『天啓予報』第77章 雷霆の符残光

 霧の中、たった数時間で、どれほどの魚たちが怪獣に食べられたことか。
一般的な印象では、牧場主は万物を食料とみなしている暴虐の神であるか、否定できないことととして、牧場主の名において彼は多くの生物の生命力を支配している。
 食料が肥えなければ、安心して食べることはできない。
 はるか遠くの地獄の至福楽土しふくらくどで少しの慈雨を降らせるだけで、海域全体を霧で覆うことができる。
 濃霧の中、ゴジラに匹敵する巨大生物たちが絶え間なく殺し合い、食い合いの勝者の地位を争っている。
 至る所で殺戮は行われていた。
 ついに、戦艦よりも大きな千以上の怪物が一か所に集まり、最も原始的な獣性と飢餓を宿した目が、その行く手にあるすべての食物を呑み込んでいた。それらは牧羊人の笛に従い、東夏(とうか)へ向かった。
 海上では、辺境と現境の境界で、鋼鉄の戦艦はゆっくりと列を作り、無数の兵士たちが残業して緊急の戦闘準備をしている。
 各種の戦闘機は整然と整備され、離陸し、後方では、沿海地区の各軍区基地でミサイル発射台がゆっくりと起動ししている。
 無数の怪物が海流に乗ってあっという間にやってきた。
 晴れた空に、にわかに雷鳴が轟いた。
 雷光が龍のように走った。千里万里の長きにわたり、地上に壊滅の欠片を降らせた。
 帰浄きじょうたみによって造りだされた濃霧の中、巨大で獰猛な海の獣は雷光の前に薄紙のように引き裂かれ、高温に焼かれ、本物の紙のように海の中に溶けて悪臭を放つ焦げた泥となった。
 すきが大地を耕すように、雷は北から西へ、海面に深さ数メートルの跡を残した。電光の拡散は数十里の彼方に達した。
 このようにして、境界が描かれていった。
 だが雷を放つ昇華者しょうかしゃは顔も見せなかった。
 雷の音が開戦の合図だった。
 その瞬間、魚雷はもちろん、主砲だろうが副砲だろうが、すべての戦艦は火力を全開にした。戦闘機は空母から鳥が飛び立つように空に舞い上がり、唸りながら怪しい霧へ向かって行った。
 空中で、ミサイルが灼熱の尾炎を伸ばした。
 同時刻、沿海のあるゆるミサイル発射基地では、春節を迎えたかのように、戦いの打ち上げ花火が上っていた。
 これは本物の戦争だった。
 世界が注目する中、東夏とうか社会保障局と帰浄の民との大戦が始まった!
 この戦いの結果を疑うものはいなかった。天文会という巨大組織、五大常任理事国のひとつである東夏、数年の戦争を可能にする軍備と昇華者、これらが揃っていて帰浄の民に勝てないわけがあろうか?
 民間の財閥、例えば太清(たいせい)工業や巨鵝(きょが)集団の協力も、辺境ハンターたちの協力も必要なかった。
 社会保障局だけでこの災いを平定するのに十分だった。
 帰浄の民はこの火力を前にどれほど持ちこたえられるか?
 ローマ、エジプト、アメリカ自由同盟、ロシア、そして戦場から最も近い 瀛洲えいしゅう……この時、無数の目が戦場を見つめ、戦況の変化を推測していた。
 もちろん、人の不幸を喜んで見ているカラスも。
「凄い凄い!」
 烏鴉うやは傍に置いてあった快楽水コーラをごくごくと飲むと、げっぷをし、つづいてソースの付いたチキンナゲットを口に放り込んだ。どうやってそんなに大きなナゲットが嘴に入ったのかは見えなかった。そして噛みもせずに呑み込むと、気合を入れて応援した。
「行け!行け!焼き尽くせ!やっちまえー!」
 どちらの味方なのか完全にわからなかった。
 戦争は突然かつ起こるべくして起こった。
 次々と光が空から降ってきて、海上で大きな篝火を燃やした。
 飛び交う鋼鉄の鳥と異形の鳥とは、同じ空で互いに殺し合い、激しい闘争が行われている海面に墜落した。
 巨大な戦艦は絶えず轟音を発し、海中の振動は波をさらに高くした。海中から巨大な獣が飛び出し、大きな口を開けて戦艦に噛みつき、真っ二つにした。
 どういうわけか帰浄の民が優勢に見えた。
 霧は無尽蔵のように海域を覆い、次々と新しい海獣を生み出してくる……東夏では最初にいた昇華者がいまは一人も見えなくなっていた。
 現境の観測によれば、膨大な鋼鉄の奔流は辺境から来た怪物たちを国境の外に足止めしていた。
 海獣が辺境から来るのは未曽有のことだった。
 戦場を避けて回り込もうとした海獣は、戦艦に猛追され、砲火を受け、海の藻屑となった。
 絶え間ない砲撃の中で、霧の発生はついにやんで、無数の海獣の後ろに隠れていた影が現れた。
