『天啓予報』第73章 光あれ
何洛、第二段階の昇華者ナーガは刀術に弱点があった。
人を斬り殺すには、常人を超える力と技術が必要であり、霊魂能力は肉体を補助することしかできない。
烏鴉の地獄の特訓を経験した槐詩からすれば、何洛にはそれがなかった。
何洛の記録の中には、取り立てて言うほどのよい点はなかった。細切れの記録の中にあるのは殆どが殺人、そして集金。
残念なことに、昇華者は稼ぎも多いが、出ていくものも多い。錬金工房でたった四本の弯刀を打ってもらっただけで一千万以上かかった。
毒龍系の聖痕を独占しているミャンマーの宗教――『上座部仏教』は、特殊な薬剤と進階の材料があり、相当な金を儲けている。
何洛がいくら違法な密輸で金を稼いても、あっという間になくなってしまう。
槐詩が何洛の記録を一通り読んで得た最大の収穫は、上座仏教直伝の双刀術だった。
ミャンマーのハゲタカたちは容赦なく金をむしり取るが、品物は気持よく渡すし、何洛に刀術を教える時も何も隠したり端折ったりはしなかった。
だが悲しいことに、何洛は双刀術についてはまったく才能がなく、ナーガの四刀術に至ってはややこしすぎて、槐詩は基礎的な動作しか参考にはできなかった。
上座仏教も興味のない人間を追いかけて親切に教えてあげるわけではなく、要点を説明すると、あとは習得できないのは本人のせいだという態度であった。四本腕を面倒と思うな、更に上級のナーガの聖痕はなんと六本腕だ!習得できないのは縁がなかったということ、強制はしない……
結果それが槐詩に有利に働いた。
双刀術はいいなあ、カッコいいなあ!応用するのは面倒だけど……
六回教官にボコボコにされると、槐詩は逆ギレして縄を出し、教官を縛り上げて多肉植物にしてしまった。
どうせ死んでもまたリロードできる。
試行錯誤と練習によって、槐詩の双刀術は段々と何洛のレベルに近づいていった。
コツがわかってくると、槐詩はやっと四刀術と六刀術の存在を信じられるようになった。
結局のところ、上座仏教の双刀術の核心は状況に応じて動くことである。二本腕だろうが、四本腕だろうが、八本腕でも同じことである。
要点は『弱点を補う』ことである。
それは一種の水の中での戦闘方法であり、水中はナーガのホームである。
水中で有効な技巧は、力押しのものにはならない。そうでなければ水の抵抗に威力が半減してしまうだろう。
つまり極めるべきは、緊密で途切れない攻撃ではなく、敵の攻撃を無力化しつつ反撃すること、静かに技を出すこと、そして効果的なフェイントである。
肝心なのは、刀を出した後の、戻す動きである。
鋸と同じである。鋸の歯が敵の体に傷を付け、ナーガの毒素がその中に入り込み、少しずつ敵を蹂躙して死に至らしめる。
特殊な投げ技により、弯刀の重心を回転させて飛ばすこともできる。達人が使うとき、それは海蛇のように機敏に動く。
この双刀術の恐ろしい点は、殺傷力ではなく、水も漏らさぬ守りとどこからでもやってくる攻撃とで敵の心理にプレッシャーをを与え、少しずつ敵の力を削いでいくところである。
数十人の教官を殺してから、槐詩はやっと『はじめの一歩』を踏み出した。
運命の書の『上座部双刀術』のレベルは4に達した。ローマ式ナイフ格闘術の基礎があったので、上達は速かった。
直接的に最大の殺傷能力を求める軍隊式格闘術と違い、この二刀流は上達すると、意外な面白さがあった。
槐詩は運命の書の中での練習に熱中した。
ああ、教官を叩き殺すのは楽しい。
槐詩は完全にハマっていた。
何度記録を終わらせたかわからないが、槐詩は我慢できずにまた運命の書を開いてしまった。
