初めての方向け建築家紹介【No.6】 フランク・ロイド・ライト


 建築界の3大巨匠と称される、フランク・ロイド・ライト。生涯で1,100以上の作品を手掛けたとされており、日本でもライトの作品を見ることができます。
 今回は、フランク・ロイド・ライトを知りたい方のために、彼の思想や作品について紹介します。


フランク・ロイド・ライトとは誰か?

 フランク・ロイド・ライトは、1867年アメリカ中西部のウィスコンシン州で生まれ育ちました。教育家だった母は、ライトを建築家にするため、幼児教育の大家として知られたフレーベルの恩物と呼ばれる積み木などの教育玩具を使って育てました。
 ライトは、1886年にウィスコンシン大学マディソン校土木科に入学しましたが、その翌年ジョセフ・ライマン・シルスビーの事務所に就職します。翌年の1888年には、シルスビーの事務所をやめてアドラー&サリヴァン事務所に入所します。1892年まで在籍した後、セシル・コーウィンと設計事務所を設立しました。その後は日本でも作品を残しており、生涯では、1,100以上の作品を残したとされています。

ウィスコンシン大学マディソン校

フランク・ロイド・ライトの思想

 フランク・ロイド・ライトの作品は自然と調和した建築としても知られ、のちの建築家たちに多大な影響を与えました。ここでは、フランク・ロイド・ライトについて理解する上で重要な3つのキーワードをご紹介します。

1. プレーリースタイル

 1900年代の10年間に、ライトは約60軒のプレーリーハウスを建てました。プレーリーハウスは、水平に伸びる低い屋根、深い軒、連続する窓が特徴で、外観はシンプルですが、室内には美しい空間が広がります。日本の民家からも影響を受けたとされており、アメリカ中西部のプレーリーにふさわしいように設計された、ライトの第一期黄金時代を象徴する作品群です。

クーンリー邸

2. 有機的建築

 ライトは、自然と建築が調和し、一体となるあり方を「有機的建築(Organic Architecture)」と名付け、自らの建築理念の中心に据えました。有機的建築とは、単に自然の中に建物を置くことではなく、敷地の地形や気候、周辺環境、さらには人々の暮らし方までも含めて統合的に捉え、建築と自然が相互に呼応する関係を目指す思想です。そのため、建築は周囲の環境から切り離された存在ではなく、その土地から生まれたかのように自然に溶け込むことが求められます。こうした有機的建築には、以下のような特徴が挙げられます。

① 有機的建築は、風土や敷地環境から生じてくる
建築は、固有性をもって築かれるべきで、国や敷地、個人にとって唯一無二のものとなるべきである。
② 有機的建築は、完一性、緊密な統一感、全体性を有している
部分と全体、形態と機能が、不離一体の関係をもって調和した建築のあり方を目指す。
③ 有機的建築は、外から当てはめられたり応用されたりするものではなく、そのものの内部から生成してくるもの、内発的なものである
建築家は、形態や構造におけるシンプリシティ、素材そのものがもつ本性をつかみとえる目を養う必要性がある。
➃ 有機的建築は、変化を受け入れ、成長していく。
建築へのアプローチに時間軸を導入する。

タリアセン・ウェスト

3. ユーソニアン・ハウス

 ライトは、1936年ごろから、地下室と屋根裏のない平屋建ての廉価な住宅を設計しました。このユーソニアンハウスは木材、ガラス、コンクリートを使い、大きな窓と開放的な平面構成により、機能的で美しい家として歓迎されました。その多くは平たい陸屋根を持ち、つくりつけの家具、無塗装の壁、床暖房、ガレージではなくカーポートを持つなどの特徴があります。
 ユーソニア(Usonia)は「United States of North America」の頭文字に由来しているとされています。

ジェイコブズ邸(ユーソニアンハウスの代表例)

