第217章 今日からスのつくアルバイト!
「名前は?」
「槐詩です」
「歳は?」
「十七です」
「若いなあ」
やや古ぼけた事務室の中、向かいに座った『小猫』は槐詩をしげしげと眺めた。
この着ぐるみに入ってるのは中年男性に間違いなかった。その着ぐるみはいつ洗ったのかわからないぐらい汚れていて、また使用者はまったく大事にしている様子もなく、着ぐるみを着たまま煙草を吸っては、時折小猫の口から手を出して煙草の灰をトントンと落とした。
煙が小猫の両目の下からゆらゆらと立ち昇る立ち昇った。
ここに来て胸に付けたカード見せると、彼はこの事務室に連れて来られ、この小猫楽園の看板に描いてあるのとそっくりの『小猫』社長の面接を受けることになった。
槐詩は散らかっているデスクを見た。
そして頭上の蜘蛛の巣だらけの電灯と、部屋の済に積み上がっている食べ物のゴミを見て、微かな汗臭さの中で、思わず息を止めた。
この遊園地は潰れそうな気がする!
ここで仕事をすることに未来はあるのか?
実際このミッションにどんな意味があるのかわからなかった。
小猫はしばらく槐詩を見ていたが、ふいに言った。
「そんなに若いのにどうして諦め悪く応募してきたんだ?」
「は?」
槐詩はぽかんとした。
瀛洲人は特別に変態で、面接の時に意地悪な質問をたくさんしてくると聞いていたので、彼は来る途中に色々な答えを用意しておいたが、まさかとんな質問が飛び出してくるとは思わなかった。
対処できなかった。
「ま、どうでもいいけど」
小猫は煙草を吸いながら、口の中から出した手で煙草の灰を弾き落とした。歳をとったデクノボウのようだった。
「あいつらと協議した結果、スタッフ証をつけた応募者をこっちは拒否できないことになった。だから不採用の心配はしなくていいよ……どうせみんな愛と夢のためにここに働きに来るんだし、こっちは労災の責任は取らないよ」
おい、いま当たり前のように良心の欠片もないことを言ったな!
「炎天下に分厚い着ぐるみを着るのも日常茶飯事だよ。暑くて眩暈がしてても脱いじゃだめ、だって子供たちが驚くからね。一日十八時間の重労働と横暴な客のクレーム対応に、三十歳になる前に心を病むんだ。だけど顔で笑って心で泣いて、お客さんの要望に応えること、それこそがスタッフの仕事のだいご味だよ坊や!」
いや、あんたらは単に可哀想なスタッフを搾取しているだけじゃないか!
「もし運がよければ、そんなに苦労しなくてすむさ」
小猫は灰皿に山になった吸い殻の中で煙草を揉み消すと、ボロボロの履歴書を放り投げた。
「平田の奴がたまに魚を沢山くれるから、あの家の推薦なら何の問題もない。それに見たところ君は邪気と殺気に満ち溢れてて、シゴデキっぽいから、働きたい場所を自分で選んでごらん」
「おお……」
槐詩は奇妙な職務表に目を落とした。わけがわからなかった。
「スプラッター・マウンテン?イッツ・ア・ビッグワールド?オブ・ジ・アース?……いったいどんなミッションなんですか?」
「知らないのか?」
小猫は困ったように言った。
「ああ、君たち外の人間の言い方をすれば、敗者復活戦だ。小賢しい外部の人間がルールを守らず好き好き勝手して、地元の暴力団にこてんぱんにされ、それでも死んでない奴はみんなここに送られて来て、俺たちのパフォーマンスを見る。おっと、ちがった、君のパフォーマンスだ」
「それで?」槐詩は尋ねた。「俺がチェロを弾いて、幾つかのプログラムをこなし、みんなが楽しく一日を過ごすとか?」
「そうそうそんな風……なわけあるか!」
「客として来た人間のミッションは、飲み食いして遊ぶこと」
小猫はバカにしたように笑いながら説明した。
「今日中にこの遊園地のすべてのアトラクションを遊び尽くした奴は、もう一度大会に参加する資格をもらえる。途中で逃げ出したり死んだりしたものは、完全に資格を失い、退場だ」
