元々は新年を祝う歌だったはずなのに… | 『旧支配者のキャロル』の影響はデカい
クリスマス、皆様は如何お過ごしでしょうか?
「2025年のクリスマスはもう終わっただろ、何を今更…」と思われるかもしれません。
ロシア正教のクリスマスはこれからが本番なんだ!
だから今から書いても遅くない!!!!
※ロシア正教でのクリスマスは1月です。
『旧支配者のキャロル』(The Carol of the Old Ones)とは
クトゥルフ神話に造詣の深い方はもちろんご存知でしょう。
ご存じない方はまず、ぜひ、聞いて下さい。一回だけでも。
…大変おどろおどろしいですねぇ。
「街で『旧支配者のキャロル』が流れてるww」というTweet…いえPostは毎年ちょこちょこ見かけます。今年(2025年)もバッチリ見ました。
元ネタはとっても有名なクリスマスの定番曲
そもそも、このメロディ自体は『鐘のキャロル』(Carol of the Bells) という大変有名なクリスマスソングで、それをクトゥルフ神話を題材に替え歌したのが『旧支配者のキャロル』なんですよね。
心が洗われるような非常に美しい歌声。
こんなに素敵な曲を、どうして、冒涜的な歌詞に…! ああ! 窓に!
更に元ネタがありまして
実は、この曲にはさらに奥深いルーツがありまして。ウクライナ民謡をもとにした合唱曲『Щедрик(Shchedryk, シチェドリク)』のメロディが「鐘の音のように聞こえる」ことから生まれました。
『Щедрик』に関しては、こちらの方のnoteにて大変詳細に記載されていますので、ご参照ください。
「ツバメが新年の幸運を運んでくる」という内容の古い伝統歌(シチェドリウカ)に基づいており、新年、新春を祝う歌です。
脱ロシアを掲げるウクライナは 近年クリスマスを西欧と同じく12月25日に変更したようですが、正教会のクリスマスは新年と同時期なので1月に祝います。
もっと言うなら、「ツバメが来る春」なので、3月頃の歌でした。
取り上げた理由:ロシア映画『魔界探偵ゴーゴリ』
…前置きが長くなりました。
『旧支配者のキャロル』を取り上げようと思ったのは、クリスマスの時期だったこともありますが、直近で見たロシア映画『魔界探偵ゴーゴリⅡ:魔女の呪いと妖怪ヴィーの召喚』でこの曲が流れたからです。
「ロシア映画が見たいんだが」と尋ねたら、google Geminiがおすすめしてくれました。
(2025年12月現在、amazon prime videoで見放題です。吹替版/字幕版アリ)
ゴーゴリとは、ロシア(あるいはウクライナ)の有名作家ニコライ・ゴーゴリのこと。『魔界探偵ゴーゴリ』は彼の幻想的な著作を題材にした、2017年頃公開のダークファンタジー映画シリーズです。全3作。
19世紀、とあるウクライナ方面の村で 若い娘たちをターゲットにした連続殺人事件が発生していました。
犯人の手がかりを探すうち、儀式的な意味を持つ犯行であることと、「過去の事件はすべてロシアの祝祭日に起きている」と気付いたゴーゴリは、次の祝祭日である「生神女庇護祭(10月2日)」に新たな殺人が起こるのではないか、と考えました。
そして祝祭日の当日──『シチェドリク』が流れます。
…おかしい。10月2日はクリスマスでも、新年でも、新春でもない。
ロシアの映画なのに、いくらなんでもそんなミスを犯すか?
