『天啓予報』第91章 出力が足りないどうしよう?
結局のところ、聖痕の本質は奇跡の残痕である。
だが深淵系譜の奇跡は現境由来ではなく、いくつかの紀元を由来としている。死んでいった世界が残した精髄といってもよく、深層の地獄を探索するのに最適な系譜であると、かつては認められていた。
残念なことに、理想国の墜落と先代の会長の失踪によって、現在は散逸してしまい、完成する見込みもなく、次第に忘れられてしまった。いまはただ、二、三の聖痕が残っているだけで、天文会内部の幾つかの機密部門と、細々としたいくつかの開拓機構以外では見かけなくなってしまった。
六大系譜の潜在力は無限であるために、五階の昇華者の中に、天によって命を受ける者、あるいは地獄によって加冠され王となる者が出現しやすい。
六大系譜の中にはそれぞれ一人、俗世を凌駕して、五階を超越した『天敵』がいるからである。
至上者とは、人間界にいる神明、または人の姿をした地獄であり、現境に存在するだけでこの世界を歪曲する規格外の怪物である。
彼らは現境を転覆することができる怪物であり、現境は彼らの存在なくしては維持できない。現境を維持安定させるために、彼らは特殊な辺境と地獄の中で活動しているのである。
そのような気概と自負があって、六大系譜のひとつを占める東夏は、至福楽土との開戦を恐れてはいなかった。現境にいて、出てきたものを叩く、モグラ叩きのようなものだ。
そういうわけで、艾晴は安心して槐詩に沈悦を連れて行かせた。
社保局の支援があれば、ひどい状況にはならないはずである。
情況がどうであれ、沈悦はやはり三階の昇華者で、戦うことができなくても逃げることはできる。そししてもし運よく槐詩が功労を立てることができれば、社保局に対しても大きな顔ができる。
柳東黎は艾晴に九鳳の進階の情況を説明 すると、体を起こし、サッカー場を木っ端微塵にできる量の爆薬を見て言った。
「それじゃ、上層部の偉い人達に見せてやろう――下っ端たちの本領を」
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槐詩は心底から危機を感じていた。
どこからともなく現れた仲間が、自分の得物を横取りしようとしている!
一瞬、槐詩は戚問(せきもん)を放ってそいつに飛び掛かろうかと思ったが、戚問の何本もの手が槐詩にまとわりついていて抜け出せなかった、
槐詩は目を見開き、その長い薙刀が空中で一回転して戚元の周囲の血の幕を打ち砕くと、頭をひとつ斬り落とすのを見た。
戚元の手の中に。
「ふん……そんなところにいたのか?」
斬り落とされた頭はゆっくりと顔を上げ、驚いている急襲者を凝視すると、手を伸ばした。血の幕が集まり鉄拳となって、急襲者を殴りつけた。急襲者は壁に激突し、めり込んだ。
戚元は傲慢に祭壇に立ったまま、ゆっくりと頭をもとの位置に戻した。
頭を斬られた首から、黒い血が滴り落ちた。血を浴びながら、戚元は冷たく急襲者を見つめた。
戚元は手を伸ばして漆黒の血の幕を解体すると、千の血のナイフを急襲者に向けて放った。
コートが破け、無数の蝶のように舞う布の中から、恐ろしい鬼の面が刃を振り上げて現れた!
大きな薙刀は急速に収縮し、太刀のようになり、空中で回転した。刃にぶつかった黒い血は空中で燃え上った。
更に槐詩を驚かせたのは、大きすぎるコートから少女の華奢な身体が現れたことだ。黒い革靴とストッキング、それからセーラー服……
JK?!
