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【小説】ロックバンドが止まらない(384)


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 そして、「Strawberry Gradation」を演奏し終えた次には、神原たちは同じく『(WHERE IS THE)LOVE&TOP?』の収録曲である「charges」を披露していた。アルバム曲である「charges」も観客は何の問題もなく乗ってくれていたから、神原たちとしても良い流れが今この会場に生まれていると思える。

 だから、神原たちはスムーズに、次の「晩夏の情景」の演奏にも入ることができた。「晩夏の情景」はシングル曲ではあるけれど、ここまでに披露してきた曲と比べると、落ち着いた曲調が特徴の曲だ。当然テンポを落としたバラード曲には、アップテンポで盛り上がりやすい曲とは、また違った難しさがある。

 それでも、神原たちの演奏はここでも集中できていて、流れる川のように澱みない。音にも情感がこもっていて、神原は自分で演奏していながら、浸ってしまいそうにさえなるほどだ。

 そして、それは観客も同様だったのだろう。目に見える反応はなくとも、多くの観客がしっかりと自分たちの演奏に耳を澄ませて聴き入れていることは、会場に漂っている雰囲気から神原にも分かる。

 落ち着いたテンポの曲でも、音楽を聴く雰囲気は少しも途切れておらず、それは神原たちがここまでのライブで少しずつでも、観客の心を掴め始めているからに他ならないだろう。それが分かったから、神原たちもより演奏に身が入っていき、会場には緩やかな熱が漂っていた。

 そして、「晩夏の情景」を終えたところで、神原たちは再び小休止がてらライブMCに入った。とはいえ、その前に演奏した曲調が曲調だったから、神原たちはいきなりテンション高く観客席を煽るわけにはいかない。だから、神原たちはまずはしっとりとした様子で、喋り始める。

 それでも、今日のここまでのライブの印象などを園田たちと話していると、神原も徐々にテンションは再び持ち上げられていくようだ。ステージ上には時折笑いさえ生まれていたし、観客席の雰囲気も健やかで、多くの観客が自分たちのライブMCを受け入れてくれていることが、神原には分かる。

 そうして、会場の空気もいくらか解けたところで、神原たちはライブMCを切り上げ、再び久倉のカウントに合わせて、一斉に演奏を開始させていた。

 それはまたシングル曲となっている「LAGUH GEOMETRICS」で、神原たちとしてもライブで披露する頻度は、他の曲と比べても高い。

 だから、前列にいるような自分たちのファンやリスナーだけでなく、そうではない人たちの間でも知名度は高かったようで、曲が始まった瞬間からリズムに乗って身体を揺らしてくれる人の割合は、神原にはここまででも最多に見える。会場はまた一瞬にして音楽を聴くモードに切り替わったようで、熱を帯びていながらも清々しい雰囲気が、ステージ全体を包む。

 それに刺激されるように神原たちの演奏も、最後のブロックに入ってますます勢いを増していくようだ。元々テンポも速めで、盛り上がりやすい曲であることもあったのかもしれない。多くの観客の心も沸いていることが、神原には見える範囲の観客の表情と、全体的な雰囲気から分かる。

 自分たちは紛れもなく良い流れを生み出せていて、またそれに十分に乗れているだろう。だから、神原たちも自信を持って演奏を届けられる。

 すると、観客も今日ここまででも一番というような反応で応えてくれていて、神原たちも輪をかけて、自分たちでも気持ちがいいと感じられる演奏をすることができていた。

「LAGUH GEOMETRICS」の演奏を終えて、会場の雰囲気は始まる前とは比べ物にならないほど高まっている。その実感があったから、神原たちもある程度拍手を聴いたところで、ためらうことなく次の曲の演奏に入った。久倉が発したカウントに合わせて、神原たちはまた一斉に音を鳴らし出す。

 そして、イントロを演奏し終えると、神原たちはすぐにサビに入っていた。「秋の色彩」には、サビで観客がハンドクラップを鳴らすタイミングがある。そして、その音量が神原たちには、自分たちがどんなライブができているか、どれほど観客の心を掴めているのか、一つのバロメーターになっている。

