【水ダウ企画『ザ・スベリドリームマッチ』が暴き出したネタの成否の分かれ目】
先日の『水曜日のダウンタウン』にて、以前放送された「スベリ-1GP」で活躍した芸人たちにスポットを当てた新企画「ザ・スベリドリームマッチ」が放送された。
自分のネタではまったく笑いが取れない、いわゆる“スベリ芸人”が、売れっ子芸人とコンビを組んだら笑いは生まれるのか──そんなテーマを検証する企画だ。
個人的には、この企画は成功だったと思う。
ただ、「実力のある芸人がネタを作れば誰でもウケる」という単純な話でもなかった。
もちろん、大半の急造コンビが一定以上の笑いを生み出したのは事実だ。しかし、その背景には絶妙なキャスティングがあり、少なくとも5組目のネタが終わるまで「この企画、大丈夫か……?」と少しヒヤヒヤしながら見ていた。
今回は『ザ・スベリドリームマッチ』を見て感じたことを、私なりに考察してみたい。
◾️あらかじめ成功が約束されていた?井口と芝
ウエストランド・井口とモグライダー・芝の2人に関しては、最初から安定感があったと言わざるを得ない。
どちらもコンビではネタ作りを担当し、個性的な相方を支える立場の売れっ子芸人だ。ただ、そのスタイルはまったく異なる。
井口は、自身のトークだけで漫才の大部分を成立させるタイプ。一方の芝は、幅広い知識と対応力で、どんな奇妙な言動も自然に拾って笑いへ変える、まさに鉄壁のレシーバーのようなツッコミだ。
アプローチこそ違えど、2人とも今回組んだスベリ芸人とのネタをしっかり笑いへ昇華していた。
もっとも、組んだ相手がそれぞれ小梅太夫と小堀敏夫(元ガッポリ建設)だったことも、大きな追い風だったと思う。
小梅太夫は、スベリ芸人の括りにいるのが不思議なくらい知名度も実績もある芸人だ。
また、小堀は今回のメンバーの中でも群を抜いて扱いづらそうなキャラクターだったが、『ザ・ノンフィクション』への出演で一定の知名度があり、過去にはコンビとして活動していた経験もある。何より、演者として非常にキャラが立っていた。
つまり、井口や芝ほどの実力者であれば、自分た
ちの土俵に相方をうまく乗せるだけで、ある程度の成功は見込める組み合わせだったと言える。
もちろん、それぞれのネタの中で、小梅太夫(なぜか白塗りしていない)や“小堀=ノンフィクション芸人”というキャラクターをうまく活かしたのは、間違いなく井口と芝の力量だ。
だからこそ制作側も、この2組については一定の成功を計算したうえで、残り3組がどう転ぶかを見守る構成にできたのではないだろうか。
◾️漫談ピン芸人・街裏ぴんくとは相性の悪い企画
3組目にネタを披露した街裏ぴんく・ギブ↑大久保ペアは、映像で見た限りでは、ほとんどウケておらず、50人の観客のうちわずか2人から票を獲得できなかった。
厳しい言い方になるが、決して面白いコントではなかったし、爆笑を生み出せる可能性もあまり高くないような構造のネタで、完全な作戦負けだ。
とはいえ、これは街裏ぴんく個人の実力不足というより、企画との相性の問題だったように思う。
実際、このキャスティングには視聴者の間でも少なからず賛否があったのではないだろうか。
ぶっちゃけ、街裏ぴんくではなく、もっと安牌な芸人…例えばコンビやトリオで活動していてネタを作っていてを起用するという選択肢もあったはず…しかし、それではあまり挑戦していない企画になってしまう。
だからこそ、番組制作側はあえて街裏ぴんくを入れたのだろうことが示唆されている。
そもそも街裏ぴんくはR-1チャンピオンではあるが、今では珍しい漫談一本で長年戦ってきたピン芸人だ。
2年前にR-1優勝で一気に知名度を上げたものの、もともとは業界内で高く評価されるタイプの実力者であり、誰かと組んでネタを作る機会は決して多くなかったはずだ。
