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  • 世界史とは何か (岩波講座 世界歴史 第1巻)

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世界史とは何か (岩波講座 世界歴史 第1巻)

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人類の過去の営みを叙述することが、どのように生まれ、変容し、人々にとって政治的・教育的にどのような意味をもってきたのかを概観する。とりわけ日本社会における「世界史」の展開を、専門家だけでない一般市民の歴史実践という観点から分析する。グローバル・ヒストリーやビッグ・ヒストリーの知見も取り入れた新しい「世界史」研究の全貌。

■目次
本講座の編集方針と構成について

展望|Perspective
〈私たち〉の世界史へ┄┄┄┄┄小川幸司
一、一人ひとりの世界史
二、世界史実践の軌跡をたどる
三、日本の世界史実践とその課題
おわりに――〈私たち〉の世界史へ

問題群|Inquiry
人は歴史的時間をいかに構築してきたか┄┄┄┄┄佐藤正幸
はじめに
一、キリスト紀年の成立と紀元前という概念の発明
二、キリスト紀年の変容と基軸紀年への道
三、キリスト紀年はなぜ世界的普及が可能だったか
四、アラビア数字がキリスト紀年の世界普及に果たした役割
五、キリスト紀年の世界普及と脱宗教化の諸相
おわりに

世界史のなかで変動する地域と生活世界┄┄┄┄┄西山暁義
一、「地域」と「地域史」
二、領域の境界
三、国民国家と地域
四、つながり・伝播・比較――地域の結びつきと結びつけ
おわりに

現代歴史学と世界史認識┄┄┄┄┄長谷川貴彦
はじめに
一、社会史パラダイム
二、転回1.0――物語と文化
三、転回2.0――空間と時間
おわりに

焦点|Focus
ジェンダー史の意義と可能性┄┄┄┄┄三成美保
一、世界史的課題としてのジェンダー平等
二、ジェンダー史の成立と発展――フェミニズムと隣接諸学
三、二一世紀のジェンダー史――新たな展開
四、非西洋世界のジェンダー史の進展
五、歴史学におけるジェンダー視点の主流化に向けて

「サバルタン・スタディーズ」と歴史研究・叙述┄┄┄┄┄粟屋利江
一、「サバルタン・スタディーズ」の登場
二、「下からの歴史」から「ポストコロニアル研究」へ
三、「サバルタン・スタディーズ」が問うたこと
四、二一世紀の「サバルタン・スタディーズ」

環境社会学の視点からみる世界史――先住者の生活戦略から探る持続可能な社会┄┄┄┄┄金沢謙太郎
一、〈人と環境〉の歴史
二、先住者たちの社会
三、食の生活戦略
四、交流の生活戦略
五、世界史から探求する持続可能な社会

「感染症の歴史学」と世界史――パンデミックとエンデミック┄┄┄┄┄飯島 渉
はじめに
一、ペストの歴史学
二、ペストの中国史
三、「歴史総合」という契機――パンデミックとエンデミック
おわりに――「ユニバーサル・ヒストリー」としての「感染症の歴史学」

ヨーロッパの歴史認識をめぐる対立と相互理解┄┄┄┄┄吉岡 潤
一、危機の三〇年
二、ポーランドにおける歴史
三、ポーランドにおける「過去をめぐる戦争」
四、歴史政策の求心力と遠心力
五、歴史認識問題をめぐる理想主義と現実主義

東アジアの歴史認識対立と対話への道┄┄┄┄┄笠原十九司
一、東アジアの歴史認識対立構造の変容
二、歴史研究者・歴史教育者による歴史対話の試み
三、戦争被害者との歴史対話――中国人戦後補償裁判運動
四、二一世紀の東アジアの歴史認識対立
五、日韓歴史共同研究と日中歴史共同研究
六、東アジア市民による歴史対話への道――「未来をひらく歴史」

新しい世界史教育として「歴史総合」を創る――「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」歴史学習への転換┄┄┄┄┄勝山元照
はじめに
一、高校歴史教育の転換と「歴史総合」の成立
二、神大附実践と主題的単元史学習
三、新指導要領下での「主題的単元史学習」の深化
おわりに