もし少女が顔に恐ろしい般若の面を被っていなかったら、槐詩は自分がコスプレ広場にいるのかと疑ったことだろう。
混戦の中、二人の目が合い、同時に相手の目の中の驚愕を見た。
槐詩は呆気にとられ、それから怒った。
「あんた二階じゃないか。どうして弱いのを寄越したんだ!」
里見琥珀も怒り、正確な発音の東夏語で喋った。
「一階のあんたがよくも言えるね!」
「東夏は俺の国だ。手を出すな!」
槐詩は負けずに言い返そうとしたが、叫び声に邪魔をされた。
「槐詩!槐詩!槐詩!」
戚問がまた這ってきた。
「慣れ慣れしく呼ぶんじゃない!」
槐詩は怒り、斧を持ち上げて戚問の頭に振り下ろした。
「死んだらおとなしく地獄へ行け!もう出て来るな!」
雷斧と心毒が交錯した。
頭を粉々にしても戚問の動きはまったく衰えず、三本の腕と二本の脚で蜘蛛のように槐詩に向かってきた。
つづいて、ぐしゃぐしゃになった顔があっという間に修復され、じっと槐詩を見て叫んだ。
「槐……」
「文字数を増やすな!」
このバカが自分の運命の書の記録を三、四ページも水増するのを見て、槐詩は怒り、飛びかかって斬り下ろした。
またバラバラになり、また元に戻った。
顔だけでなく、腕と脚も、槐詩が真っ二つにしたのに、またひとつに合わさった。
一分も経たないうちに、目鼻口手足触手爪そして出てきた内臓がめちゃくちゃな一塊となり、ちょっと見カレーもつ煮込みのようで、非常に美味しそうだった。
すぐに槐詩は気づいた。この普通ではない生命力の源に。
戚問は戚元に九鳳の黒い血を注入されていたのだ。それも相当高級なやつを。それで殺しても死なない怪物に変化していた。
出力が足りないどうしよう?
槐詩は素早く後退すると、烏鴉の説明書を取り出して必死にめくり、とうとう最後のページにこの問題の答えを見つけた。
『薬を飲む』
――白いラベルのやつ。一粒で喧嘩に勝ち、三粒で敵を殲滅し、全部飲んだら自爆する。
薬?
なんの薬?
槐詩は慌てて体中をひっくり返し、旅行鞄の中の細々したものを漁った。
MP3?違う!スマホ?違う!鍵?違う!財布?違う!エロ本?違う!ちょっと待った……なぜ鞄の中にこんなものが?
槐詩は愕然とぶ厚い冊子の上の『龍虎豹』〔香港の有名な成人雑誌〕の文字を見た。烏鴉はどうしてこんなものを鞄の中に入れたのか?
地下鉄の暗がりの中の寂しさを紛らわせるために差し入れてくれたのか?
「秘密兵器だ、喰らえ!」
槐詩はその雑誌を戚問の頭に投げつけると、また体をまさぐり、やっとポケットの中に薬瓶を見つけた。錠剤は雪のように白く、氷砂糖のようで、水晶のように透き通っていた。
瓶を開けて匂いを嗅ぎ、槐詩は思わず笑い出した。すっかり楽しくなってしまい、空を飛んでいるみたいに何もかもが面白かった。
槐詩は戚問を見た。ああなんて可愛らしいもじゃもじゃさんよく見せてなでなでさせて。
槐詩はもちろんこれが何なのか知っていた。
劫灰が死とマイナスエネルギーの結晶だとしたら、これは生と幸福を凝集して実体化したもの、烏鴉が以前話していた――『解脱者の塵』。
一般的には高級な回復薬の調合に使う材料であり、幸福に死んだ人間の源質を凝集してしか作ることができない。
外国のとある工房では、そのためだけにテレビ局のスポンサーとなって、死に面した人間を満足させる番組を制作し、そのような源質を収集している。
劫灰五〇〇グラムは十万からで売れるが、こいつも十万からの値が付く――しかも一粒で!一粒が十万以上!
そこまで考えて、槐詩の心は砕けた。
飲むのがもったいない!
だがヒトカゲが変化したような奇怪な戚問が目前に迫っており、また自分の得物を横取りしようとしている里見を見て、急に心は怒りに燃え、歯ぎしりし、瓶から三粒出した。
そして、一気に……胸の穴に放り込んだ。
そう、説明書にはそう書いてあった。
なぜかは聞かないで――烏鴉のメモだ。
槐詩は彼女が自分を騙していないことを願った。だが薬を入れた後に槐詩ははたと気づいた。何か変だぞ?
この『解脱者の塵』はプラスエネルギーのはずだ。だが自分の聖痕は、そして自分の胸に満ちているのは……積極性・明るさ・プラスエネルギーの類とは真逆のものではないか?
ゴウ!
槐詩は目の前が暗くなった。
訳者コメント:
「解脱者の塵」ですが、なんと第11章に名前だけは出てきているのです。まさかここで出てくるとは思いませんでした……
里見琥珀という、限りなく日本に似ている瀛洲という国の女子高校生が出てきました。気が強くてがめつくて、大好きです!(『天啓予報』には気の強う女の子が沢山出てきますが、がめついキャラはあまりいないかな……?)
