⚪️掌編小説|エレメンタリーファンタジー
自由帳の使い方がよく分からないのは、あたしがエルフだからかな。自由の概念が人間と少し違うからかも。
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ていうか、あたしをこの国の教育制度に無理やり押し込めないでほしい。
古代エルフ語の授業もないんだもの。やってられないわ。まったく。
だいいち、あたしは200歳なんだから。200歳のエルフで、しかも上級魔法師。無詠唱で魔法を発動できるんだから。
なのにどうして小学三年生なのよ!
「アリエルちゃん何をブツブツ言ってるの?」
「ううん。気にしないで。これ以上ティナちゃんの記憶を消したら間違いなく痴呆になっちゃうから」
「キャハハ、何それ、チホー、チホー」
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身長が130cmだからかな。
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担任教師は若い人間の女だ。
おっぱいが、つねに、大きい。
むふんっ。
ぱふぱふとか、するのかな。
「みなさん、おはようございます。今日は、みなさんに、嬉しいお知らせがありまーす」
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転校生がやって来た。
***
「はい拍手ー」
「先生、紹介ありがとう。そして、やあ、みんな。おれの名前はゴンゾー。ゴンゾーと呼んでくれ」
ゴブリンだよね、あいつ絶対ゴブリンだよね!
***
あたしの隣にゴブゾーが来た。ティナちゃん→あたし→ゴブゾーという並び。
「おう、珍しいな、エルフか。仲良くやろーぜ」
「おまえ自由帳って知ってる?」
「ああ、知ってるよ」
「嘘つけ!」
「なんだおまえ知らねーのか?」
「知ってるよバカ、黙れ!」
「ア、アリエルちゃん?」
「はーい、そこ静かにね、アリエルさんも仲良くしてあげてねー、ほーんと、負けず嫌いなんだから」
***
一時間目は「算数」だ。
「ではみなさん、今日は、割り切れない割り算の勉強をしましょうね」
「おまえ教科書は?」
転校生には制服問題と教科書問題がある。あたしにも経験があるから分かる。
「ああ、別に、教科書なんてなくたって」
「強がらなくていーんだよ、ほら見せてやるから机くっつけな」
「おまえ、お、おれとくっつきたいのか?」
「そういうのいーから、ほら」
ゴブゾー、心なしか赤くなって、照れてんのかな。
それにしてもあたしったら、ゴブリンに優しくするなんて、まるで割り切れない割り算ね。
「おまえの教科書、落書きだらけだな」
「おっと」
***
休み時間になるとゴブゾーの周りにみんなが集まって来た。主に男子たち。
男子の少ないクラスで、しかも奇数だったから、みんな熱烈大歓迎なのだ。
「なあなあ、おまえスポーツは好きか。ドッジボールが得意だとありがたいんだけどなー」
「ああ、かなりな、すばしっこいからおれに当てるのは無理だと思うぜ」
「そうか、そうか、最高だなあ、なあ!」
「ねえねえ、ゴンゾーさん」
ティナちゃんがインターセプトした。
「ゴンゾーさん、うさぎは好き? クラスでうさぎを飼っているのだけど、男子のお世話係がいないのよ、ゴンゾーさんやってくれないかなー」
「おお、うさぎか、美味しいよな?」
***
次の休み時間、ゴブゾーはひとりだった。
ティナちゃんは怯えている。
「なあ、ゴブゾー」
「う、うん?」
受け入れた。
「その万年筆、イカしてるね」
「あ、ああ、これ、うちのパパが貿易会社をやっててね、海外のいろんな珍しいものを仕入れてくるんだ」
「なんか違うわけ? ふつーのと」
「龍の牙なんだ」
教室中がビクッとなって、誰かが驚いて椅子を引いた。ガタッという音が響いて静まり返った。
な、なんかごめんよ。