コラム|Column
デジタル技術を活用した歴史研究の展開┄┄┄┄┄後藤 真
「民族共生象徴空間」と高校「世界史」――『ウポポイ』upopoi(原意:「歌うこと」) ┄┄┄┄┄吉嶺茂樹
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前回刊行から四半世紀―― 「世界」のひとびとを、つなげる「歴史」を

wh_01

■ 編集にあたって

このたび『岩波講座 世界歴史』全二四巻を刊行することになりました。

西暦二〇二一年を生きる私たちの眼前には、深刻さを増す気候変動、猛威を振るう感染症、拡散する核兵器と原子力の「平和利用」に伴う諸問題、世界各地で深刻化するファクト(事実)や歴史認識をめぐる政治対立、少子高齢化の急速な進展と福祉国家のゆきづまり、依然として存在するさまざまな不平等の現実……などの光景が広がっており、暗雲が垂れ込める中で「未来」への道筋がいっそう見えなくなっています。

今回の『岩波講座 世界歴史』は戦後三回目の刊行となります。第1期の全三一巻は、高度経済成長と冷戦の只中であり、ヨーロッパ近代の歴史がいまだ私たちにとってのモデルであると考えられた、一九六九年という年に発刊しました。巻構成は、世界の諸地域を古代・中世・近代・現代の時代区分によってマス目状に明瞭に整理しており、世界史を貫く基本法則が意識されていました。これに対して第2期の全二九巻は、二〇世紀の終わりの一九九七年に刊行が始まりました。冷戦が終結して国際平和が世界に実現するかに見える一方で、世界各地の地域紛争が激化し、日本を含むいわゆる「先進国」の経済のゆきづまりが顕著になるといった、世界史の転換点のなかで、改めて歴史を振り返ることが、意識されていました。巻構成においては、研究の進展にともなって世界共通の時代区分をせず、各地域をそれぞれの通時的な展開のありようによって区切るA系列の巻と、時代の特色を共時的・地域横断的にとらえるB系列の巻を設ける工夫をしました。

その後の四半世紀の歳月を経て、世界のありようは激変し、歴史をめぐる研究や教育は大きく変化してきました。歴史学について言えば、文字史料をはじめとする多様な史料から歴史像をいかに実証的に解釈するかという方法が、コンピュータ技術の応用とあいまって格段に深化してきました。世界の各地域の史料が読み解かれ、グローバル・ヒストリーという名称で呼ばれるような世界の各地域の構造的なつながりを描く歴史が、注目を集めるようになってきました。一方で、人種、民族、ジェンダー、宗教、文化、国民国家というような概念と実態について、それらが歴史の中で形成され、変容してきたものであるということが明らかにされてきました。こうした新しい史料読解、世界の構造的な把握、人々の世界理解や存在形態をめぐる再検討を組み合わせながら、世界諸地域の通時的な歴史叙述は、多様に深められています。

『岩波講座 世界歴史』第3期の全二四巻は、次のような編集方針をたてました。第一に、すべての人に大学の授業のような研究の最前線を届けるという「岩波講座」の原点を大切にし、平易で明晰な内容になることを心がけ、知りたいことを調べることが容易になるように各巻が対象とする地域と時代をマトリクスによって示せるようにしました。その際、地域というもの自体が歴史的に変遷してきたことを見つめるとともに、従来のシリーズで視野の外におかれがちであったアフリカやオセアニアの歴史についても目配りをしました。第二に、グローバル・ヒストリーなどの世界の構造的把握について、それぞれの巻の論文が重視するようにしました。各巻は単なる地域史ではなく、その地域から見た「世界史」になっています。そして現代史など特定の巻については、同時代を地域横断的に見る構成にしています。第三に、各巻は分析対象のスケールが異なる三種類の論文から構成されています。対象地域・時代の通史を描く「展望」論文、通史の中で特に問題となるテーマを掘り下げる「問題群」論文、さらに個別的なテーマで時代像を補完する「焦点」論文です。第四に、歴史像を深めていくと同時に歴史を描く主体のありようを問い直すために、ジェンダーや文化の視点、マイノリティヘのまなざし、そして日本列島史との統合的な把握を各巻で大切にするようにしました。第五に、高等学校をはじめとする歴史教育や市民の皆さんの歴史探究にも参考となるような編集を意識しました。各巻で歴史を分析する視点を明示したり、輻広い読者を意識したコラムを配置したりしています。