「それじゃ俺の任務は……」
槐詩は嫌な予感がした。
「ここまで話してもまだわからないのか?」
小猫の目の穴の奥からはっきりとした悪意が伝わってきた。
「どんな場所で、どんなやり方で、どんなおかしなパフォーマンスをしてもいいから、客を君の持ち場で殺すことだ。速ければ早いほど、惨たらしければ惨たらしいほど、多ければ多いほどいい……これが君の仕事だ。業績を上げれば上げるほど、給料も高くなるし、昇進のチャンスも増える。これで理解したか?」
「ええと……」
槐詩は最後の質問をした。
「もし俺が殺されたら?」
「君の大会参加資格が殺した人間に譲渡されるだけだ」
小猫は肩をすくめ、それからぬいぐるみの猫の手でデスクを叩くと、顔を近づけ、ベテランの様子で言った。
「なあ、俺が発行したこのスタッフ証を受け取ったということは、君にはスタッフの素質があるってことだた。先輩として、まだ他の奴らが来ないうちに、俺がいちばんいい場所を選んでやる。どれどれ……」
小猫は地図をしげしげと眺めていたが、突然パン!と手を叩いた。
「ここだ、ここがいちばんいい。それと十数人のベテランスタッフをつけてやろう」
「ホーンテッド……キャッスル?」
槐詩は職務表に書いてある説明文を読むと、顔を上げて尋ねた。
「要するに……お化け屋敷を運営するってことですか?」
「そうだ」
小猫は槐詩の高い理解力に満足すると、彼を指さして言った。
「君は『惨劇の巨人』となったのだ!」
「……」
なぜかはわからないが、なんとなく不謹慎なことを言われた気がした。
運命の書もこの話に恐怖の気配を感じ取ったようで、微かに震えだした。
「この呼び方、気に入らなかった?」
小猫は不思議そうに槐詩を見た。
「それじゃ、変えようか……死体を作り出すんだから、『屍の錬金じゅ……」
「ちょっと待った!」
運命の書の震えがさらに激しくなり、槐詩は急いで手を挙げた。
「別のやつで」
「あれもダメ、これもダメ、まったく気難しい奴だなあ。それじゃあ色々任せるから、マスター・オブ・スキルで……」
「俺で遊ぶのやめてもらえませんか?」
「それじゃ『贅婿~ムコ殿は天才……」
「ムコどのってなんなんです、俺とまったく関係ないでしょう!」
「ああ、てっきり平田家の入り婿だ思ってた。しかしこうして見ると、むしろクズ悪役っぽい顔をしているね?」
「勝手にクズの役に俺をあてはめるのはをやめてくれませんか?しかも、どんどん酷くなってる!」
「わかったわかった」
小猫は顎を書くと、しょうがなさそうに溜息をついた。
「君が嫌なら、俺もおせっかいはやめるよ」
小猫は折れると、槐詩の傍で『弟分』にずっと忘れられていた『兄貴』にどうでもよさそうに話しかけた。
「それから君は……」
言いかけて、彼はハッとした。
小猫は原照をまじまじと見ると、心底驚いたようにヒュッと息を飲んだ。
「こんな才能のある人間を、いままで見たことがない!」
「えっ?」
原照はきょとんとし、だがすぐに、得意げな表情になった。
自分がダイヤの原石であることを見抜くとは、実にたいしたものだ。
小猫は原照をじっと見ながら、厳かに言った。
「見たところ、君は武器の使用経験が豊富だね?」
「ええ!『一点の寒芒先ず到り、従いて後に槍龍の如く出ずる』知ってますか?!」
「そんなに凄いのか?」小猫は喜んだ。「スピードは速いとして、パワーは?」
「『百万馬力』とは」
原照は親指を立て、自分の顔を指さした。
「まさに俺のことです!」
その傍で、なんとなく胡散臭さを感じた槐詩は思わず頭を振った。小猫に褒められて、このガキは有頂天になっている……この血も涙もない資本家ががお前に娘を嫁にやると信じているのか?
