NVIDIA一強に風穴を開けるか 日本発AI半導体「CGLA」が突きつける“電力という本質”
静かに始まった違和感
2025年11月、日本経済新聞が、日本のスタートアップLENZOによる新しい半導体アーキテクチャ「CGLA」を取り上げた。
PlayStationの中核プロセッサを手がけた技術者たちが、GPU時代の前提そのものに疑問を投げかけている──そんな切り口の記事だった。
翌12月にはテレビ東京も、LENZOの取り組みを紹介し始めている。
CGLAは、単なる「速いチップ」ではない。
AI計算が抱える根本的な問題──電力と構造──に正面から向き合う試みだ。
AIはなぜ「電気をバカ食いする」のか
AIはもはや実験段階の技術ではない。
検索、翻訳、画像生成、業務支援──社会のあらゆる層に浸透している。
一方で、その裏側では深刻な問題が進行している。
電力消費だ。
AIモデルの学習や推論では、膨大なデータを何度も読み書きする。
その結果、データセンターの電力需要は急激に増え、
「AIは便利だが、コストとエネルギーが重すぎる」
という矛盾を抱え込んでいる。
この問題の根底にあるのが、長年使われてきた計算構造そのものだ。
フォン・ノイマン・ボトルネックという宿命
従来のコンピュータは、
データを保存するメモリ
計算を行うプロセッサ
を分けて設計してきた。
AI処理では、この二者の間を大量のデータが往復する。
この「移動」が、時間と電力を浪費する。
NVIDIAのGPUは並列計算によってこの問題を緩和してきたが、
分離構造そのものは変えていない。
LENZOが注目したのは、まさにこの点だった。
CGLAという発想
「データを運ばず、流す」
CGLA(Coarse-Grained Linear Array)は、
演算器を一直線に並べ、データを流しながら処理する構造を取る。
従来型が「必要な部品を倉庫から何度も取りに行く工場」だとすれば、
CGLAは「止まらない流れ作業」に近い。
データは留まらず
通過するたびに計算され
無駄なメモリアクセスが減る
結果として、電力消費が大きく下がる
NVIDIAのハイエンドGPUと比較して最大9割も少ない電力でAIを動かせるという、圧倒的な電力効率だ
LENZOは、
性能の頂点を競うのではなく、計算の流れそのものを組み替える
という道を選んだ。
なぜ暗号資産マイニングから始めたのか
LENZOが最初に実証の場として選んだのは、AIではなく暗号資産マイニングだった。
理由は明快だ。
計算内容が単純で比較しやすい
ソフトウェア資産に依存しない
電力効率が結果としてそのまま表れる
つまり、技術の素性が誤魔化せない市場である。
公開されたプロトタイプは、
一世代古い7nm製造プロセスにもかかわらず、
最新鋭のマシンを上回る効率を示した。
少なくとも、
「理屈だけの構造ではない」
ことは確認されたと言える。
AI推論で見え始めた可能性
LENZOはその後、CGLAを用いて
大規模言語モデル(Llama)の推論処理を実行することに成功しているようだ。
これは重要な一歩だ。
AI推論では、学習ほどの柔軟性は求められない。
一方で、同じ重みデータを何度も使うため、
電力効率の差が顕著に表れる。
CGLAの構造は、この特性と相性が良い。
ただし、越えるべき壁も明確だ
現時点でCGLAには課題も多い。
AI学習のような汎用・動的計算への適応
GPUとの包括的なベンチマーク
大規模システムでの運用実績
これらは、まだこれから検証される領域だ。
さらに大きな壁は、
CUDAを中心としたNVIDIAの開発エコシステムである。
どれほど効率的でも、
使いにくい技術、展開しにくい技術は広がらない。
かつて開発者たちがかつて取り組んだCellプロセッサが直面した課題を、
LENZO自身も強く意識している。
これは何の転換点なのか
CGLAの挑戦は、
GPUを否定するものではない。
それはむしろ、
「すべてをGPUで処理する必要はあるのか」
という問いを投げかけている。
用途ごとに最適化された計算構造が並ぶ世界。
電力と性能のバランスが、設計段階から問われる世界。
AIが“電気を食う怪物”のままでいいのか。
それとも、より賢く使われる存在へ進化できるのか。
CGLAは、その分岐点に立つ技術の一つだ。
その真価が問われるのは──
これからである。
LENZO
https://lenzo.co.jp/
