。
スキャナーが完成するまでは路地裏の捜索を地道に進める。今はできることをやるしかない。
そして、榎本がスタバ戦線を繰り広げている頃、宮下は路地裏へと来ていた。
酒場の前で坊主頭の青年が看板の裏を覗き込んだりしている。宮下はしれっと近づいて背後から声をかけた。
「何かお探しですか?」
青年はビクッと背中を震わせて振り返った。
「な、な、なんの…なんのカラシですか?」
カラシ?宮下の目が一瞬点になる。カラシで誤魔化せているつもりなのだろうか。宮下はそんな必死な坊主頭の青年が少し可愛らしく思えて、思わず吹き出して笑った。
「いや、失礼しました。ちょっと一杯いい店がないかと、探しているところでしてね」宮下が少し笑いながらヘコヘコと言う。
青年は不機嫌そうにそっぽを向いた。
かまわず宮下は話を続ける。
「ちょうどさっき営業の仕事が一段落したところだったんですよ。あ、僕、宮下って言うんですけど」
「俺、いい店なんて知らんけど」青年はややぶっきらぼうに言い放った。
「そうですか」宮下はじゃ、と青年の元を離れた。
いったいあの青年は何を探していたのか。しかし、こっちを警戒している様子もあった。深入りも危うい。
するとスマホの着信が鳴った。榎本からだ。
電話に出ると、どうやら近くのスタバで、例の名前を聞きそびれた喫茶店の女性と酒場『魑魅魍魎』の店主に接触したらしい。ちょうど宮下も怪しい青年と会った事を伝えた。
そしてお互い近場であったため中間地点で合流する。
「榎本さん、さっきの男はシロ、てかシロートですよ」宮下はクスクスと笑った。
「そうか、ま、暫く泳がせておくか。だが、監視は怠るなよ」
「やっこさん、また来ますかね?」なんてドラマの張り込み中の刑事になりきって言ってみた。
「あぁ、用心しとけ。創作意欲が高い者と例のタグは強く引き合うからな」
「そうですね。気をつけときます。榎本さんの方はどうだったんですか?」
「あの酒場の店主であるコニシ。奴は首に蛇を巻いた男だ。それとどうやら奴は路地裏の奥にある喫茶店の女性の相談に乗っているらしい。女性の名前はRaM」
「どちらも難民なんですか?」
「あぁ、コニシについては例のタグの使い慣れた感じからして、まず間違えないだろう。RaMさんもコニシと関わりがある以上、その線が濃厚と見ていい」
「なるほど、分かりました。後ほどリストへ追加しておきます」
「俺はもう家へ帰るから、今日は頼んだぞ、宮下」
そういうと榎本は自宅へと帰って行った。
宮下は小腹が空いたため、本部へ戻る前に近くにあるカフェへと立ち寄った。
扉を開けるとカランカランと音が出迎える。内装はオシャレな作りで雰囲気の落ち着いた店だ。
店内には一人、女性がパソコンに向かって何やら作業をしている。長髪だが前髪は重めで切りそろえられた感じだ。その髪型はまるで麗子像を彷彿とさせる。
宮下は奥の席へと座った。するとパソコンをしていた女性が立ち上がる。帰るのだろうか。女性客は女性店員の顔を見るやいなや、もう一度席へと着いた。なぜ立ったんだ。
女性の奇怪な行動の理由を考えていると1人の男が入店してきた。あれは路地裏にいた坊主頭の青年。
宮下は気づかれないようにメニュー表を顔の前に立てて青年を観察する。青年は女性の隣にある四名がけテーブルの横へ立つと、そのまま直立不動で店の入り口を見つめた。
それからかれこれ10分ほどして、店にもう1人今どきの見た目をした男がガニ股で入ってくる。すると青年の硬直がようやく解けた。ガニ股男は坊主頭の青年のアニキだろうか。
アニキは苛ついた様子で坊主へと文句を言っている。坊主が注文しにレジへ向かうと、女性客が自分達のことをチラチラ気にしていることを察したのか、戻ってきた坊主と一緒に席を移動した。
そこは子連れママ友会などで使われそうな広々とした小洒落た半個室。そこを反省部屋にするヤンキーが2人。どう見てもミスマッチである。
部屋からは時折大きな声がする。「お前、マジやばいな!」とアニキの呆れたような笑い声。
いったい何を話しているのか。どうやら女性も気になり落ち着かないようで一度トイレに行った後、少しして店を出て行った。
宮下はトイレへ行くふりをして、部屋の前で聞き耳を立てた。
坊主が少し声を張るように言った。
「俺もpotesakulaさんの書く原動力となった、あの薬が欲しいっす!」
「ばか!声がでけぇよ!まぁ、またすぐに見つかるさ。お前の分もpoteさんの分もまた今度一緒に探そう」
「へへっ、そうっすね。オブラート、もう先に買っとくっすか?」
「お前の好きにしろ。もう行くぞ」
そういうとヤンキー2人は店を後にした。
potesakula、奴らの親玉か?そして、書く原動力と薬。オブラートがいるとすれば、粉や顆粒といったところか。宮下は店を出て本部へ戻った。
もう午後5時か。今日は金曜日。華金ともなれば夜の路地裏は人が増える。その中に難民もいるはずだ。そうなれば今夜の酒場は長丁場になるかもしれない。今のうちに仮眠を取っておくか。
宮下は午後7時にアラームをセットした。
次へ続く
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