これからの私たちが「未来」への道すじを考えるとき、そもそも人類がどのようにこれまでの世界史を歩んできたのかについて振り返ることが、欠くことのできないいとなみになるでしょう。新しい『岩波講座 世界歴史』が、読者の皆さんにとって、人と人とが相互理解を重ねながら「未来」を模索していくことの大切さと可能性について、思索をめぐらせることのできるような叢書になることを願ってやみません。

二〇二一年夏  編集委員

wh_02

■ 編集委員からのメッセージ

◎世界を網羅、世界史を俯瞰  林 佳世子 今回の講座の特徴の―つは世界諸地域をすべて網羅していることにある。研究の蓄積から濃淡は致し方ないが、世界の歴史を欠けることなく提示することを目指した。そしてもうひとつ、欧米中心の見方からの脱却を構成の上で明確にしたいと考えた。欧米中心の慣れ親しんだストーリーを脇におき、ヨーロッパも多くの地域の一つとして見ていきたい。その結果、前近代のヨーロッパは、4巻にわたり環地中海世界の一部として、西アジア・北アフリカとともに扱われることになった。いつもの世界史のストーリーから少し自由になって世界の歴史を辿っていただきたい。

◎世界史と日本  木畑洋一

この講座の編集にあたっては、グローバル・ヒストリーやジェンダー史など世界史への新たな視角に十分留意するとともに、アフリカや太平洋地域、アメリカ大陸全域に各一巻をあてるという新たな試みを行った。さらに力点を置いたのが世界のなかでの日本の位置づけである。たとえば、日本と他の世界が切り離されて論じられがちな時代をめぐる、日本とメキシコの関係や、ヨーロッパにおける日本イメージについての論考なども含まれている。世界史と日本史の架橋は、これまでの岩波講座世界歴史でも試みられてきたことであるが、それをより強く意識した構成となっているのである。

◎これからの歴史教育のために  小川幸司

二〇二二年度から始まる新しい高等学校学習指導要領では、これまでの日本史と世界史を統合した「歴史総合」を全員が学び、歴史について「問い」をたてて探究することになる。歴史教育の大きな転換点に私たちは立っている。なぜそのように歴史を解釈できるのか。他のどのような歴史と関係しているのか。比較して浮かび上がってくることは何か。このように歴史を見ていること自体に問題点はないか。こうした「問い」を自覚的に持つために、本シリーズは大いに活用できるであろう。歴史を問うことは、問うている自分自身のありかたを問うことにもつながる。私自身も、本シリーズとともに、幾重にも重なり合い、連鎖していく問いを考えていきたい。

■目 次

本講座の編集方針と構成について

【展望|Perspective】

〈私たち〉の世界史へ┄┄┄┄┄小川幸司

【問題群|Inquiry】

人は歴史的時間をいかに構築してきたか┄┄┄┄┄佐藤正幸

世界史のなかで変動する地域と生活世界┄┄┄┄┄西山暁義

現代歴史学と世界史認識┄┄┄┄┄長谷川貴彦

【焦点|Focus】

ジェンダー史の意義と可能性┄┄┄┄┄三成美保

「サバルタン・スタディーズ」と歴史研究・叙述┄┄┄┄┄粟屋利江

環境社会学の視点からみる世界史――先住者の生活戦略から探る持続可能な社会┄┄┄┄┄金沢謙太郎

「感染症の歴史学」と世界史――パンデミックとエンデミック┄┄┄┄┄飯島 渉

ヨーロッパの歴史認識をめぐる対立と相互理解┄┄┄┄┄吉岡 潤

東アジアの歴史認識対立と対話への道┄┄┄┄┄笠原十九司

新しい世界史教育として「歴史総合」を創る――「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」歴史学習への転換┄┄┄┄┄勝山元照