***
給食の時間。
あたしがいつものように食後のポーションを飲んでいると、ゴブゾーが「それ何?」と訊いてきた。
「ポーションだよ」
「ポーション?」
「魔力と免疫力を高めてMPも増える」
「MPって?」
「マジックポイント。ポイ活だよ」
「ふうん」
***
まだ初日だというのに、うさぎの件以降、だれもゴブゾーとからまないし、ゴブゾーも空気を読んで大人しくなってしまった。
出来ればみんなの記憶からさっきの件を消してあげたい。でも、あまり派手なことはしたくない。事態を大きく動かすと必ずしっぺ返しが来るから。
***
翌日、うさぎが消えた。
***
教室に入るとティナちゃんが泣いていて、ゴブゾーが心なしか青ざめている。
「あっ、アリエルちゃん、うさちゃんが、うさちゃんが……」
「おれじゃねーよ、どうしてみんなおれをそんな目で見るんだよ、おれがどうしたっていうんだよ!」
ティナちゃんが言うには、朝ごはんをあげようとうさぎ小屋に行くと、そのときにはもう、うさぎがいなくなっていたらしい。
ティナちゃんは慌てて職員室に走る。先生に言わなくちゃ。そして、その途中でゴブゾーを見かけたという。
「食べてねーよ! 生でなんて行かねーよ」
誰かが小さく「キャッ」と叫んだ。
***
「先生はなんて言ってるの?」
ティナちゃんに訊いた。
「とりあえず教室に戻りなさいって、それだけ」
「あたしは、ゴブゾーのことも、ほかの誰のことも疑いたくない。あたし、うさぎ小屋を見てくる」
「おれも行くよ」
「おまえはダメ!」
「何でだよ!」
「まだ朝の会まで時間があるから、みんなと一緒に待ってて」
***
バビューン
***
あたしは空っぽのうさぎ小屋を見ている。
そして、この空間を支配する精霊の力を借りて、目前の残像を巻き戻す魔法を発動させた。
しばらくするとティナちゃんが後ろ向きに戻って来た。足下に落ちているうさぎの朝ごはんが驚いた様子のティナちゃんの手にシュルシュルと収まり、またティナちゃんが後ろ向きに離れていった。
さらに巻き戻すと、うさぎがぴょんぴょんと後ろ向きに跳ねながら戻って来て、小屋の扉の隙間から中に入り、そして眠った。
暗い夜が夕方になり、ティナちゃんが後ろ向きに戻って来た。放課後の、晩ごはんだ。
単なる鍵の閉め忘れだった。
***
その後の展開は、ちょっとした見ものだった。
校庭のほうから悲鳴が聴こえたので駆けつけてみると、大型の野良犬がうさちゃんを咥えている。そのまわりをクラスのみんなが取り囲んでいた。
あたしは危険を感じて魔法を、けど次の瞬間、ゴブゾーがお得意の俊敏さで犬を押さえ込んだのだ。慌てた犬は思わず口をあんぐり開け、その隙にうさちゃんはティナちゃんのもとへと跳ねていった。
犬が恐怖のあまり激しく暴れたので、あたしは小さく魔法をかけて大人しくさせた。
このぐらいはさせてよね。
***
ティナちゃんのゴブゾーを見る目が変わり、ゴブゾーもどこか誇らしげだ。男子たちは集まってゴブゾーに手荒い祝福をしたりして、おまえら単純だなーとは思ったけれど、こういうのも悪くない。
「いろいろありがとな」とゴブゾーが言った。「おまえは信じてくれると思ったよ」
あたしは何も言わなかった。小学生ごっこの余韻に浸っていたかったのだ。
「もし、おまえが自由帳の使い方を知りたいときは言ってくれよな。きっと、教科書の落書きが減ると思うぜ?」
ゴブゾーが笑い、あたしも笑った。
***
「みんなでこの子をお家に戻しに行きましょうよ!」
ティナちゃん。おまえのせいだぞ、とは言わなかった。
ティナちゃんが忘れっぽいのは、もしかしたらあたしのせいかもしれない。ほんの少しだけそう思ったけれど、あまり深くは考えないことにした。
あたしたちはうさぎを小屋に戻し、そして笑顔で教室に戻った。
(おわり)
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