『天啓予報』第79章 彼女はガチャの中にいる!

 瞬間、白い虹は橋となり、ダゴンと牧場主のつながりを利用して強硬に至福楽土しふくらくどの座標へと一本の道をつなげた。
 開戦以来、この時を待っていた昇華者(しょうかしゃ)たちは橋の上に出現し、数えきれないほどの人影が長い橋の上を走って行った。長い虹の果ての 至福楽土に向かって。
 突撃開始!
 この時、ひとつの海域にとどまらず、帰浄きじょうたみと社保局との大小さまざまな闘いが各沿海の都市で始まった。
 優勢を保っていたとしても、すべての問題を解決できるわけではない。
防御し続けるというは敵の攻撃を待ち続けるということである。それならば、敵の本丸に攻め込む方がよい!
 ――至福楽土に突入!
「わかった。私も行く」
 白帝子はくていしと呼ばれる少女は体の水を払い落すと、腕を上げて空から降りてきた鳩をとまらせ、気合十分で燕青戈えんせいかに向かって手を振った。
「すぐ戻るからね!」
 言うと、身を翻して返して虹へ向かい、数多あまたの人影の中に消えていった。
「道に迷うなよ!」
 燕青戈の声は彼女に聞こえたかどうか。
 道を急ぐ白帝子はどんな時空の錯乱した場所に行ってしまうか、何時間ワープしてしまうかわからなかった。彼女の方向音痴ぶりは驚天動地のレベルだった。
 いつもは彼女が道を間違えても、鳩が鳴き声で注意するので事なきを得るのだが、もし至福楽土で迷子になったら、一巻の終わりである!
 まさか方向音痴もそこまで酷くはない……はず?
  ※
  ※
 そして新海では、叫び声は一段落していた。
 かつて龍馬りゅうまビルがあった場所はいまは廃墟になっていて、ビルの残骸の中では、山ほどの辺境の異種の死骸が体液を塵と泥の中にまき散らしていた。
 いくつもの色が混ざりあい、悪臭を放っている。
 最後に残った狂信徒たちは、もはや包囲を突破して逃げることは諦めており、老いた神父の導きの下、欠けた大きな銅鏡を取り巻き、一心に祈り続けていた。
 祈祷の声はますます大きくなっていった。
 銃声が響くまで。
 銅鏡の前に立っていた神父が仰向けに倒れた。胸には孔が穿たれ、胸と口から血が噴き出していた。
 でん所長は無表情に弾倉を交換すると、叫んでいる狂信徒を蹴とばし、神父の歪んだ顔を見下ろした。死に面して、唇はまだ動いており、苦し気に祈祷の言葉を漏らしていた。
 伝所長は嘲笑した。
「いまでも、神の奇跡を待っているのか?」
「奇跡が……ない場所はない……」
「偶然だな」伝所長は冷たく言った。「ここにも奇跡があるぞ。それも一二五口径の」
 伝所長の背後から、鋼鉄が瓦礫を砕きながら異動する音が聞こえてきた。ごうごうという音を立てて、巨大なタンクは廃墟の中に入り込み、黒い銃砲がゆっくりと動いて、生き残っている狂信徒たちに照準を定めた。
伝所長は身を翻し、手を振った。
「あのバカどもを天国へ送ってやれ!」
「お前は……後悔する……自分がした行いによって……」
血溜りの中、その神父は恨みで顔を歪ませて言った。
「もうすぐ、その目で聖霊の降臨を見るだろう……」
 ドン!
砲声が轟き、すべてが灰燼に帰した。
「とにかく終わった」
 伝所長はポケットを探ると、煙草入れとニコチンパッチを取り出し、ニコチンパッチを放り捨てると、煙草入れを探った。
「いいさ、お祝いに一本、一本だけ……」
 伝所長は満足そうに煙草に火を点けた。顔を上げて煙を吐き出した時、遠くの空からゆっくりと黒雲が沸き起こるのを見た。
 東北の方角。
 伝所長はハッとし、無意識に距離を計算した。もしや……特事所のある辺りか?
 伝所長が狼狽していると、一筋また一筋と、煙は黒い柱のように大地から立ち昇ってきた。増えていく黒雲の柱は、強風に吹き散らされることもなく、天と地の間につっかえるようにして、次第に都市全体を囲んでいった。
 伝所長の傍にいた艾晴がいせいが空を見つめていた。
「『一場の儀式』とは、このことだったの?」
 二人は背後に叫び声を聞いた。
 破壊された銅鏡の中から湧き出した大量の濃い煙、すなわち恐ろしい濃度の『深淵の淀み』が、あっという間に周囲の人間たちを腐食して奇妙な姿に変えてしまった。
『深淵の淀み』が拡散する前に、艾晴から響いた銃声が、銅鏡を破壊した。飛散した無数の銅片は空中で集まり、再び煙を吐き出した。
異化された人間たちはまるで煙に引っ張られるかのように、叫びながら銅鏡の中に呑み込まれていった。
 瞬間、艾晴の手の中にナイフが出現した。ナイフから発せられた金色の光は、真っ直ぐな軌跡を描いて寄り集まった銅鏡を突き刺した。ナイフの中に蓄えられていた無尽の光がその中に入り、ばらばらの世界と地獄のような血生臭い情景を照らし出した。
 まるで太陽が出現したようだった。
 以前ファウストに重傷を負わせた辺境の遺物はこの時に壊れた。つづいて、凝集して実体となった光は集まった鏡界の中で屈折し衝突し、最後に一か所に集まって、爆発した。