【コラム|Column】

デジタル技術を活用した歴史研究の展開┄┄┄┄┄後藤 真

「民族共生象徴空間」と高校「世界史」――『ウポポイ』upopoi(原意:「歌うこと」)┄┄┄┄┄吉嶺茂樹

Product description

About the Author

小川幸司(おがわ こうじ)
1966年生。長野県蘇南高等学校校長。世界史教育。『世界史との対話――70時間の歴史批評』全3巻(地歴社、2011-12年)。

Product Details

  • Publisher ‏ : ‎ 岩波書店
  • Publication date ‏ : ‎ October 6, 2021
  • Language ‏ : ‎ Japanese
  • Print length ‏ : ‎ 342 pages
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4000114115
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4000114110
  • Dimensions ‏ : ‎ 5.83 x 1.06 x 8.27 inches
  • Book 1 of 24 ‏ : ‎ 世界歴史
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    「歴史実践」を主題とした最新歴史学方法論本
    Reviewed in Japan on December 4, 2021
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    本巻は、第二期(1997-2000年)の第1巻「世界史へのアプローチ」と、第28巻「普遍と多元」の一部を融合させたような内容で、おおむね歴史学の方法論の紹介や、現段階の歴史学全体に関連する内容にあてられている巻です(本巻には章番号がないため、以下では私の方で便宜的に章番号を割り振っています。目次は商品紹介欄に節題含めた詳細な内容が掲載されています)。2-4章は時間論/空間論等歴史方法論を扱っている章で、ここは第二期と共通していますが、第二期第1巻にはない総論が本巻には設置され、簡略な世界史学史と近代日本史学史及び5-11章の各章の位置づけをまとめています。この章は、各論が出そろってから付け足しのようにまとめられたような印象を与えるものではなく、逆に総論執筆者が各論の内容を遥かに踏み越えて自己の議論を展開しているわけでもなく、非常に的確に全体をまとめ上げている、練り上げられた構成となっています。恐らく各論が出そろってから、総論の後半を執筆したのではないか、という印象を受けるのですが、各論の方でも総論に言及している箇所があるため、初稿が出た段階で相互に内容のクロスチェックをしているのではないか、とも推測されます。もしそうだとすると、かなり手がかかった編纂作業を行っていることになり、非常に力が入っているように思えます(第二期や、岩波書店の他の書籍に力が入っていない、と言いたいわけではありません)。

    第二期が、冷戦終了/大きな物語の終焉という世界情勢と時代認識の大きな変動と、日本の歴史学におけるアナール派の台頭を受けた時期に、その頃の歴史学の成果のまとめとその後の展開を見通すための位置づけの刊行だったと思われるのに対して、今回の第三期は、冷戦後の米国/EU/東アジア中心のグローバリゼーションの動揺と、日本の高校教育における歴史総合の導入という時期にあたっての出版だと位置づけられ、特に後者の変革の直接の影響を受ける中学高校教員は本巻読者のボリュームゾーンとなるのだと思われます。よって、歴史総合を意識した内容の章やコラムが多いとの印象があります。この状況を受けて第三期の顔となる第1巻の巻頭に置かれた総論の執筆者は、歴史学界の方ではなく、高校教育界で歴史を担当してきた小川幸司氏が担当されることになったのだと推測されますが、小川氏の総論は、歴史総合導入という意味合いを遥かに越え、歴史学の方法論史をかなり綿密に踏まえた見事な内容となっています。直接的には、2016年に出た MINERVA世界史叢書の総論巻である『「世界史」の世界史』の13/17/18章あたりにおいて論じられた近代以降の日本の歴史学史と歴史教育史の後継と呼ぶに相応しい内容となっている、というのが個人的な印象です。総論「私たち〉の世界史へ(1章小川幸司)」は以下の構成となっています(目次の後の括弧内は私の内容要約)。

