自己改善型コーディングモデル「Ornith-1.0」を9Bと35Bでまとめて検証した(9B 5量子化+35B 3量子化)
こんにちは、くーるぜろです。
今回はDeepReinforce AIがリリースしたOrnith-1.0のベンチ検証です。「agentic coding(エージェント型コーディング)」に特化した自己改善型のオープンソースモデルファミリーで、9B-Dense / 35B-MoE / 397B-MoEという布陣で出てきました。ベースはGemma 4とQwen 3.5、ライセンスはMITで地域制限なし、という太っ腹仕様です。
今回は手元で動かせるサイズの9B(Dense)をQ4/Q5/Q6/Q8/BF16の5量子化、35B(MoE)をQ4/Q5/Q6の3量子化、合計8パターンを同じ40タスクで回しました。
そして今回いちばんおもしろかったのが、35B(MoE)のほうが9B(Dense)より速いという結果です。サイズが約4倍なのに、です。理由は後述しますが、これが本記事の目玉なので9Bと35Bを1本にまとめました。
このモデルの素性

Ornithの売りは「自己改善型トレーニング」です。通常のRLが「解(rollout)」だけを最適化するのに対し、Ornithは解を導く足場(scaffold)そのものを生成・最適化する。良い探索経路を自分で発見して、より質の高い解にたどり着く、という設計です。
GGUFサイズ(公式値):

9BのQ4ならVRAM 6〜8GBで動きます。35BはMoEなので総量こそ大きいですが、アクティブ層が少ないぶん体感速度は軽い(後述)。
公式ベンチ(参考)
公式モデルカードのコーディングベンチ抜粋です。同クラスのQwen3.5・Gemma4を上回るスコアを主張しています。

9Bでも同サイズQwenをダブルスコアで上回る項目があり、35Bはほぼ全項目でトップクラス。エージェント系ベンチに振り切った調整が効いている数字です。
ここから先は、この公式値が手元のローカル環境(量子化GGUF)でどこまで再現するかを自分のベンチで確かめます。
検証環境
実行環境: llama.cpp(CUDAビルド)
ハードウェア: EVO-X2 + RTX5090 32GB
タスク数: 40問(easy 5 / medium 5 / hard 10 / expert 12 / frontier 8)
内容: Pythonのバグ修正・実装タスク(関数レベル、決定論的pytest付き)
評価軸:
Resolved率(pytestが全パスしたか)
Quality(コード品質: ruff・保守性指数MI・循環的複雑度)
Combined(上記の総合スコア)
usability(🟢自律 / 🟡補助 / 🔴不可)
結果サマリ
9B(Dense・5量子化)

35B(MoE・3量子化)

結論: コスパなら9B Q4_K_M(87.5%・200 tok/s・VRAM 6GB級)。精度と速度を両取りするなら35B Q5_K_M(97.5%・Combined 89.3・259 tok/s)が頭ひとつ抜けている。
35BはQ5でResolved 97.5%(39/40)に到達。40問中1問しか落としません。9Bは最高でも90%なので、サイズ差ははっきり出ています。
今回の目玉:35B(MoE)が9B(Dense)より速い
普通に考えれば、大きいモデルほど遅い。ところが今回は逆でした。

35Bのほうが全量子化で速い。しかも量子化が重くなる(Q6に近づく)ほど差が広がります。
理由はアーキテクチャです。9Bは`qwen35`のDenseで、推論のたびに約9Bの重み全部を通します。一方35Bは`qwen35moe`のMoE(Mixture of Experts)で、総パラメータは35Bでもトークンごとに使うのは一部のエキスパートだけ。実際に毎ステップ計算するパラメータ数はDense 9Bより少ないため、結果として速い。
つまり今回のOrnithは「35Bのほうが速くて精度も上」という、ローカルLLMでは珍しく分かりやすい上位互換構図になっています。VRAMさえ積めるなら(35B Q5で約25GB)、9Bを選ぶ理由が薄い。逆にVRAM 6〜8GBしかないなら9B Q4が現実的な入口、という住み分けです。
9Bの量子化別考察:Q6とBF16が90%、Q4はコスパ番長
9Bは5量子化を回して、おおむね素直な結果になりました。
最高精度はQ6_KとBF16(ともに90.0% / 36問)。Combinedも82.7・82.9とこの2つが上。
Q4_K_Mはコスパ番長。87.5%を保ちつつ199.6 tok/sと最速。VRAMも6GB級。BF16と比べてResolvedは2.5pt差しかないのに、速度は2.3倍。
Q8_0はQuality最高(85.0)だが速度は144 tok/s。精度の頂点を狙うがVRAMに余裕がある、という人向け。
Q5_K_MはQ4とほぼ同じで、あえて選ぶ意味は薄い。
9Bを使うなら、ふだん使いはQ4_K_M、精度を1段上げたいならQ6_K。BF16は90%出ますが88 tok/sまで落ちるので、速度を捨ててまで選ぶ場面は限られます。
35Bの量子化別考察:Q5でほぼ天井、Q4は速いが少し落ちる
35Bは3量子化ですが、傾向ははっきりしています。
Q5_K_MとQ6_Kが97.5%(39/40)で頭打ち。Combinedも89.3・89.2でほぼ同点。
Q4_K_Mは92.5%(37/40)とやや落ちる。それでも9Bの最高値を上回ります。速度は265 tok/sで3量子化中最速。
速度はQ4>Q5>Q6(265→259→245)と素直。精度はQ5=Q6>Q4。
バランスの最適解はQ5_K_M。97.5%を出しつつ259 tok/sで、Q6とほぼ同精度なのにわずかに速くサイズも小さい。Q4は「とにかく速く・VRAMを節約したい」とき、Q6は「Q5と気分で選ぶ」程度の差です。
なお今回35BはQ8_0とBF16が未投入です。Q5/Q6ですでに97.5%と天井に近いので伸びしろは小さいと見ていますが、ここは今後追記予定です。
鬼門タスク:両サイズ共通の壁は2つ
全8モデルを通した失敗タスクの分布です。

