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多重人格 〜 淳一の苦悩  〜  (創作 フィクション)

人間は許容を超えた心理的圧迫を感じた時に自己防衛本能として無意識下で新たな人格を作る事がある

それが多重人格である

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淳一は潔癖症であった 

不潔な事が嫌いだった

特に臭いに敏感だった

夏場等に汗の臭いをまき散らしている人間を心から軽蔑していた

そんなある日、淳一に体の異変が起こった

昼休みに同僚と話をしている時、淳一が言葉を発する度に同僚の顔が微かに歪んだ

元来繊細である淳一はその表情は人間が異臭を感じた時に出るものであるのを過去の経験から知っていた

淳一はすぐに会話を中止してトイレにかけこんだ

トイレに入った瞬間、両手で口と鼻を覆い  はぁ~  と息を吐いて確かめて見た


信じられなかった…


両手の中に口から吐いた息が充満した刹那…


なんと、うんこの臭いがしたのである


無論、淳一は口からうんこをしたことはないし、当たり前だがうんこを食べたこともない


しかし、紛れもなく淳一の口からは


今日のうんこ、ちょっと固めだったな 


という時にでる臭いが発せられていた


淳一は膝から崩れ落ちそうになったが、トイレの床が汚いのを思い出して踏みとどまった

ショックでフラフラになった淳一は少しでも座りたくて、便意も催していないのに洋式便座のある個室に入った

直前に誰かが固めのうんこをしたらしく、便器にはごっそりとそのなごりがこびりついていた

個室に入った瞬間に強烈な臭いがしたが、もはやその臭いは なごり便 からでているのか自分の口からでているのかわからなかった


次の日から淳一は毎日血だらけになるほど歯を磨いた

歯を磨いて、両手で口と鼻を覆い はぁ~ と息を吐く

歯を磨いた瞬間はいつも大丈夫だった

そして昼休みにトイレで はぁ~ とやってみる…

固めのうんこの臭いがする…

フラフラになり、個室に入る…

なごり便があり、口が臭いのか便器が臭いのかわからなくなる…  

そんな毎日を繰り返していた


日々の強烈なストレスはついに淳一の心の許容範囲を超え、それを負担するために防衛本能がもう一人の人格を作り上げた

その人格こそが


潤二 であった


多重人格は色々な性格の人格が1人の人間に存在するというのが一般的なイメージであると思うが、淳一と潤二の場合は違っていた


淳一と潤二の性格は全く一緒であった


貴重面で潔癖症の淳一は例え自分が作り出した人格でも、全然違う性格の人間に自分の部屋を使われたり、仕事を任せたりするのは耐えられなかった

だから、作りだしたのだ 

全く一緒の性格の別人格、潤二を‼


淳一と潤二は1日おきで入れ替わっていた

彼らは自分が体を担当する日を出勤と呼んでいた

潤二が出勤の日、淳一の意識も目覚める

ただし、意識はあるがその日の体のコントロールする権限は潤二が持つ

淳一が出勤の日もまた同じであった

こうして、淳一は感じるストレスを半減させて正気を保っていた…はずだった

淳一と潤二は全く同じ性格だと思っていたが、わずかな相違点があった

それは…口臭ケアのために買うものが…

淳一がミンティアであるのに対して、潤二はフリスクであることだった


ほとんどの人は気にしない話かも知れない

しかし、細かい事が気になる性格の淳一には潤二の愚行は許せるものではなかった

フリスクとミンティアでは入っている内容量はほぼ変わらない

しかし、値段が違うのだ 

フリスクはミンティアの倍近くの値段である

例え安価なものであっても、その値差は一ヶ月で数千円になり、1年間で数万円になる


なぜ、それがわからないのだ


激しく憤っても、潤二が出勤の日には体のコントロール権のない淳一にはそれをとめる術はなかった


1日おきに繰り返えされる潤二の愚行は淳一の心を激しく圧迫していくようになった

激しいストレスに押しつぶされそうになったある日、淳一は自分が出勤の日に意識はあるが出勤できないのに気がついた

無論、潤二も出勤していない

そう、その日が

第三の男、順三郎の誕生の日であった


順三郎は、ミンティアもフリスクも買わなかった

口臭ケアとして順三郎が行う行動は、ポケットに歯みがき粉を忍ばせておいて、それを指につけて定期的にペロリと舐めるのだ


月曜日はミンティアを舐め、火曜日はフリスクを舐め、水曜日は歯みがき粉を舐めた

 
淳一の出勤は3日に一度になったが、歯みがき粉を定期的に舐める日ができたことにより、食道と胃が荒れて結果的にはさらに口からでるうんこの臭いが酷くなった

臭いは酷くなるし、手を舐めるのは不衛生だし…淳一の不満はつのり、また人格は増えた

その後もストレスはたまり続け、人格は増え続けた

ただし、淳一の無意識はもう名前を考えるのが面倒くさくなったようだ

増えていく人格の名前は

純四郎、純五郎、純六郎、純七郎…という規則性のある名前になっていった

昨日が 純三百六十四郎 の出勤であったので、今日は久しぶりに淳一の出勤だ

年1回の出勤になった事で淳一のストレスは軽蔑され、ウェルビーイングで幸せに暮らしましたとさ


(1993字)

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この作品は花澤薫さんの主催する

#第二回すべて失われる者たち文芸賞  に参加しています  









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