「若者はいいなあ、無限の可能性がある!」
言うと、小猫は喋るを取り出し、原照に押し付けた、真心をこめて言った。
「君は若くて、きびきびしてるようだから、ここで俺と猫砂を掘ってくれて」
「は?」
原照はシャベルを手に、ぽかんと目を見開いた。
「恥ずかしながら、ここ二日ほど下痢気味で、猫砂の使用量も増えて……」
小猫は窓の外の、蠅がわらわらとたかっている山を指さした。
「あの盛り上がってる土が見えるかい?あれだよ。君の仕事は日が沈む前にあれを掘り終わること……がんばれ、君ならできる」
そう言うと、手を振った。
室内にいた原照がふっと消えて、次の瞬間、彼は叫びながら空中から落ちてきて、猫砂の山に落下した……
「可哀想に」
槐詩は思わず首をすくめると、心からあのガキに同情した。
小猫は椅子に座っていて、美味しそうに煙草を吸うと、一枚のカードを槐詩に押し付け、手を振って叫んだ。
「次の人!」
ドアが開き、外で待っていた応募者が入って来た。
だが今度は平田家の紹介の者ではなく、小猫は面倒くさそうに言った。
「名前年齢出身地、職業は?」
応募者が答える前に、槐詩の驚きの声が響いた。
「どうしてお前が!」
「それはこっちのセリフだよ……」
刀を佩いた少女は槐詩を見て、まなじりをピクピクとひきつらせた。
「だけど、いまのところは、私たちは敵同士じゃないわね、伝奇ちゃん」
槐詩はただ笑って、胸のカードを琥珀に見せびらかした。
「それじゃがんばってね、琥珀ちん」
少年はドアから出ると、さっとと歩き出した。
時間は待ってくれない。
開園時間の八時まであと一時間、急いで仕事環境とと新しい部下を把握しなければならない。どんなへんてこなミッションであろうと、業績を上げるしかない。でなければ次のステージに進むことはできない……
これから相手をするのが自分と同じ新人大会参加者であることに思い至って、槐詩は拳をさすった。闘志が沸いてきた。
※
十分後、槐詩は絶望していた。
ここに来るまでの間、彼は色々と考えていた。『ホーンテッド・キャッスル』なんていうバカげた名前だけど、まさかゾンビなんていないよな?
まさか本当にいるとは……
寂れた遊園地の片隅にある、ボロボロの古城の中は、埃だらけで、あちこちに戦いと殺し合いの痕跡が見られ、陰鬱な気配が漂い、生臭い風が吹くと、壊れかけた木の扉がギシギシと耳障りな音を立てた。
怪しく陰鬱そうだった。
そして、古城のてっぺんの休憩室には、デクノボウの気配が充満していた。
訳注:
・今日からスのつくアルバイト!……「今日からマのつく自由業!」のもじり。「原文「从今天开始做STAFF」は《从今天开始做藩王》というネット小説のもじりと思われるが、日本の読者にはなじみがないのでこのように訳しました。
・「惨劇の巨人」「屍の錬金術師」は『進撃の巨人』『鋼の錬金術師』のもじり、「マスター・オブ・スキル」「贅婿~ムコ殿は天才策士~」「クズ悪役の自己救済システム」は中国の有名なネット小説のタイトルです。
原文では「惨劇の巨人」「屍の錬金術師」はそれぞれ《我有一座冒险屋》《诡秘之主》というネット小説のタイトルが使われていますが、日本の読者にはなじみがないのでこのように訳しました。
訳者コメント:
この章はネタが多いです(笑)。訳すのは大変ですが楽しいです。