    1.一人ひとりの世界史

    2.世界史実践の軌跡をたどる(古代メソポタミア以降近代に至るまでの「歴史実践(後述)」史概説)

    3.日本の世界史実践とその課題(江戸時代以降の日本における歴史実践史概説)

    4.現代歴史学の世界史実践

     ①グローバル・ヒストリー

     ②生命環境系の歴史

     ③歴史の構築性への問い

     ④世界史教育改革

     ⑤記憶と歴史をめぐる問い

    という構成となっていて、「4.現代歴史学の世界史実践」の各節の内容は、5-11章の各論が位置づけられる研究分野ごとの概説となっています。各論との対応関係は以下の通りです。

    ①グローバル・ヒストリー

     感染症の視点からみる世界史(8章飯島渉)

    ②生命環境系の歴史

     環境社会学の視点からみる世界史(7章金沢謙太郎/環境史)

    ③歴史の構築性への問い

     ジェンダーの視点から描き直す世界史(5章三成美保/ジェンダー史)

     サバルタン・スタディーズと歴史研究/叙述(6章粟屋利江/ポストコロニアリズム)

    ④世界史教育改革

     新しい世界史教育として「歴史総合」を創る(11章勝山元照/歴史総合)

    ⑤記憶と歴史をめぐる問い

     ヨーロッパの歴史認識をめぐる対立と相互理解(9章吉岡潤)

     東アジアの歴史認識対立と対話への道(10章笠原九十司)

     (パブリックヒストリーは、以下のコラムで扱われている)

      「民族共生象徴空間」と高校「世界史」――『ウポポイ』upopoi(原意:「歌うこと」) (吉嶺茂樹)

      対話で学ぶ世界史の実践(川島啓一)(④世界史教育改革にも該当する)

      世代を越えた問いに向き合う-満蒙開拓平和祈念館(三沢亜紀)

      教育工学からみた歴史実習の未来(池尻良平)

    本書に5編差しはさまれているコラムの位置づけについての解説はないのですが、5本のうち4篇までがパブリック・ヒストリーに関するものであり、総論⑤の末尾でパブリックヒストリーに言及されているため、4本のコラム群は⑤に含まれる位置づけのものであると言えます。

    以上のように、本巻の内容は、かなり有機的に結びつく構成となっていて、総論執筆者が各論に迎合的なまとめを書いたわけではまったくなく、各論と遊離しているわけでもなく、総論執筆者自身が編集者を務めたかのような、全体を牽引する総論となっています。とはいえ、各論の方は、総論の巻よりも2巻以降の各論の巻にあってもいいような深度のもの(感染症の視点からみる世界史)や、逆に第二期第1巻でもあったものの、エッセイ的な内容にとどまっていた章が明確な研究史概説となっている、総論に置かれるに相応しいものなど、毛色に若干ばらつきがあるとはいえ、全体としては非常によくまとまっているのではないかと思います。

    次に、時間論/空間論等歴史方法論を扱った2-4章についてコメントしたいと思います。

    時間論を扱った佐藤正幸氏の第2章は紀年の問題だけを扱っていて、読み応えのある論説ではあるのですが、歴史学に関する時間論を総合的に扱っているわけではなく、本論の巻にある方がよさそうな間口が狭く深い内容となっています。内容の深度や本巻との適合性からすると、『東大連続講義 歴史学の思考法』の田中創氏の論説のような内容の方が総論の巻には適当だったように見えすし、岩波『思想』2020年1月号が特集した時代区分論についても、1頁程度でいいので簡単に触れていると良かった。一方、空間論の第3章(西山暁義)を読んでいると、時間論や時代区分については、おおむね議論は終わっていて、寧ろ空間論の方が現在ホットな印象を受けましたので、羽田正氏『イスラーム世界の創造』や岩波『思想』2021年3月号『世界史の中のフランス』特集が3章の参考文献にあると良かったように思えました。