そう考えれば、今回の企画は街裏ぴんくにとっても貴重な経験になったのではないかと思う。
ちなみに、彼のYouTubeチャンネルやSpotifyでは漫談を楽しめる。
ネタごとに好みは分かれると思うが、個人的には「アンパンマン」「図工」「床穴」あたりが割と万人に馴染みがあっておすすめだ。
◾️苦戦しながらも持ち味を発揮したガク
真空ジェシカのツッコミ・ガクも、今回の企画では難しい立場だった。
普段ネタ作りを担っているのは川北。そのため、“あまりもの同士”としてマッチングしたゆきおとことのコンビは、披露前からスタジオでも苦戦を予想する声が多かった。
実際、ネタ序盤はなかなかペースをつかめず、思うように笑いへつなげられていなかった印象がある。
それでも、6年連続でM-1決勝に立ってきた経験は伊達ではない。
徐々に調子を上げ、最終的には街裏ぴんく組よりも無難にまとめ上げたように感じた。
◾️舞台設定でエンジンコータローを活かした蓮見
今回の企画で、個人的なMVPを挙げるなら芝ではなくダウ90000の蓮見だ。
もちろん、フィーリングの時点から小堀とのやり取りで番組を盛り上げ、ネタでもしっかり結果を出した芝の貢献は非常に大きい。
井口についても同様だ。
しかし、2人が組んだ相手は、小梅太夫と小堀という知名度も経験も十分な芸人だった。
その点、街裏ぴんくやガクは、スベリ-1GPの2位・3位だったピン芸人と組まされ、より難易度の高い条件で勝負することになった。
本当の意味で「スベリ芸人と組んで笑いを生み出せるか」を証明するなら、スベリ-1GP上位陣とのコンビで結果を出さなければならない。
そう考えると、エンジンコータローと組んだ蓮見の仕事ぶりは非常に価値があった。
前回のスベリ-1GP終了後には、エンジンコータローの“死を匂わせる発言”が話題となり、一時はどうなることかと思った。
そんな状況も踏まえたうえで、蓮見はエンジンコータローのキャラクターを最大限に活かせる設定を緻密に組み立て、笑いへと昇華させた。
票数こそ井口や芝には及ばなかったが、あのネタが一定以上の評価を得たことで、この企画は本当の意味で成功したと言えるのではないだろうか。
◾️印象に残ったMC陣
余談にはなるが、今回もう一つ印象に残ったのがMC陣だった。
プレゼンターという立場は、企画そのものが面白ければ、そこまで高い技術を求められる役割ではない。
とはいえ、マヂカルラブリーはこうしたポジションで、あまり存在感を発揮できていない印象がある。
たしか10年ほど前、BSで放送されていた鈴木おさむの番組でも、「企画自体はいいけど、そのコーナーをマヂラブが担当する意味が薄い」という趣旨の指摘を受けていた記憶がある。
M-1優勝後はこうした仕事も増えたが、MCとしての評価はあまり高くなく、この点に関しては大きな成長は感じられない。
もっとも、今回は東野幸治をはじめとするパネラー陣が非常に強力なメンツだったためまったく問題にはならなかったが。
特に、実際の煽り運転エピソードを持つアルコ&ピース・平子と、終始険しい表情で淡々と進行を見守っていた永野は、影の功労者だったと思う。
◾️総評
今回の企画を見る限り、スベリ芸人と組んで笑いを生み出すには、「ネタを作れること」と「ツッコミであること」が大きな武器になるように感じた。
逆に、普段ネタ作りを担当していない芸人や、漫談を主戦場とするピン芸人には、かなりハードルの高い企画だったのではないだろうか。
もし第2回があるなら、今回の結果を踏まえて、さらに相性の良い売れっ子芸人がキャスティングされるはずだ。
その一方で、「成功するか失敗するかギリギリ読めない芸人枠」に誰を起用するのかも、この企画の大きな見どころになりそうである。
