⚪️掌編小説|去る者は追わず
これは追いかける物語。
***
ハルに呼び出された。
自分から切り捨てておいて「去る者は追わず」なんて笑える。てかムカつく。それこっちのセリフだから。こっちこそ追わねーから。
よほど腹に据えかねたのか鼻息が荒い。
良い感じになりかけた相手がどうしてか急に引いたらしく、それがわりとバッサリ斬るようなやり方だったものだからハルの怒りが収まらないのだ。
ねえ、それでカードは持って来てくれた?
うん。言われたとおり持って来たよ。
占ってよ。
何を?
恋愛運。
いやぼくは占い師じゃ──
詳しいじゃん。
そりゃまあ、興味あるから。
ハルに必要なのは占いじゃなくて当事者同士向き合う勇気なんじゃないか。なんて言う資格ないよな。
あいつが先に気のあるそぶりしてきたんだよ。錯覚だったのかなあ。どう思う? そんでさ、去る者は追わずってどういう意味よ。
分かんないよ。
だから占ってよ。
鑑定は気が進まない。特にハルのとなると、どうしたって入り込んでしまう。濁ってしまう。
むふー。とハル。
やれやれ。とぼく。
仕方なくカードをシャッフルしていると手にハルの息がかかり、そんな近くから見たら目が回るだろうという距離でなにか呟いている。「あいつの気持ちを教えてよ」と呟いている。
[正]18:月
[正]17:星
思わず「ああ」と言ってしまった。
今「ああ」って言った。何が「ああ」なの、良くないの?
いや、そうじゃなくて、とりあえず読むね──
ハルの気持ちなのか相手の気持ちなのかは分からないけれど、見かけ上の出来事と本当の気持ちは少し違うかもしれない。そして、心の中にある本当の気持ちは、憧れのような、ちょっと手の届きにくいもののように感じる。
案の定だ。
へー、なーんだ、そういうこと? 憧れみたいなものなんだね。あたしのこと、好きなんだね!
心臓の音が、少しやばい。
あいつにとってあたしは高嶺の花、ってことよね。そんで戦う前に諦めて、切り捨てて、追わないとか強がって、ばっかみたい!
そ、そうなのかな。
ありがとう、元気もらったわ!
どういたしまして。
じゃあ、あたし行くね! あいつと話してくるわ。ここの珈琲代よろしく。今度、埋め合わせするから!
去る者は追わず、か──
月は隠された本音、星は希望を表す。
(おわり)
🔵948文字