    個人的には第二期の時期以降の歴史学においてホットに展開されてきた歴史学方法論関連の史学史の第4章(長谷川貴彦)に注目していたのですが、前半は2020年に出た『歴史学の縁取り方』所収「「転回」以降の歴史学―新実証主義と実践性の復権」と、後半は2018年『思想』3月号「物語論的転回2.0 ――歴史学におけるスケールの問題」と併せたような内容となっていて、近年の論点をそつなくまとめた、との印象でした。『歴史学の縁取り方』の方で論じていた新実証主義や生命科学関連等について、今回更に一歩踏み込んだ内容を期待していたため、個人的には若干肩透かし感がありましたが、近年の方法論概説としてはよいのではないかと思います。ただ、小川氏の総論第二節で記載されていたアナール派までの史学史の続きとなっているため、小川氏の圧倒的な熱量との差が印象づけられてしまい、ちょっとクールすぎるんじゃないか。と感じてしまいました。以下に節題含めた4章の目次を記載します。

    はじめに

    一、社会史パラダイム

     社会史の系譜/「特有の道」から「世界システム論」へ

    二、転回1.0―物語と文化

     言語論的転回/文化論的転回/ポストコロニアル研究

    三、転回2.0―空間と時間

     空間論的展開/時間論的転回/論争の諸形態(<スケール論争>/<グローバル危機>/<国民国家の再定位>)

    おわりに

    だいたいこれで内容の見当がついてしまう方にとっては歴史学方法論本としては新しさはあまり感じられないかも知れませんが、そうした方にとっても、今後の指針や方向性に大きく踏み込んだ小川氏の総論は、岩波世界歴史第三期の巻頭を飾るに相応しいという以上に、今後重要参照点となるであろう内容であると思え、本書は歴史学方法論本として独自の価値と内容を持つ書籍となっていると考える次第です。

    その小川氏の総論のもっとも特徴的なところは、従来であれば、「史学史」という概念に押し込められていた歴史に関するさまざまな人類の営為を「世界史実践/歴史実践」という、より広い概念で包括するだけに留まらず、これまで歴史学方法論から抜け落ちてきた評論やエッセイ含む歴史に関するさまざまな叙述行為や、記念物や歴史に接する読者の営為にまで、およそ歴史に関する人間のあらゆる行為を包括する概念として「歴史実践」という概念を大きく押しだしてきた点にあります。ここでの歴史実践自体は直接には文化人類学で提示された内容で、未開社会での歴史認識把握のためのものに由来している概念ですが、近代社会であろうと先進国であろうと人間社会であるからには文化人類学の対象であり、その概念は適用可能なわけであるため、先進社会における歴史営為を歴史実践という枠組みで捉えることは、歴史学方法論史においても、重要な一里塚となるのではないかと思う次第です。この総論は、海外諸語版を出して広く世界に問うてみると良いのではないかと思いました(p32の図は粗いものの独自性があり面白い。遅塚忠躬の歴史学の作業工程を拡張した世界史実践の六層構造も、『歴史学の縁取り方』7章「読者に届かない歴史―実証主義史学の陥穽と歴史の哲学的基礎」(小野塚知二)の議論と接続可能で、今後多くの研究により具体的事例への適用にあたっての細部が練り上げられ叩きあげられるべきたたき台となりうるのではないかと思いました。歴史を巡る現象は、このような知識社会学的な分析と対応が今後も続けられるべきだと考える次第です。 

    なお、他のレビューにアナール派に触れて欲しかったとありますが、史学史としては若干とはいえ触れられていますし、アナール派の分野内容の紹介としては、第二期第1巻「世界史へのアプローチ」が今もって有用であるため、そちらを参照するか、或いは福井憲彦『歴史学入門』等を参照すると良いかと思います。参考までに、現在でも有用な第二期第1巻の論説を記載します。

       社会史の視野(福井憲彦)

       自然環境と歴史学 -トータル・ヒストリを求めて(川北稔)   

       ソーシャル・サイエンス・ヒストリィと歴史人口学(斎藤修)

       史料とはなにか(杉山正明)

     