 確かに、それは海面を漂う影だった。
 どう見ても、その影の上にも下にも、その実体となるべきものが見えなかった。ただ海面に存在し、並の起伏に従って輪郭を揺らめかせいた。
 それは島のように巨大な魚を彷彿とさせた。クジラのように大きな影の中央には大きな空洞があり、至福楽土(しふくらくど)の慈雨を吐き出し続けていた。
 巨大な魚の影の頭部からは無数の触手が伸びていて、それらは動き、まるで遠い距離を隔てて現境と境界を叩くように、鋭い笛の音を発していた。
 それは物質ではなく、現境に付随して移動する辺境であった。
 その独立した辺境は、泡のように現境にくっついている。無数の触手は無 数の海獣と繋がっていて、影は海獣らに前進するように命じ、海獣たちを自らの牽引車とし、東夏沿岸に向かってゆっくりと近づいている。
 それはまるで……生きているようだった!
 盛んな源質げんしつの波動はその影から発散されていた。霧の遮蔽がなくなってから、その存在ははっきりとしていた。
 それは生きている辺境。いや、辺境と昇華者の中間の怪物と言うべきであろう。
 これは牧場主が至福楽土から人間界に注いだ恩寵のひとつ。
 ――深淵の牧場主系譜、奇跡の化身と呼ぶに足る賢者の石、五階の聖痕せいこん・ダゴン!
 霧が消散すると、影は素早く捻じれ、希薄になった。まるで全力でもがき、現境の縁から離脱し、観測から逃れようとするかに見えた。
 その時、万里の上空から笑い声が響いた。
「なぜ行こうとする?」
その声は言った。
「せっかく来たのに」
 万里の空が太鼓を叩いたように震えた。
 あたかも鉄の幕が破裂したかような、無数の亀裂が快晴の空に走った。脆弱な大気は大きすぎる力に耐えられず、崩壊寸前であった。
 雷の轟音は鉄槌のように海面を叩いた。
 その音だけで、数の海獣が砕けた。
 声の波長は遠くまで届き、まるて波が砂で作ったトーチカを押し崩すように、海獣の血液は飛び散り、青い海水を不気味な色に変えた。
 つづいて、一筋の雷が、伝説中の神の梯子のように空から降ってきた。大空を覆い太陽を遮り、すべてが雷の光に覆われた。
 それは海と空を貫き、鈎型となって、現境を離脱しようとしているダゴンに向かっていった!
 雷は海中にではなく、別の世界に入ったかのようだった。雷光はまったく海面から漏れ出ることはなかった。雷霆は狂ったように震えだし、振動によって海中の希薄な影も震えだした。
 鈎のような雷は、巨大な魚に狙いを定めた。
 分裂した電流は暴虐に四方へ拡散し、近づこうとする海獣すべてを引き裂いた。
 すぐに大量の血が海面に広がった。
 海中では、希薄になってきていた巨大な魚の影が再び濃くなった。それは嫌がるように、怒るようにもがいていた。
「――立、ち、上、が、れ!」
 雷鳴のような咆哮が空から響き、瞬間、海面は砕けた。雷に引き寄せられて海水は山のように盛り上がった。
 波は天まで届いた。
 ダゴンの昇華者は姿を現した瞬間に自分の神跡刻印を解放し、海域全体を異化しようとした。が、一筋の雷が天から降ってきて、海の奥深くまで突き刺さった。巨大な影の上を電光は行き交い、山のように大きな魚を閉じ込める檻となった。
 ダゴンの背後から、痩せた姿がゆっくりと現れ、天に向かって見目麗しい顔を上げた。もともと優しく慈悲深い母性を湛えた顔は、いま人をゾッとさせる獰猛で残忍な表情を湛えていた。
 七海が揺れた。
 瞬間、無数の雷光の間、虚空に佇む人影は、手に雷霆を凝縮した鞭を持っていた。
 まるで世界の中心の玉座に座っているかのような、やや年老いた男性の見下ろす双眸は灼熱の神光を発していた。
 第五段階の聖痕・麒麟の戴冠者。東夏の守護者筆頭の存在が、ついに戦場に姿を現した。
十万山河じゅうまんさんが光明遍満こうみょうへんまん
 ――符残光ふざんこう

訳者コメント:
東夏第一の昇華者・符残光の登場です!
私は東夏の昇華者の名前、その中でも特に「符残光」という名前がかっこいいと思い、作者の風月先生に何か出典があるのですかと質問してみたら、「特にない。字典をめくって名前を考えている」ということでした。風月先生も「符残光という名前はかっこいいと思っている」そうですヾ(*´∀`*)ノ

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