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吉野家への「上納金」。紅ショウガ5個分の罪悪感を、肉2倍盛で洗い流してきた話

「人間は、300円で聖人になれる。」

以前の私は、テイクアウトの紅ショウガを握りしめて逃げ去るネズミだった。だが、今の私は違う。

あの日、私は敗走した。テイクアウトの紅ショウガを5個。店員の無表情に怯え、バグり散らした「健康意識」を盾に、震えながら逃げ帰ったあの日。私の心には「せこさ」という名の消えない澱(おり)が溜まっていた。

この穢れた品性を浄化し、吉野家という帝国に真の誠意を示すには、もはやこれしかない。圧倒的なリスペクトを、自らの財布を痛めて証明することだ。

 聖戦の火蓋:肉2倍の宣誓

私は今、店内のカウンターに堂々と鎮座している。レジで「つゆだく」をボソボソと口走った時の卑屈な私は、もういない。メニューを指差し、私は腹の底から声を絞り出した。

「牛カレー鍋御膳、肉2倍盛でお願いします」

プラス300円強の追加料金。それは、前回の紅ショウガ5個分の損害を補填し、さらに莫大な利益を上乗せする「贖罪の献金」である。店員さんは相変わらずの無表情だったが、私には聞こえた。その無機質な返事の奥で、「ほう、今日は攻めるじゃないか」という静かな畏敬が広がったのを。

王の待ち時間:肥大化する自意識

注文と会計を済ませた瞬間、私の背筋は鋼のように伸びた。たった数百円の追加投資で、私は吉野家という世界の「重要顧客(VIP)」へと昇格したのだ。

セルフのお茶を一口。かつての挙動不審な動きは微塵もない。
「あいつ、深夜に肉2倍いったぞ……奴こそ肉グラディエーターだ」
厨房の店員たちが私をそう呼び、密かに敬意を払っている(気がする)。私は今、かつてないほどに大きく、そして寛大な心を持っているのだ。

 

顕現:肉の山と紅ショウガへの決別

呼び出し機が鳴り、受け取りにいったが、鉄鍋を見て、私は息を呑んだ。
固形燃料の青い炎が、千吉監修のコク深いカレーを煮立たせ、その海を埋め尽くすほどの圧倒的な肉の絨毯が広がっている。

ここで、私は一瞬紅ショウガコーナーに視線を移し、すぐさま視界から外した。今日は、いいんだ。無料の紅ショウガという安易な快楽には頼らない。不純物一切なし。肉とカレーと己の財布だけで、私は過去の自分を焼き尽くすのだ。

一口食べる。うまい。美味すぎるぞおおお!
食べても食べても、鍋の底から肉が湧いてくる。ここは肉の泉か? 私は吉野家の石油王にでもなったのか?

野菜もたっぷり入っている。つまり、これは完全なる健康食品だ。前回の紅ショウガによる「微々たる食物繊維」など、この物量の前では無に等しい。

完飲:カレーは飲み物

肉の山を制圧し、幅広のきしめんを喉に流し込む。残されたのは、肉の脂とスパイスが溶け合った至高のカレーソースだ。これを残すことなど、吉野家戦士として許されない。

私は鍋を傾け、とんすいに汁を移し、そのままとんすいを手に取り、聖なる決句を呟く。

「……カレーは、飲み物だ」

 

一滴残らず、飲み干す。濃厚な旨味が喉を駆け抜ける。それは私の胃袋だけでなく、あの日汚した「品性」をも綺麗に洗い流していく感覚。完食。鍋もとんすいもまるで洗ったかのようにピカピカだ。これが、私にできる最大級のリスペクトである。

凱旋と、逞しくなった腹囲

私は席を立ち、食器を戻し、外へ向かう。支払った金額は前回の比ではない。だが、足取りは羽のように軽い。

「ごちそうさまでした」

店員さんは、相変わらずの無表情だった。だが、今の私にはそれが「よくやった、戦士よ」という祝福の沈黙に聞こえた。

品性は回復し、心はひと回り大きくなった。
……いや、大きくなったのは心だけではなかった。店を出た瞬間、ベルトのバックルから凄まじい反発を感じる。

「うっ……」

逞しくなったのは魂ではなく、物理的な「腹回り」だったのだ。私ははち切れんばかりの腹(物理的な還元の証)を抱え、満足げに戦場を後にした。

(※現在、ベルトの穴を一つずらしながら、この凱旋記事を書いている)


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