 そして、今日のそれは神原たちにとっては、平均よりも良いと思えるものだった。イントロでピンと来ていたのだろう。最初にハンドクラップを鳴らしてくれていたのは前列の観客が中心だったが、それでも二回目ともなると多少なりとも要領が分かったのか、後方の観客まで手を叩いてくれる人も見え始める。それは回数を重ねる度に、さらに大きくなっていく。

 いくら「秋の色彩」が同名アルバムのリード曲で、動画投稿サイトにミュージックビデオが公開されていると言っても、きっと観客の中には今初めて聴いた人もいることだろう。

 それにも関わらず、ハンドクラップは鳴らされた瞬間に空気をはっきりと震わせるようだったし、タイミングも合った響きは神原にも爽快に聴こえる。きっと自分たちがここまでのライブで観客の心を掴めていなければ、こうはなってはいないだろう。

 そのことが実感できたから、神原たちはその後の演奏もしっかりと行うことができていたし、二回目のサビともなると、手を叩いてくれる観客の割合はさらに増える。会場の盛り上がりは上昇の一途を辿っているようで、神原たちも疲労もさほど感じずに、演奏に熱中できていた。

 そして、「秋の色彩」の演奏も上々な出来で終えることができた神原たちは、そのままこの日最後の曲の演奏に入っていく。

 その曲は音源とは違って、神原の弾き語りで始まっていた。その曲を演奏しだした瞬間、観客席が後方までにわかにどよめいたのが、神原にははっきりと感じられる。

 神原たちがこの日の最後に選んでいた曲は、「メイクドラマ」だった。未だにリリースされた時から神原たちの代表曲の一曲であり続けているから、きっと観客にも幅広く浸透していたのだろう。自分の歌と演奏に観客席全体が聴き入っている様子が、神原にもしかと感じられる。一人で弾き語っている間も、緊張よりも心地よさを感じられたほどだ。

 そして、神原が最初の弾き語りパートを終えると、久倉のドラムに合わせて、神原たちはまた最初から一斉に演奏を開始させる。すると、神原たちの演奏は出だしからしっかりと息が合う。園田たちも自分と同様ここまでのライブに手ごたえを抱きながらも、それでもまだ気が引き締まっていることが神原には感じられる。

 鳴っている音も凛々しさを帯びているようで、歌い出してみても神原には自分の歌声に疲れている感じはせず、それどころか曲を重ねていくうちに、調子が上がっていっている感覚さえする。

 演奏をしながらでも「今日ここまでで一番楽しい」とも思えて、それはきっと観客も同様に感じていたのだろう。「メイクドラマ」が神原たちの中でも一二を争うほどの認知度がある曲であることも相まって、リズムに乗っている観客の数もこれまでで一番多いのは、神原にも疑いようのないことに思える。サビで振り上げられた何百もの手は「突き上げる」といった表現がふさわしくて、会場中が高揚感で覆われているかのようだ。

 きっと今自分たちは、トップバッターとして会場を温める役割以上のライブができているのだろう。そのことが神原たちには誇らしく感じられて、演奏や歌声にもさらに熱がこもっていく。千人もの観客と一緒にかけがえのない時間を共有できていることが、神原には例えようもなく嬉しい。

 だから、その感覚を損なうことがないように、神原は園田たちとも共に、最後まで気持ちを乗せながらも、しっかりと地に足が着いた演奏を全うしていく。しっかりとまとまった演奏に、一組目のライブだとは思えないほど盛り上がってくれている観客。

 それらが織りなす全能感さえ感じながら、神原たちは最後の一音まで演奏をやりきる。アウトロを延長させてから、一斉に演奏を切り上げる。

 すると、観客席から鳴らされた盛大な拍手が神原たちを包み込んだ。それは登場したときの何倍もの音量にも感じられて、今日どんなライブができたのかを神原たちに改めて印象付ける。神原から見える範囲でも、観客は全員が清々しい表情を浮かべているかのようだ。

 だから、神原は「ありがとうございました! Chip Chop Camelでした! これからも楽しんでいってください!」と、胸を張って観客に呼びかけることができていた。

 すると、観客ももう一度拍手を返してくれて、神原たちも満ち足りた気分でステージを後にできる。もちろん四五分間全力でライブをしたから息は上がっていたけれど、それも神原たちにとっては勲章だったし、ステージを一歩降りた瞬間から、神原は色々あったこの一年を良い形で締めくくることができたという、確かな実感を得られた。


(続く)


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