[企業] カラビナテクノロジー[地域] 日本(福岡)[規模] 110名程度[業種] IT(システム、アプリ等の開発)自律分散型の組織運営を具体的に実践するためのメソドロジーは、世界中で色々と開発されている。日本では馴染みのないものも多いが、その中でも比較的知られているのはホラクラシーだろう。2016年には『HOLACRACY(ホラクラシー)』という書籍も発刊されている。以前の記事でも、ホラクラシーの実践企業としてRELATIONSを紹介したが、今回は同じくホラクラシーを2021年から実践しているカラビナテクノロジーを訪問した。会社概要カラビナテクノロジーの創業のきっかけは、創業者の福田裕二さんが福岡に移ることだった。もともとはオイシックスで働かれていた福田さんだが、福岡に戻るに際しての働き方を検討していたときに、知人であったDiamond Headの代表とのご縁から、2015年にDiamond Headの100%子会社としてカラビナテクノロジーを福岡で創業した。福田さん自身は、カラビナテクノロジーの経営を担いながら、創業からしばらくはオイシックスの仕事も継続していた。カラビナテクノロジーという社名は、この創業の際から付いている。当時、何かの道具の名前で響きの良いものを探したときに、ボルダリングをしていた福田さんが「カラビナ」を選んでいる。(ただ「思ったよりカラビナの知名度が低い」ことは想定外だったらしく、創業初期はカラビナの実物を持ち歩いて見せていたという)創業初期は「仕事が少なくて掃除ばっかりしていた」時期もあったというが、徐々に仕事も増え、メンバーも増えていった。そんな中、オイシックス・ラ・大地のシステム開発力の強化を進めたいという意向もあり、カラビナテクノロジーはオイシックス・ラ・大地(当時は、オイシックスドット大地)の子会社へと変わる。2018年のことだ。現在では、110名程度が在籍している。本社がある福岡のほか、佐賀、宮崎などにも拠点があるが、多くの人がリモートで働いているため、居住地は全国各地に散らばっている。事業内容は主に受託型のシステム開発やその運用、WebサイトのUX/UIデザインが中心である。基本的には、プロジェクトごとに必要なチームが組成されるプロジェクト型の業務が中心となっている。組織運営の変遷創業当初から、福田さん自身の考え方としては「それぞれが自分の好きなように働いて欲しい」という想いが強かった。福田さんの表現を借りれば、それは働く人を「大人として扱う」ことだと言える。福田さん:「私は仕事をしている皆さんは『大人だよね』と思っています。大人がマネジメントされるとはどういうことか?マネジメントしないといけないほど、みんな子供なのか?みんながプロとして働いていればマネジメントは必要ないし、そのほうがみんな楽しいはずです。そういう考え方は、世の中にも広めたいなと思います」この考え方は、カラビナテクノロジーの行動規範に表れている。それぞれ異なる表現をしているが、根底には「大人として自立すること」への期待が覗える。「会社」さんはいない大人だから自由ホワイトボードの前に立つ議論の対象を「場」におくウチは芸能事務所→プロになれこの行動規範は、カラビナテクノロジーにおいて最初に明文化されたものだという。逆に言えば、それ以外のことは各自に委ねられていた。ただし、働く人数が増えてきたことに連れて、「カラビナテクノロジーはどこに向かいたいのか?」という質問が増え始めたという。(私の個人的な感覚としても、一定の人数規模になると、こういった議論が起こりやすくなるように思う。全体の空気感、全員の意図などが汲み取りづらくなるような規模(20〜30人)を越えると、何らかの言語化が促されることが多い)そこで、2-3年ほど前に、それまで語られていたこと、福田さんが考えてこられたことを明文化した。経営理念やりたいことを、やりたいように、やれるようにするパーパスセルフマネジメントの組織を作る責任にコミットするから、自由が享受できる自分なりにしっかり考え、闊達に意見を交わすこのような明文化を行ったことで、それ以降は「どこに向かうのか?」といった議論は起こらなくなったという。また、現在の内容は「カラビナエントランスぶっく」に詳しく掲載されている。具体的な組織運営これまで見てきたように、カラビナテクノロジーでは「自立したプロ」である個人を前提に、その人達が自由に働けることを志向している。彼らの組織運営の実践にも、その思想が多く反映されている。組織設計カラビナテクノロジーでは、代表の福田さんに加え、6人の執行役員がいる。この6人は、一定のマネジメントの役割を担う。ただし、ここに原則としてピープルマネジメントは含まれておらず、プロジェクト型の業務が中心の組織におけるリソースマネジメントが中心となる。ピープルマネジメントに関しては、「コネクター」という役割が別に設けられており、個別に面談する、コンディションを把握する、何か対応が必要な際にアクションを取る、といったことを担っている。