もう一度、もう一度と……
一方その頃、石髄館(せきずいかん)では、烏鴉(うや)の聖痕鍛造は最終段階を迎えていた。
薄暗い燈火の下、坩堝(るつぼ)の中で溶けた金属は何の光も発することもなく、黒い穴のように周囲の光を吸い込んで、深淵に通じる裂け目のようであった。
『虹屑』『緘黙者の証』『陰鉄霜銀』などの材料を入れると、冷気が立ち上り始め、黒い霧が渦巻き、地下室は霧が充満した、
いまや、「ただ東風を欠くのみ」である。
烏鴉は坩堝の前で哀切に鳴く祭祀刀を見て、優しく言った。
「その時が来たら、自分で飛び込む?それとも私が手伝ってあげる?」
祭祀刀はブルブルと震え、叫び出した。
死んでも嫌だと言うように。
烏鴉に再三急かされて、祭祀刀は鞘から飛び出して烏鴉に向かった。
多くの血と生命と吸い取って、この時祭祀刀は全体が輝き、華麗この上なく、刀身には様々な小さな宝石が填(は)め込まれ、奇妙な呪文が彫られていた。
刀が鞘から出ると、鋭利な殺意が冷風のように室内に発散された。
祭祀刀は烏鴉に斬りかかった。
その後は……その後はない。
烏鴉が顔を上げて祭祀刀を見ると、祭祀刀は机の上に落ち、威力は消え、鳴くことしかできなくなった。
「大胆ね」
烏鴉は冷笑した。
「シペ・トテックだって私の前では大人しくなるのよ。あなたは『剥皮者(スキナー)』のバッタものなのに、どこにそんな勇気があったの?」
烏鴉は当時のアステカ人が崇(あが)めた暴虐の神の名を持ち出すと、傲慢に言った。
「命令されなきゃダメなの?お姉さんにあなたが正常に発育しているか見せてくれる?」
烏鴉は細長い爪で、源質が凝固して作られた宝石をほじくり出し、坩堝で沸騰している金属の中に落とした。
祭祀刀の悲鳴が響く中、すべての宝石はすっかり取り外されて、外側の金も残らず剝がされた。
最後に、烏鴉は柄も解体し、あとには泣き叫ぶ灰色の刀身だけが残った。
「今更同意しても遅いわ!」
烏鴉は嗤った。
「あんたのようなアバズレが、うちの槐詩ちゃんの聖痕になろうっていうの?バカね!今日あんたを引き裂いてやるんでなきゃ烏の姓を捨てるわ!」
自分の『烏』でないことも気にせず、烏鴉は嘴で祭祀刀をつつき、叫んでいる影を引きずり出すと、大きな口を開けて呑み込んだ。
そして、愉快そうにげっぷをした。
羽毛の下、彼女のいまの本体――事象分枝(じしょうぶんし)の上に、微かな金色が浮かんだ。
残念なことに、量が少し少なかった。
烏鴉は残念そうに嘴を舐めると、羽根を振って、見えない力で刀を坩堝の中へ落とした。
坩堝の底は刀の長さより浅いのに、奇妙なことにあっという間に呑み込んでしまった。
刀は一瞬にしてバターのように溶けてしまったのか、それともどこかに通ずる暗黒の裂け目に落ちたのか。
つづいて、沸騰する音が聞こえてきた。
暗黒が滾っている。
沸き返る暗黒の中、物質はゆっくりと集まり、金属の液体の中で寄り集まり、凝集し、表面に光沢が浮かび上がった。
祭祀刀の残骸を主体として、多くの材料を入れると、深淵の奇跡はついに釜の中から湧き出し、その姿を表した。
華麗なナイフのようでもあり、または宝物倉の鍵のようでもある。
ふぞろいな歯が刀の背に生えており、歯のひとつひとつに黄金の輝きがきらめいている。
その柄には、純黒の六角形の宝石が嵌(はま)っていた。
烏鴉は頭を上げ、言った。
「光あれ」
六角形の宝石から炎が燃え上がった。
訳者コメント:
祭祀刀は槐詩の聖痕づくりの材料にされてしまいました……
いったい槐詩の聖痕はどんなものになるのでしょうか?
乞うご期待!
