全くすっきりしない。放送法を巡る議論の中、同法が定める政治的公平について、総務省幹部が「放送事業者の番組全体を見て判断する」との国会答弁を繰り返した。かつて高市早苗総務相(当時)が、一つの番組でも判断され得ると指摘したのと趣が違う。でも、政府は高市答弁はそのままに、「解釈の変更はない」と押し通すつもりらしい。放送法の前提である表現の自由を脇に置き、曖昧な幕引きを図っていいのか。(山田祐一郎、中沢佳子)
◆総務省「番組全体で、従来の解釈変更ない」
「一つの番組ではなく、一つ一つの番組の集合体である(放送局の)番組全体を見てバランスが取れたものかどうかを判断する」。3月17日の参院外交防衛委員会。放送法4条が定める「政治的公平」の解釈について、立憲民主党の小西洋之参院議員の質問に、総務省の山碕良志審議官は何度も同じ説明を口にした。「従来の解釈は何ら変更がない」
冒頭の説明は確かに、元来の政治的公平の解釈だ。しかし、これに突然、「補充的な説明」を加えたのが安倍晋三政権下で総務相だった高市早苗氏だった。
2015年5月12日の参院総務委員会。自民党議員からの「政治的公平性が順守されているとは思えない放送番組が見受けられる現状は問題が多い」との質問に、高市氏は「問題意識を共有されている方も多いんじゃないか」と応じた。
その上で、「選挙の公平性に明らかに支障を及ぼす」「国論を二分するような政治課題について、不偏不党の立場から明らかに逸脱している」と二つの例を挙げ、「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁した。
◆16年に高市答弁踏襲の統一見解 「電波停止」も言及
総務省は16年2月、高市氏の答弁を踏襲する内容の政府統一見解を発表。高市氏は同月、違反を繰り返した場合には電波停止を命じる可能性にも言及した。
個別の番組での判断に焦点を当てた高市氏の答弁や統一見解は、一般的に解釈の変更ととらえられている。だが、今月17日の答弁で、山碕氏は公平性を判断する「番組全体」に「極端な場合を含む」と明言した。全体なのか、一つだけもあるのか、混乱しそうだ。
この後、松本剛明総務相は24日の会見で「政府統一見解の事実上の修正ではないか」と問われ、「そもそも統一見解はこれまでの解釈を変えたものではない」と述べた。高市氏答弁も統一見解も解釈変更ではないという位置づけで、撤回せずに押し切る構えだ。
◆高市答弁と統一見解 識者「安倍政権のメディア規制のため」
結局、全体で判断するなら、高市氏答弁や統一見解は蛇足。一体何のためか。
「当時、安倍政権は安保法制議論を進める上でメディアの統制が必要と考えていた」。政治ジャーナリストの泉宏氏は振り返る。
14〜15年、安倍政権は集団的自衛権の行使容認の閣議決定や安全保障関連法の制定など、安全保障政策の大転換を推し進め、批判が集まっていた時期だ。
メディア統制と安保法制の関連について、泉氏は「高市氏が参院総務委員会の答弁で『国論を二分するような政治課題』と丁寧に例示したことからも狙いは明らかだ」と説明する。
一方、総務省放送政策課の担当者は、当時補充的な説明が必要だった理由について「国会の場で具体例について質問があったため」と、どこか受け身だ。
最近の説明と齟齬 が否めない高市氏の答弁や統一見解が維持されるのはなぜか。泉氏は「政権によるテレビへの規制を認めることになるため、政府としては当時、解釈を変更したこと自体を認めるわけにはいかないからだ」と指摘する。
◆在京局に相次いだ「公平」の要請
安倍政権が安保政策の大転換を進めていたころ、政府や与党から放送局への「政治的公平」の要請が相次いだ。
とりわけ、衆院解散を控えた201...
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