【日めくり短編 08】僕のGET WILD
第一章 出陣
四月七日、午前六時三十分。
目覚ましが鳴る三分前に目が覚めた。遠足前の小学生か、俺は。
鏡の前に立つ。三万八千円かけてホワイトニングした歯を剥き出しにして笑ってみる。完璧だ。蛍光灯の下で見ると少しやりすぎた気もするが、これは投資だ。自分への投資。三万八千円は伊達じゃない。そう思わないとやっていけない。
僕の名前は柴山拓海(しばやま・たくみ)。十八歳。本日より都内某私立大学の文学部に通う、ピカピカの一年生である。
これまでの僕を一言で表すなら「背景」だ。クラスの集合写真では必ず端っこにいて、卒業アルバムの個人写真では目を瞑っている。文化祭では椅子を並べ、体育祭ではテントの足を押さえていた。誰に頼まれたわけでもないのに、自然とそうなる。僕という人間には、そういう引力が働いているらしい。
しかし。
今日から僕は変わる。もう誰かの影に隠れて生きるのはやめだ。チープなスリルに身を任せながら明日に怯えるような人生は終わりにする。
脱皮するのだ。蝶のように。サナギの殻を破って、まだ湿った羽を広げるのだ。
GET WILDするのである。
朝食のトーストを噛んだ瞬間、ホワイトニングしたばかりの前歯がキーンと痛んだ。知覚過敏。三万八千円の代償が、こんなところに。トーストにすら手こずる男に、WILDは遠い。
第二章 戦場
大学の正門をくぐった瞬間、まだ冷たい四月の朝の空気が鼻の奥を刺した。桜はもう散りかけていて、花びらがアスファルトの上で茶色く踏み潰されている。新歓シーズンの大学というのは、終わりかけの春と始まったばかりの何かが同居する、妙な場所だった。
そして僕は悟った。
——ここは、戦場だ。
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