    最新の歴史学方法論本として昨年出版された『東大連続講義 歴史学の思考法』と併せてお奨めです。

    最後に、個人的に少しだけ不足していると思われた内容について記載します(ITと遺伝子学)。ITについては、コラムの「デジタル技術を活用した歴史研究の展開(後藤真)」で少しとはいえ扱われていますが、その内容は個別技術の事例でした。個別技術とは別に、今後の電子書籍が標準媒体となる時代を見据えて、そろそろ「どんな研究書・論文でも出典註のリンクを辿ってクリック3回以内で一次史料のサイトに到達する」というようなルール作りや標準化が必要なのではないかと思います(IT技術的には既にWikipediaで実現できている内容なので、あとは世界歴史学標準化委員会(というのがあるのか知りませんが)みたいなところで標準を策定し勧告すれば良のではないかと思います。既に検討されているのかも知れませんが)。また、最近遺物の遺伝子解析による歴史研究が目につくようになってきていますが、歴史学側から見た、遺伝子研究の落とし穴とか

    (理系研究者の歴史研究では無自覚なnarativeが非常に心配)、研究結果を批判的に読むテクニカルなポイントなどを解説した入門書籍がそろそろでてきても良いのではないかと思っておりましたので、そのうち登場することを願っています。

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    歴史好きにしてくれる画期的な書物
    Reviewed in Japan on December 15, 2021
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    視点の回帰
    Reviewed in Japan on December 27, 2021
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    第1巻は鳥瞰かつ、地域別の概観のため、今後出版される時代別等の各巻に期待したい。

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  • 5 out of 5 stars
    新しい世界史への試み!
    Reviewed in Japan on November 29, 2021
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    ①巻頭論文は秀逸である。「世界に向き合う世界史」と「世界をつなげる世界史」の提唱は、今後の高校・大学における歴史教育・研究の指針となる方向性を提示している。

    ②「グローバルヒストリー」と「ナショナルヒストリー」の関連・相克の記述が興味深い。前者には個々の歴史記述に粗があり、精密な歴史研究とは言い難い側面があり、後者の場合には一国史観によるナショナルヒストリーはもはや通用しないし、フランス革命でさえ、記述不可能である。

    ③史学思想では、ランケ以後の実証主義研究が語られるが、社会科学としての歴史学の発展についてで詳しく述べられていないのが残念である。ローマ法・近代法(法制史・国制史)、国民経済学(西洋経済史、社会経済史)、マルクス経済学(唯物史観による歴史、)社会学(ウェーバーの理念型)等に触れ、戦前から戦後にかけての歴史学の発展を詳しく述べる必要がある。

    また、戦後における西洋史学が、例えば封建制社会や中世国家の構造、等族制の研究に向かったのは、歴史の全体構造、発展段階の差違を西洋と日本で比較し、日本の進路を探した求めたからである。そこでは個別研究よりも学界動向が重視された。

    ④社会科学や自然科学を歴史に応用したフランスのアナール学派、前近代から近現代への変化を言語から分析したドイツの構造史派の研究と歴史事典に触れて欲しかった。この点では林健太郎『史学概論』「)有斐閣双書、絶版)、岸田達也氏の『ドイツ史学思想史研究』(ミネルヴァ書房、絶版)が詳しい(古書サイトを利用されたい)。

    ⑤高校地歴科の新設科目「歴史総合」においては、従来の「世界史A」に「日本史A」を挟み込んだ折衷型の教科書の印象を受ける。歴史用語の説明が全体的に不足している。歴史用語の羅列が多い。日本史の記述が少ない。世界史の中に日本史を位置付けていないのは、日本史を日本史の専門家が記述しているためである。日本史・東洋史・西洋史の分業がなされているためだ。主題史・テーマ史をどのように活用出来るかが、今後の課題である。教材作成も重要だ。

    ⑥主題として取り上げるテーマには、日本人が経験したことがない、あるいは馴染みがない、理解困難であるが、極めて重要な民族の歴史を取り上げて欲しい。柴宜弘氏の『ユーゴスラヴィア現代史』(岩波新書)は格好の教材である。複合民族(モザイク)国家ユーゴスラヴィアの形成・発展・解体の歴史。オスマン帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ロシア帝国と絡ませながら理解する教材を作成してみるのはどうか。