t020(電卓の優先順位・括弧)とt021(バンカーズ丸め)がこのシリーズ全体の二大鬼門です。t020は9Bでは全滅、35BですらQ4が落とす。t021にいたっては35BのQ5まで落としており、最後まで残った1問がこれでした。仕様の細部(括弧の入れ子・偶数丸め)を正確に詰める系のタスクが、サイズを上げても最後まで残る壁になっています。
一方t010・t017は9Bだけが落とすタイプで、35Bは全量子化で正解。CSVのクオート処理や文字列整形のような「地味だが仕様が細かい」タスクは、9Bだと量子化次第でブレるが、35Bだと安定して解ける、という差が出ました。
逆に35Bの取りこぼしは非常に少なく、Q5は t021 の1問のみ、Q6は t007(単語頻度の大文字小文字)の1問のみ。Q6のt007はeasy〜medium帯での珍しい取りこぼしで、量子化由来の単発的なブレと見られます(Q4/Q5では正解)。
usability(実際に任せられるか)

「🔴不可(任せられない)」の少なさが実用度を表します。35BはQ5/Q6で不可がわずか1問(2%)。9Bは最良でも4問(10%)残るので、レビューなしで任せられる安心感は35Bが明確に上です。
他の検証モデルとの比較:Qwen系蒸留モデルより明確に上
同じ40タスク・同じ環境(EVO-X2 + RTX5090 32GB / llama.cpp)で過去に検証したモデルと並べてみます。各モデルの最良量子化で比較しました。

読みどころは2つあります。
1. 9BクラスではOrnithが頭ひとつ抜けている。 同じQwen3.5ベースの9B蒸留・FT勢と比べると、Ornith-9Bの90.0%に対しQwythos-9Bは85.0%。5ポイント差で、しかもCombinedは82.9 vs 78.1とさらに開きます。同サイズのQwen系蒸留モデルの中では、現状ベストの結果です。「9Bでここまで出るのか」という水準。
2. 35Bは検証してきた中でもトップ級。 97.5%(39/40)はQwopus3.6-27B-Coder(Q6で40/40満点)に次ぐ2番手で、他の35B MoE(Qwable-3.6-35b 90.0%)を7.5ポイント上回り、12B蒸留のgemma-4-12B-coder(92.5%)も上回ります。しかも速度259 tok/sはこの精度帯では最速クラス。同じ35B MoEでもコーディング非特化のAgentWorld(60.0%)とは別物で、コーディングRLの効きが数字に出ています。
総じて、「Qwen系の蒸留・ファインチューンモデル」という括りで見るとOrnithは明確に上位。9Bは同クラス最強、35Bは満点を出したQwopus-27Bに肉薄、という位置づけです。自己改善型RL(足場ごと最適化する学習)が、ローカル量子化環境でもしっかり効いていると言える結果でした。
まとめ:どれを選ぶか

今回のOrnith-1.0は、ローカルLLMにしては珍しく「大きいほうが速くて精度も上」という分かりやすい結果になりました。MoEのおかげで35Bが9Bより速いので、VRAMが許すなら迷わず35B Q5_K_M。ゲーミングGPU1枚で収めたいなら9B Q4_K_Mが堅実な入口です。
エージェント型コーディングに振った調整だけあって、関数レベルのバグ修正では9Bでも87.5%とソリッド。一方で「電卓の優先順位」「バンカーズ丸め」のような仕様の詰めが要るタスクは、35Bでも完全には潰しきれませんでした。任せるなら補助レビュー前提、というのが地に足のついた結論です。
検証環境: llama.cpp (CUDAビルド) / EVO-X2 + RTX5090 32GB / 2026-06-26
モデルリンク:
・9B: https://huggingface.co/deepreinforce-ai/Ornith-1.0-9B-GGUF
・35B: https://huggingface.co/deepreinforce-ai/Ornith-1.0-35B-GGUF
ベンチマーク:
・https://github.com/zephel01/swe-bench
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