時期のズレは意図的? google AIの回答
疑問を持ったわたしは、google AIに理由を尋ねてみました。
1. 時期のずれについて
・シチェドリクの本来の時期
ウクライナの伝統では、新年を祝う歌(シチェドリーウカ)として、1月13日の「寛大な夕べ(シチェードリィ・ヴェーチル)」に歌われるものです。さらに古い起源では、春の訪れを祝う3月の歌でした。
・生神女庇護祭(ポクローフ)
10月1日(ユリウス暦では10月14日)に祝われる、聖母マリアが人々をそのベール(庇護)で守ったことを記念する祭日です。
2. なぜ映画で曲が流れたのか
映画『ゴーゴリ』シリーズにてこの曲が使われる場合、単なる「季節の歌」としてではなく、演出意図が含まれている可能性が高いです。
・「ウクライナの魂」の象徴
ゴーゴリはウクライナ出身の作家であり、彼の作品の根底にはウクライナの民俗信仰が流れています。世界的に最も有名なウクライナ由来のメロディであるこの曲を流すことで、作品のアイデンティティを強調しています。
・不穏な予兆としてのリフレイン
あの独特の「4音のリフレイン」は、聴き手に焦燥感や不気味さを与えます。本来はめでたい歌ですが、短調で繰り返されるメロディが、聖なる祭日の裏で進行する「闇の儀式」や「悲劇」を際立たせる効果を生んでいます。
・「旧支配者」へのオマージュ
「旧支配者たちのキャロル」のように、あの曲にはダークファンタジーやホラーとの親和性が非常に高いため、ゴーゴリの怪奇的な世界観を彩るBGMとして選ばれたのでしょう。
3. 当時のリアリティ
1828年当時のロシア帝国において、生神女庇護祭は非常に重要な祭日であり、地方では収穫祭や結婚シーズンの始まりとも重なる賑やかな時期でした。本来なら教会の聖歌や秋の民謡が流れる場面ですが、あえて「冬や新年の訪れ」を予感させる曲を流すことで、「冬のような過酷な運命が近づいている」という暗喩になっているのかもしれません。
結論として、「典礼上の正確さ」よりも「ゴーゴリらしい不気味で幻想的な雰囲気作り」を優先した選曲であると言えます。
曲のイメージって大事だよね たとえ歌詞を知らないとしても
Carol of the Bellsってなんでこんな怖い曲調なの…クリスマスの曲なのに。旧支配者のキャロルのほうが思い浮かぶからかしら。
— 🐥むにぇるぴょ🐥 (@ribon22) December 25, 2022
海外の掲示板サイト『Reddit』でも、この曲のイメージについて話し合われていました。2021年に立てられたスレッドにもかかわらず、2025年に掘り起こされてレスが続いています。
「Carol of the Bells」って、なんであんなに不気味に聞こえるんだろう?それって私だけ?
https://www.reddit.com/r/askmusic/comments/p1dykr/why_does_carol_of_the_bells_sound_so_creepy_or_is/?tl=ja
音楽用語としてオスティナート(Ostinato)というものがあります。同じ音型、リズム、あるいは和声進行を執拗に繰り返すことを指します。恐怖や不安といった感情を効果的に引き起こす技法として広く用いられてきました。
例えば、オタクの聖典『新世紀エヴァンゲリオン』の『ANGEL ATTACK』とか。
鷺巣詩郎さんが手掛ける作中のBGMは、このオスティナートを用いたものが多い気がします。使徒の不気味さ、物語の緊迫感をより強調してくれていますよね。
『旧支配者のキャロル』の元ネタ、『シシェドリク』も、短調で3拍子の同じ音型、リズムが続きます。なのでオスティナートの条件は満たしています。
ただ、元が民謡なので、意図してオスティナートの技法が用いられたとは考えにくいです。偶然、そういうメロディだった。
ウクライナ語は(ロシア語も)残念ながらメジャーな言語ではありません。知らない言語の歌詞の意味なんて、ぱっと耳にしただけでは絶対にわかりません。
でも『鐘のキャロル』は英語の歌詞じゃないか、って。
映画『ホーム・アローン』でも流れてたじゃん、って。
そこで『旧支配者のキャロル』の歌詞が付けられたことが効いてくるわけです。よりホラーのイメージが強固になりました。
実際にホラーゲームなどでも、このメロディが用いられていたりするようです。
「本来の意味」より「映画的演出」。
『魔界探偵ゴーゴリ』はロシアの映画であるけれど、歴史的・宗教的意味よりも、映画の演出・効果として人々の持つイメージを優先したということになります。
そもそも、映画タイトルにもある妖怪ヴィー(Вий)自体が、クトゥルフ神話のようなコズミックホラー感バチバチのビジュアルしてますからね。映画でも大変恐ろしかったです。人知を超えた存在。バカでかいし。
おわりに
google AIに尋ねてみたことで、新たな世界や視点を教えてもらった気がして、とても楽しい時間になりました。
ただ、映画のほんのちょっとしたワンシーンなのに、ロシア語台詞の聞き取りのために何度も巻き戻したり、都度疑問や感想を投げかけ調べ物を始めてしまうせいで 映画一本見終わるまでに4時間半以上かかってるんですよね。まだPart.3があるのに。
めっちゃ面白いんですよ。『魔界探偵ゴーゴリ』!
ニコライ・ゴーゴリの作品を読んだことのある方は絶対見てほしい!
映画の紹介もしたいし、まだまだ語りたいロシアあるあるがあるので、それは別記事にて。
今後もちょっとした雑学やら雑感やらを書いていきます。
少しでも「はえー、そんなのあるんだね」と思っていただけたら嬉しいです! ではまた。