    ⑦本書の参考文献が今後の勉強の参考になる。歴史教育者、学生、社会人(読書人)にお勧めの一冊だ。

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  • 5 out of 5 stars
    今は、世界を解釈する時代なのか
    Reviewed in Japan on April 7, 2023
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    市立図書館の返却ボックスの中に「世界歴史01」という本を見つけた。世界歴史とは、岩波書店発行の今から五〇年も前に読んだ本だが、二回目でも出版されたのかと思って、手に取ると、どうも本の装丁が異なることに気が付いた。

     ページをめくると、何と第三期とあるではないか。一体、あれから何が変わったのか、あるいは、変わらなかったのは何かと読み進めると、とにかく面白い。

     しかし、この面白さが今の大学一年生に、即、分かるだろうかと思った。六〇年代、七〇年代の哲学・思想史を勉強しなければ、一見難渋と思える表現が、さほどのことを言っていないと気が付かないのではないか。いわば符丁をしらないと、特殊な社会の出来事が理解できないようなものなのだ。

    「感染症の歴史学」と世界史という章立てが、泣かせる。現今のパンデミックの時代を、どのように解釈するのか、しばらく時間がかかるだろうと予想していたら、もう、出版されていた。

     フクシマ、パンデミック、ウクライナの戦争と、現在とは、ある意味で、世界史的出来事の連続する時代なのだが、同時代的に、あるいは可能なら二〇年後に、どのような解釈がなされたかを知りたい。

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  • 1 out of 5 stars
    学者が記述する悪文の見本例
    Reviewed in Japan on December 4, 2021
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    「1990年代以降、現代歴史学派新たな転回の局面を迎える。この転回においては世界史が歴史叙述の問題の中心的位置に移動してくる。言語論的転回からは、歴史叙述の物語性の問題意識を継承すると同時に、文化論的転回におけるミクロストリア対象の断片化や小規模化に対する批判、ポストコロニアル研究に見られたヨーロッパ中心主義批判を継承して大きな物語が復権してくる」

     上記のような表現が続く。次巻以降の具体の歴史叙述では改められることを切に要望する。

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  • 5 out of 5 stars
    歴史総合に想う
    Reviewed in Japan on November 21, 2021
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    高校生が戦後史・近現代の歴史を知らない、大学生も知らない輩がいる、嘆かわしい、政治の気切を季節を迎えているというのに  国防が問われるいまに近現代史を知らない このような事態に立ち至るまでに長い戦後史があった、GHQが敷いた悪意に満ちた日本弱体化路線、東大を筆頭に左傾化している国立大学は自らを問いたださねばラナイ 高校の教師は日教組に毒され 本当の日本史、世界を教えない 「歴史総合」を創る――「自分の頭で考え、自分の言葉で表現する」歴史学習への転換┄┄、見事である これから本当の戦後民主主義が試される 「核武装の議論も起こるであろう」、高校歴史教育の転換と「歴史総合」を成立させるにはどうしたらよいか 一国の歴史観ではもはや解けない 北海道が中国の勢力圏に入り 日本の施政下から外れようとしている 座して待つべきか 台湾有事は日本有事であり 沖縄と鹿児島県南部は戦場となる

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  • 4 out of 5 stars
    近現代史叙述の動向を考える
    Reviewed in Japan on November 18, 2021
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    講座初巻の後半の歴史叙述と高等学校歴史教育に関しまして第二次世界大戦の戦後史はわたしは『第二次大戦回顧録』チャーチル著を読む。ここには「北方四島と沖縄」にはスターリンの考えが今も結果として生きていること。国連設立とローズベルト・チャーチルの密談、第二次大戦直前の松岡訪英とチャーチルとの密談、原爆製造のための極秘研究設立の過程など現代世界史の教科書的疑問に思う発源が物語の第二次大戦回顧録にはある。世界史を理解する補助的読み物として興味を惹く。

     岩波講座『世界史』初巻は興味が尽きない。

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