作品の特徴

 フランク・ロイド・ライトの建築に見られる特徴としては以下のようなものが挙げられます。

1.テキスタイル・ブロック

 コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエに代表される近代建築は、装飾を排した簡潔で合理的なデザインを特徴とし、当時「国際様式(インターナショナル・スタイル)」と呼ばれていました。一方で、ライトは建築を単なる機能的な器として捉えるのではなく、素材や模様、光と影の表現を重視し、独自の装飾性を積極的に建築へ取り入れました。
 その代表例が、コンクリートブロックの表面に幾何学的な凹凸模様を施した「テキスタイル・ブロック」です。ライトはこのブロックを単なる構造材としてではなく、建築を構成する意匠要素として活用しました。壁面や開口部などに同じパターンを繰り返し用いることで、建物全体に統一感とリズムを与え、光の当たり方によって刻々と表情が変化する豊かなテクスチャを生み出しています。

エニス・ブラウン邸

2.水平ラインの強調

 フランク・ロイド・ライトは、柱や暖炉といった垂直要素に対して、軒や床スラブなどの水平ラインを強調することで、建築に伸びやかな広がりを与えました。特に、広大な平原が広がるアメリカ中西部の風景に呼応したプレーリーハウスでは、この水平性が重要なデザイン要素となっています。 
 代表的な手法の一つであるオーバーハングは、屋根を壁面よりも大きく張り出させることで、建物を低く水平的に見せるとともに、大地にしっかりと根を下ろしたような安定感を生み出しました。また、深い軒下空間は内外を緩やかにつなぎ、自然との一体感を高める役割も果たしています。
 さらに、ライトが積極的に用いたカンティレバー(片持ち構造)は、下階よりも床や屋根を大きく張り出させることで、実際の床面積以上の空間的な広がりを感じさせました。同時に、建築が重力から解放されたかのような軽やかさや浮遊感を演出し、周囲の景観の中に建築をダイナミックに浮かび上がらせています。

落水荘

3.圧縮と開放

 フランク・ロイド・ライトは、その卓越した空間構成によって人々に強い印象と感動を与えたことから、「空間の魔術師」と称されています。ライトの建築の魅力は、単に美しい形態や装飾にあるのではなく、人が建築の中を移動する過程そのものを演出し、空間体験をドラマチックに構成した点にあります。
 その代表例が、初期の傑作である ユニティ・テンプル です。訪問者はまず天井の低い比較的暗い空間へと導かれますが、いくつかの扉を抜けて進むと、突如として三層吹き抜けの礼拝空間が現れます。そこでは四方の高窓や天窓から降り注ぐ豊かな自然光が空間全体を満たし、圧倒的な開放感と神聖さを生み出しています。
 光と影、天井高さの変化、視線の誘導、動線の演出を巧みに組み合わせることで、利用者の感覚に働きかけ、単なる機能空間を超えた豊かな体験を創出するこの空間操作は、住宅やオフィスビル、美術館など多様な建築作品にも一貫して用いられています。

ユニティ・テンプル内部

フランク・ロイド・ライトの作品紹介


 フランク・ロイド・ライトはアメリカで多くの作品を残しました。
 ここではライトの有名な作品を5選紹介します!

1. ユニティ・テンプル(1908年/アメリカ)

ユニティ・テンプル

 ユニティ・テンプルは、オークパークに建つフランク・ロイド・ライト初期の代表作であり、彼にとって最初の本格的な公共建築として知られています。当時としては先進的であった鉄筋コンクリートを主要構造に採用し、従来の宗教建築とは異なる革新的な空間を実現しました。また、ライトは限られた予算の中で高い建築的効果を生み出すため、コンクリートの打設時に用いる型枠を工夫し、壁面や細部に幾何学的な装飾を施しました。これにより、後から装飾材を付加することなく、構造と意匠が一体となった豊かな表情を獲得しています。合理的な施工方法によってコストを抑えながらも、光と影が織りなす印象的な空間を創出した点は、ライトの設計思想をよく示しています。

2. ロビー邸(1909年/アメリカ)

