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吉野家の紅ショウガ5個。品性と健康の、ギリギリの攻防戦

吉野家の牛丼は、それ単体で完成されている。しかし、テイクアウトにおいて、真の本番は紅ショウガを投入してから始まる。

あの日、私は決めていた。今日こそは、心の底から紅ショウガを堪能すると。
 

レジ前の告白

吉野家のテイクアウトは、セルフオーダー端末から始まる。
私は画面の前で「私はごく一般的な、節度ある市民です」という顔をして、あえてカスタマイズなしの「並盛」をタップした。

だが、会計のためにレジへ向かった瞬間、喉の奥から本能がせり上がってきた。
財布を取り出しながら、私は抗えずに口走る。
「……あ、すいません。牛丼、つゆだくにできますか?」

店員さんは、相変わらずの無表情だ。
一言も発さず、ただ事務的に「つゆだく」の設定を上書きする。その「慣れっこ感」のある無関心が、私の欲望を透かされているようで逆に痛い。
私は「つゆだく」という罪の証を背負い、逃げるように無料トッピングコーナーへ視線を向けた。

権利の三連星と「健康」という名の盾

つゆだくの不摂生を浄化するには、もはやこれしかない。
私は紅ショウガの小袋の前に立った。

まずは1個目。これは挨拶だ。
続いて2個目。黄金比へのステップ。
そして3個目。ここまでは「紅ショウガ好きの良識ある市民」としての正当な権利だ。

だが、私の指は止まらない。4個目を前にして、脳内の理性が「やりすぎだ」と警報を鳴らす。しかし、私の健康意識はこう結論づけた。
「これはトッピングではない。食物繊維だ。私は今、サプリメント(漢方)を摂取しているのだ」
そうだ。つゆだくという塩分と糖分の暴力に挑むには、生姜による「医療行為」が必要不可欠なのだ。今だ! 4個目をシュート。

さらに5個目。もはや「健康」という言葉は強欲を隠すための薄っぺらな盾でしかない。だが、5個あれば私は今日、無敵の健康体になれる。野菜不足の現代社会への抵抗なのだ。

6個目の禁忌、そして無表情な審判

勝利まであと一歩。しかし、そこで私は見てしまった。魔の6個目を。
「5個も6個も誤差だろう。さらなる健康の高みへ」
その慢心が命取りだった。6個目に指が触れた、その刹那。

バチィィッ!
作業をしていた店員と、目が合った(気がした)。

店員は、相変わらずの「なんともない無表情」だ。
おそらく私が何個取ろうが、視界にすら入っていないだろう。だが、その完璧な「無関心」こそが、6個目を狙った私の卑劣さを、これでもかと残酷に照らし出した。

「ヒッ……!」
私は掴みかけた6個目を放り出し、5個の戦利品を抱えて店を飛び出した。私は今、吉野家という戦場で、背中に冷や汗を流しながら敗走している。

黄金の海に沈む、夕焼け

帰宅後、私は「つゆだく」の蓋を開ける。そこには黄金のつゆがひたひたに満ちた、美しき大海原が広がっていた。
そこに、5袋分の紅ショウガを一点に投じる。

茶褐色の海に真っ赤なショウガがじわりと浸透していくその光景は、まるで穏やかな海に沈みゆく巨大な夕日のようだった。
「ああ、なんて健康的で、なんて美しいんだ……」

一口食べる。……背徳の味だ。
舌を刺す過剰な酸味。それを包み込むつゆの旨味。品性と引き換えに手に入れたこの「夕焼け」は、あまりにも満ち足りていて、あまりにも美味い。
だが、完食した私の心には、なぜだか虚無感が残っていた。

贖罪の誓い

私は誓った。この「せこさ」で汚した魂は、吉野家への利益還元でしか浄化できない。

待ってろ吉野家。数日後、私は「カレー鍋御膳 肉2倍」で再戦を挑む。
あの時の5個分の恩義、利子をつけてきっちり返させてもらう。この借りは、肉の物量で正々堂々と清算するのだ。


【後日談:聖戦の記録】

数日後、私は誓い通り、吉野家という帝国へ「上納金」を納めに再訪した。
5個の紅ショウガで汚れた品性を、肉の物量で洗い流す。
深夜の店内に響く、グラディエーターの咆哮を聞け。

▼ 続きはこちら:吉野家への「上納金」。紅ショウガ5個分の罪悪感を、肉2倍盛で洗い流してきた話



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