改めてサッカーと野球
この間の冬季五輪の時も思ったが、最近、大きな国際スポーツイベントは直前まであまり盛り上がらない。NHK以外のテレビメディアがあまり取り上げないのが大きいのではないか。
しかしひとたび始まって連日試合が放映されると、たちまち盛り上がる。メディアも連日話題にするし、選手にも大いに注目が集まる。今、まさにたけなわのワールドカップがそうだ。
大谷翔平はサッカーにはいない
これ、確かに地上波民放やNHKが連日「ただで」放送しているのが大きいのだろう。
対照的に今年のWBCは、Netflixの独占放送で地上波民放でもBSでもNHKでも試合中継はなかった。それでも事前の盛り上がりはかなり大きかったし、大会も大いに盛り上がった。「テレビで見ることができなかった」という不満の声はあったにしても。
WBCに関しては私は「取材者」だったので、客観性にやや欠けるかもしれないが、ワールドカップが「にわか」ファンが多いのに対してWBCは「おなじみ」ファンが多いように思った。
直接的には、それは「大谷翔平」の圧倒的な存在感が大きいのだろう。野球に全然関心がなくても、大谷翔平は好きで、その話題に飛びつく日本人は本当に多い。サッカーでもかつての中田英寿は、それに近い存在だったと思うが、今の日本サッカーには、子供からじいちゃんばあちゃんまで、日本人みんなが知っているような人気者はいない。

1993年
Jリーグが始まったのは1993年、当時の日本でプロスポーツと言えば実質的にプロ野球と大相撲しかなかった。
巨人が圧倒的に強かった時代は去っていたが、まだ夜7時の「巨人戦ナイター」の視聴率は20%をキープし、巨人中心にプロ野球は回っていた。パ・リーグでは近鉄の野茂英雄が台頭、オリックスのイチローは2年目でまだ鈴木一郎だった。パ・リーグのこの年のスローガンは「SEXYパ・リーグ」、何を考えているのかよくわからない。
まだMLBは遠い海の向こうだったし、国内には商売敵もいなかった。
バブルの余韻も残っていた。
当時の「週刊ベースボール」などをめくると、昭和から平成になった直後のあの時代は、プロ野球が何の危機感も抱かずのさばっていた印象だ。ずいぶんのんきな時代だったと思う。
プロ野球が反面教師
この本を書くために、2016年私は首都大学東京の理事長室に、川淵三郎さんを訪ねた。
「僕はプロ野球を反面教師にしたんだよ、Jリーグではプロ野球のようにファンとは呼ばずにサポーターと呼ぼう、コミッショナーと呼ばずにチェアマンと呼ぼう、ビジネスモデルも全部、プロ野球を反面教師にしたんだ」
79歳だった川淵さんは、素晴らしく明晰な言葉で、Jリーグ、日本サッカーのビジネスモデルを紹介した。
牢名主のような「ボス」がのさばる日本野球の旧弊さに嫌気がさしていた私は、すっかりJリーグの信奉者になった。
残念ながらサッカーそのものは、その当時も今も全然面白いとは思わないし、そもそも「わからない」のだが、ビジネスモデルとしては、Jリーグのほうが、はるかにすばらしい、そう思い続けてきた。
1996年に川淵三郎チェアマンが主導して発表された「Jリーグ100年構想」は、シンプルで力強くて、日本サッカーの未来を象徴する言葉だった。
・あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること。
・サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。
・「観る」「する」「参加する」。スポーツを通して世代を超えた触れ合いの場を広げること。
まさにJリーグ、日本サッカーはこの構想の下に発展してきたのだ。

「100年構想」のゆがみ
しかしながら、ここ数年、特にコロナ禍以降、Jリーグ、日本サッカーにはさまざまな問題が噴出するようになった。
その根源にあるのは「急すぎたエキスパンション」だろう。1リーグ10クラブで始まったJリーグは今や3リーグ60クラブ、NPBはこの間、一部球団が三軍、四軍を作ったが基本的には2リーグ12球団のままだ。
急速な拡張政策にともなって必要となる「人材」「資金」「マーケット」のいずれもが不足していた。
日本では、プロスポーツは、もともとが非常に厳しいビジネスだ。日本で「金を払ってスポーツを見る」習慣があるのは、東京、大阪、名古屋など大都市圏の人だけだ。田舎の人は、高校野球を観に行くくらいであとはテレビで見るだけだ。
Jリーグ、それもJ3の試合を金を払って見に来てもらうのは至難の業だ。そしてそれをビジネスにするのはさらに難しい。
今の大部分のJ3のクラブ運営は「スポンサー収入」に頼っている。この点野球の独立リーグと同じだ。
しかもJリーグは、J1、J2、J3それぞれに本拠地スタジアムの「規格」を定めている。サッカーが強くても本拠地の整備ができないと、昇格できないなど難題を設定している。
そこで、地元自治体に連携を申し出るのだが、観客動員も売り上げも見込めない弱小クラブは、どうしても行政に依存しがちになる。「税リーグ」というひどい憎まれ口は、結局のところ「100年構想」のゆがみからきているといってもよいのではないか?
2004年球界再編以降は…
これに対してプロ野球は「2004年球界再編」を契機として急激に変わった。12球団が地域密着をベースとした「独立採算」へと舵を切ったわけだ。
12球団は、親会社が支援のもと大きなリスクを踏まずにビジネスモデルの転換に成功した。
そしてファンクラブをベースとしたヘビーなリピーター政策で観客動員に成功した。
2020年のコロナ禍では、親会社が球団を救った。親会社のない広島もマツダなど地元財界がサポートしたと思われる。
これに対して、Jリーグは親会社の支援を受けたクラブもあったが、多くはJリーグの「配分金」つまりDAZNとの大型契約を原資とする資金によって救われた。
取材をしていてしみじみ思うのは、最近のNPBの各球団には「優秀な人材」が集まっているということだ。
すこし前ならJリーグなどに行ったに違いない優秀な「野球上がりではない」人が、球団経営の中枢を担うようになった。
野球上がりで、球団にしがみついているような元野球人はずいぶん減った。
その点は大きな進歩であり、プロ野球は大きく進歩したとは思う。

自分たちだけ
しかしプロ野球は依然として「自分たちの繁栄」だけを考えている。今や重要な人材供給源になっている独立リーグは、利用はするが連携しようとはしない。ファーム・リーグに2球団を作ったが、彼らを仲間に加えることはない。そしてここまで観客が増えているのに、エキスパンションはやらない。
その点、サッカー界全体のことを常に考えるJリーグとは、まだずいぶん「差」があるのではないか?