ロビー邸

 ロビー邸は、プレーリースタイルの理念を、都市部の限られた敷地条件の中で発展させた代表作として知られています。建物は、約6mにも及ぶ大胆なカンティレバーによる庇やテラスを備え、水平ラインを強調した細長く低層な構成が特徴です。 
 赤レンガと石灰岩による水平目地が建物の伸びやかさをさらに際立たせ、深く張り出した軒は建築に安定感と重厚感を与えると同時に、周囲の景観との連続性を生み出しています。また、内部空間も壁で細かく区切るのではなく、連続した広がりのある構成とすることで、水平性というテーマを建築全体に貫いています。

3. タリアセン(1911年/アメリカ)

タリアセン

 タリアセンとは、ウェールズ語で「輝ける額(Shining Brow)」を意味する言葉です。フランク・ロイド・ライトはこの名称を、自らの理想を体現する住居兼スタジオ、そして後に建築教育の拠点となる施設に与えました。ライトの故郷であるウィスコンシン州スプリンググリーンの丘陵地に、1911年から自邸兼アトリエとして建設が始められ、その後、弟子たちとともに工房や共同生活のための施設へと発展していきました。建物は周囲の地形や自然環境を尊重して配置されており、地元産の石材や木材を用いることで、まるで丘陵地から生まれたかのような景観との一体感を実現しています。

4. ジョンソン・ワックス本社ビル(1939年/アメリカ)

ジョンソン・ワックス本社ビル

 ジョンソン・ワックス本社ビルはアメリカ・ウィスコンシン州ラシーンにある、1939年に完成した革新的なオフィスです。角が丸くなったやわらかな外観をしており、有機的な造形と機能性が融合しています。最大の見どころは、天井高約6.5mある約2700㎡の大空間「グレート・ワークルーム」で、天井を支える柱は先端がハスの葉のように広がり、その隙間からは、ガラスチューブのトップライトが作り出すやわらかな光が差し込みます。家具や照明までライトが手掛け、空間全体に統一感が行き渡っています。1950年にはライトのデザインで研究塔も加わり、今もジョンソンワックス社のオフィスとして使われています。

5. ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(1959年/アメリカ)

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館は、ライト死後の1959年に完成し、その遺作として知られています。20世紀以降の近現代アートを展示しており、ピカソ、セザンヌ、ゴッホら有名芸術家の常設展があることでも人気を集めています。内部では、螺旋階段が天上へと登る導線が美しく続いており、自然光に照らされたやわらかい空間が魅力です。

フランク・ロイド・ライトに関する本の紹介


 ここからはフランク・ロイド・ライトについてもっと知りたいという方のために、本をご紹介します。

👉初心者向け
『フランク・ロイド・ライト 建築は自然への捧げ物』
 フランク・ロイド・ライトの人生を詳細に紹介しています。各年代の作品に触れる形で、ライトの人生を追うことができるので、入門としておすすめの本です。

👉初心者向け
『有機的建築』
 フランク・ロイド・ライトの4つの講演をまとめた本です。ライトの思想が本人の言葉でわかりやすく語られているため、おすすめの本です。

👉中級者向け
『フランク・ロイド・ライトに学ぶ50の建築レッスン』
 フランク・ロイド・ライトの建築手法が50個に分かれて紹介されています。ライト建築の魅力について深く理解できるので、建築を勉強している人にとっては特におすすめな本です。

👉上級者向け
『自伝: ある芸術の展開』
 フランク・ロイド・ライトが自分で記した自伝です。史実とフィクションが織り交ぜて書かれていますが、彼の視点から当時の歴史を見ることができるので、ライトに興味がある方は手にとってもよいと思います。


最後に

 フランク・ロイド・ライトの作品は、世界中で見られ、日本国内でも見ることができます。その影響力は多大で、遠藤新や土浦亀城をはじめとして日本の建築界に大きな足跡を残しています。また、今日、日本で見られる多くの住宅はライトのプレーリーハウスから模倣されている部分も多いので、ぜひライトの世界を堪能してみてください。

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