組織運営:ホラクラシーの実践一般的に見られるような明確な「組織図」があるというより、個人が自立しており、プロジェクト単位で様々な業務に入ることを前提としている。この運営の中で実践されているのがホラクラシーである。カラビナテクノロジーでは、2021年よりホラクラシーの導入を始めた(過去の経緯などは自社ブログにも書かれている)。もともと会社としては自立的な働き方を奨励していたものの、意思決定に関して(特に人やお金に関して)は、代表の福田さんに偏ることが多かったという。これをもっと分散化させ、それぞれの人が決められる状態を作りたいという意図から、ホラクラシーの導入へと進んだ。一般的に、ホラクラシーを最初に実践しようとする際には、すべての業務をロールに分けていくことに抵抗があったり、うまく進められないことが多い。ところが、カラビナテクノロジーでは比較的これがスムーズに進んだという。その理由は2つ、エンジニア文化との相性の良さと、もう一つは「係」が昔からあったことだ。福田さん:「メンバーから見ると、コミュニケーションのツールと組織形態が揃っていると心地よく働きやすいのだと思います。うちもSlackを使っていますが、あれに近いようなネットワーク型の組織であるほうが、特にエンジニアのメンバーは心地よいと感じやすいのだと思います」「あと、『係』というものが前からありました。昔、新卒の社員が、毎日オフィスにある観葉植物に水を上げてくれていました。なぜこれを自分だけがやってるのだろう?と思ったことから『もっと分担したほうが良いんじゃないか』と提案してくれました。それをきっかけに『オフィス係』『郵便係』『イベント係』など、直接の業務ではないものを分担するようになりました。この『係』とホラクラシーは結構近いものでした」ニックネーム文化福田さんは直接は言及されなかったが、もともとの組織文化のフラットさもホラクラシーとの相性が良かったように思う。このフラットさを象徴的に表すのは、ニックネームの文化だ。カラビナテクノロジーでは、新しく入社する際に「大事な会議」が開かれ、必ずニックネームを決めるという。メンバー紹介ページを見てもらえれば、その多様さが分かる。これは、色んな人がフラットな関係性を保って関われることを意図しており、実際に代表の福田さんも「ゆーじさん」と当然のように呼ばれている。報酬制度:「ピッツア分配制度」プロジェクト型の組織運営において、よく難しさが発生するのは評価・報酬制度だ。自分の仕事の全体感を把握している「上司」が居ないと、適切に評価されることが難しく、また納得感も持ちにくい。この点、カラビナテクノロジーでは一貫して「評価」ではなく「分配」だというスタンスを取っている。「ピッツア分配制度」という名前まで付いている(ピザそのものが大きくなれば、関わる人の分け前も多くなる、という考え方だそうだ)この分配方法には試行錯誤があったようだが、現在は基本的な考え方として「自己評価」と「そのチェック」の組み合わせ、と表現している。具体的には、「今期の目標」と「昇給額」を、自ら提案することから始まる。この提案に対して、その期が終わった時点で、本人の申請した昇給額が妥当かを会社が判断し、その昇給額が次期の報酬に反映される。これまでは代表の福田さんとCHROの石本さんの2名で判断していたが、今後は福田さんと執行役員6人の7人に広げる予定だという。この昇給額については、原則として一度の上限が「5万円」と設定されている。これを超えた申請を行うこともできるが、その際には何らかの参考情報を提示することが必須となる。たとえば、あるエンジニアの方は、自分の市場相場について転職サイトを参照して提示したことがあるそうだ(これは5万円を超えた昇給にOKが出た)一つユニークな点として、昇給額は「記載なし」でもOKだ。その場合、決定する側(福田さんや石本さん)に昇給額は委ねることになる。意外なことに、現在でも3割程度の人は「記載なし」で提出している。また、この目標設定と、それに紐づく金額(昇給する額)はすべて公開されている。ただし、個人個人の具体的な給与額は「社内でほぼ唯一の非公開な情報」である。「自立」と「多様性」お話を伺っていて、一貫して「大人」として働くことが前提になっていると感じた。ただ、決して排他的であったり、過度なプロフェッショナリズムの要求のような空気感ではない。あくまで、自立して働くことを前提に、一人ひとりの個性を尊重したフラットな関係が共存している。CHROの石本さんは、「自分は社会で働けないかもしれないとも思っていたが、うちに来てからは居心地良く働けるようになった」と仰っていた。そういう人は他にも居る、とのことだ。会社の仕組み、仕事の進め方などは、基本的には「自立」を促す方向で設計される。ホラクラシーの導入・実践もその延長線上で捉えられる。同時に、そこで働く個人個人に対しては、その個性を尊重し、それが結果的に全体の「多様性」の醸成にも繋がっている。この両面があることがカラビナテクノロジーの組織のあり方の特徴であるようだ。