 空中に浮かんでいた銅鏡は激しく揺れると、灼熱の赤色になり、あっという間に溶け、溶けた銅が雨のようにポタポタと落ちた。
最後の瞬間、人のものではない怒りと悲鳴がその中から響いた。
 大きく奇妙な腕が一本、その中から伸びてきて周囲の情景を破壊された鏡のように粉々に打ち砕いた。瞬間、天地はひっくり返り、すべてが幻覚のように消え失せた。
 伝所長はハッとし、咄嗟に隣を見た。
 彼の傍にある車椅子は空になっていた。
 座っていた艾晴はいなくなっていた。
 二人の昇華者までも。
  ※
  ※
 三十分前、特事所の地下二階、監獄の中。
 スマホのモニターの中、召喚ムービーが光り、感動的な音楽が鳴った。
「SSR!SSR!SSR!」
 槐詩かいしは目を見開いてモニターを見つめ、期待に胸を一杯にして叫んだ。
 そう、槐詩は自分のスマホを手にしていた。
 Wi-Fiが繋がっただけでなく、自分の家のように一日中ベッドに寝っ転がってスマホでゲームをし、そして金が入ったので太っ腹になり、一晩考え抜いた後、地団太を踏んで歯ぎしりし、ついにゲームに三十元課金したのだ!
 彼は生まれて初めて月間パスを持つユーザーになった。
 その他のことはともかく、槐詩は自分が急に偉くなったような気がした。
いままで少しずつ貯めていた分と、月間パスで毎日二十個貰える石を合わせると、ちょうど十連ガチャが引けた。白帝子(はくていし)ピックアップガチャが終わる数分前、槐詩は意を決してボタンを押した。
 そしてきらめきの中……
 笑顔は次第に消えていった。
 一回また一回とガチャを引き、ついに希望はアフリカの空の白い雲の中に消えた。
「なんでだよ!」
 槐詩は無力にベッドに倒れこんだ。永遠にガチャの白帝子さんとはお別れだった。槐詩は声もなくむせび泣いた。
 唯一ほしかったカードなのに。
 オタクの痛哭の中、槐詩はふいに階段を下りてくる足音を聞いた。
 厳しい表情をして警棒を持った二人の看守がやってくると、真っ直ぐに槐詩……の隣の房に向かった。
戚元せきげんがいなくなった!」
 見知らぬ警備員が警棒で牢屋の柵を叩き、大声で知らせた。
ベッドに横になっていた槐詩はがばっと顔を上げ、彼らを見た。
 眉間に皺が寄った。
 その二人の看守からは、よく知っている匂いがした。
 血の匂い。
「今日は李さんが当番じゃないのか?」
 槐詩は尋ねたが、答えはなかった。逆に魚の骨が喉に刺さったような冷たい殺意を二人の警備員から感じた。
 槐詩は悟り、それから溜息をついた。
「ここでのんびりと服役していたかったのに」
 槐詩はスマホを放った。
 スマホがまだ滞空している間に、少年は壊れたベッドから飛び起き、発射された弾丸を躱した。
そ して、燃える掌から看守に向けて無形の斧が飛んでいった。
 ビュン!と斧が空を切り、引き金を引いた看守の手首を斬り落とした。つづいて黒い縄が伸びてマシンガンを奪い取った。
 槐詩は着地すると、マシンガンをキャッチし、武器を失った看守に向かって引き金を引いた。
 頭が砕けた。
 それから槐詩は拳をぐっと握りしめ、劫灰こうかいを湧き出させ……ようとしたが、何も出てこなかった。
 槐詩は気まずさとともに気が付いた。近頃の生活は穏やかで快適で、食っちゃ寝してはゲーム三昧、マイナスエネルギーを溜めることなどできなかったことに。
 知らず知らずのうちに、マイナスエネルギー製造機の能力は、安逸な生活の中で枯渇していた……
 安楽オタクの生活とは、かくも恐ろしいものか!
 槐詩は慌ててもう一人の看守の銃撃を躱すと縄を出した。縄は蛇のようにうねって看守に巻きつき、あっという間にぐるぐる巻きにした。
 槐詩は斧を出し、柵に向かって力いっぱい振り下ろした。金属がぶつかる音がして一山の鉄棒が切れた。槐詩は無理やり牢から抜け出すと、隣の牢を見た。
 戚元が口封じされたのではないかと心配したのだ。
 だが血は流れていなかった。
 牢獄の扉を開けると、いかめしい獄卒が恭しく戚元の足元にひれ伏し、両手で高々と漆黒の美酒を捧げ持っていた。
「来たのか?」
 戚元は顔を上げて槐詩を見た。その顔は槐詩が想像していたのとはまったく違っていて、驚くほど痩せこけ、目は真っ赤に血走っており、ずっと悪夢の中でもがいていたようだった。
「いいさ、俺を見送ってくれ」
 戚元は小さな酒壺を手に取り、槐詩に向かって笑うと、一気に飲み干した。
 槐詩は咄嗟に縄で酒壺を奪おうとしたが、間に合わなかった。そして強い気流が巻き起こった。
 まるで爆弾が戚元の体内で爆発したかのようだった。

訳者コメント:
ガチャは、中国語で「卡池」と書き、ピンインは「Ka3chi2(カチ)」、「カードの池」という意味になりす。上手く訳したものですね!
しかし槐詩が遊んでいるスマホのゲームのガチャの中に白帝子が……?!いったいどういうことでしょう?!続きをお楽しみに!ヾ(*´∀`*)ノ

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