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異色短編「ザ・クレーター」

今回は手塚治虫の異色短編「ザ・クレーター」をご紹介いたします。

連載当時は「恐怖シリーズ」という謳い文句で発表された作品群でありますが、実際は、怪奇、サスペンス、、SF、ファンタジー、社会風刺、ユーモラス学園コメディーなど、
とても一括りにはできない多彩な表現を持った野心作でありました。

読後感も決して良いとは言えないいつもの手塚治虫節も炸裂しており
当時としては明らかに異質な余韻の残る短編シリーズであります。

今回はそんな異色短編をご紹介いたしますので
ぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編行ってみましょう。

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本作は
1969~70年「週刊少年チャンピオン」にオムニバス形式にて掲載された作品であります。

タイトルの『ザ・クレーター』という意味ですが
これは全く意味はありません(笑)
手塚先生自ら、「タイトルには意味はない」と語っておられます。

おそらく連載開始が1969年8月でアポロ11号による人類初の有人月面着陸が前月の7月でしたから、
このトレンドに便乗してつけたタイトルと思われます。

あの天下の手塚治虫がそんな安易な理由でタイトルつけるの?

…と思われるかもしれませんが
はっきり言っておきますと… つけるんです(笑)

実は手塚先生は流行にめちゃくちゃ弱いんで、
流行のものはすぐ取り入れちゃうクセがあります。
これは鉄板で覚えておいてくださいね(笑)
むしろ誰よりもパクるのが早いのが手塚治虫の十八番であります。


さぁそんな『ザ・クレーター』でありますが
少年向けにアプローチされた短編集でありまして、
いわゆる「黒手塚」とよばれるアダルトな要素は
ちょっとナリを潜めております。

…というのもほぼ同時期に1968年から1970年に描かれた短編「空気の底」
青年向けにアプローチして描かれておりこちらでゴリゴリに「黒手塚」ってるのでこちらでは対象読者が若干異なるアプローチをしております。

「空気の底」と『ザ・クレーター』でそれぞれのアプローチの仕方を読み比べてみるのも面白いかもしれませんね。

とはいえダークで痛烈な社会風刺を描いた本作は
少年誌ではずいぶんレベルの高い内容だと思います。
タイトルは流行を取り入れているわりに、内容は全然大衆的ではないという
大衆に抵抗なく受け入れられようとする姿勢は微塵も感じません(笑)

共感してもらう気あるのかってくらい独創的で異質なニオイを感じてしまいますがこれはこの時期、手塚治虫最大のスランプ期であったことが原因でしょうね。
精神的にもかなり病んでおりましたし
何を描いても世間の評価を得られず相当悩んでいた時期であります。

今回はそんな時期に描かれた短編をご紹介いたしますが、
全部で17の短編作があるのですべてはご紹介できません。
なのでボクが好きな作品を1本ピックアップして
後はダイジェストでおすすめの作品を紹介したいと思います。


今回ご紹介おすすめする作品はこちらです。

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「クレーターの男」

これはいいですよ。手塚治虫らしさが前面に出ている傑作です。
ボクは初めてこれを読んだとき、ちょっと放心状態になりました。
なんか色々と人間について人類について考えさせられましたね。

ちなみにタイトルの『ザ・クレーター』とは全く関連はございません。
たまたま被ってしまったという偶然であります。

さて本編あらすじ見てみましょう

197X年、アポロ18号の宇宙飛行士が月面にて遭難してしまいます。

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一人取り残され
死を覚悟するもののクレーターから噴き出るガスを浴びることで
彼は奇跡的に死ねない体になるんです。

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その後もそのガスの力で月の上で生き延び続けること数年…
いよいよ数年ぶりに地球のロケットが現れ人類と遭遇するのですが
そこに待っていたのは感動の救出ではなく恐ろしい悲劇だったんです

さぁ果たしてどのような結末が待っているのか!

というのが本作のあらすじであります。

ここからはネタバレしちゃいますので
見たくない方は退出してください。



さて本編ラストはですね。
月面着陸で奇跡的に生き延びた人間を発見した感動が繰り広げられるかと思いきや「お前の事なんか構ってらんねぇ」って態度取られちゃうんですよ。
これはかなりショッキングな展開でした。

生き残った男はこの奇跡のガスを地球に持って帰って分析すれば死んだ人間を蘇らせれるかもって提案するんですけど

「そんなガスなんか集めても持って帰るひまなんかないよ」
って一蹴されるんですね。

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そして
「地球はいまや世界がまっぷたつに分かれて憎みあってる最中なんだ」
「死人を生き返らせることなんかより、どうやったら敵に勝つかの方が重大なんだ」

と地球から来た人間の超絶に身勝手な発言にびっくりしちゃうんですね。

人類のために歴史を変えるかもしれない大発見なのに
「そんなことより」って言われちゃうんです。

マジかお前らと。
これは人類の大発見なんだぞ。って感じですよ。

挙句に「おいこのあたりのウラニウム鉱脈を知っていたら教えろ」って
詰め寄られて、もはや「何言ってもムダ、諦めの境地」を通り越して
イライラの最高潮です。
お前らどこまで自分勝手なんだ、なんでそんな事になっちゃったんだと
抑えきれない感情が爆発して「ワーーーーーー!」って
飛び出しちゃうんですね。

これはもはや地球に帰らないを意味しています。
あれほどまでに待ち焦がれていた地球の帰還を諦めて
一人寂しく孤独に耐えてきたあの苦しい月面生活の方がまだマシという決断
これは切ないです。…深いです。

そしてラストは光り輝く地球の姿。
これは言うに及ばず核兵器による爆撃の光を表しています。


1945年の8月、人類は核兵器の恐ろしさを身をもって体験しました、
これにより核戦争は終結に向かうかと思いきや
むしろ世界はこれを機に核兵器の開発競争が急速に進んでいきます。

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これを嘆いた手塚先生が人類の愚かさを皮肉たっぷりに描いたわけですが
これが手塚治虫が描いた人間のありのままの姿
人間の奥底を描いたとしたら非常に寂しい限りですよね。

痛烈な社会批判と人間の強烈なエゴを描いた傑作短編
ぜひお手に取って感じ取ってみて欲しいと思います。


ここからはおすすめエピソードを
ダイジェストでご紹介していきます。


●「溶けた男」
これはなんとも言えない読後感に戦慄を覚えますね。
ラストは後味悪いです、どう消化していいのかちょっとためらっちゃう感じです
アメリカ軍から依頼されてある薬品を開発していた大学の科学者が
不思議な謎を解き明かしていくお話なんですが
…これも戦争の愚かさそして繰り返される悲劇を伝えています。

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●「鈴が鳴った」
これもラストはどう消化していいかためらいます(笑)
とある温泉の露天風呂から聞こえてくる鈴の音。
聞いてしまった男女それぞれの想いが呼び覚まされ自身の犯した罪に悩み苦しむというオムニバスストーリー。
これも戦争関連が題材となっておりまして
聴覚によるPTSDと言いましょうか、記憶と音を結びつけたシュールな短編
ラストのシニカルさは何とも言えない後味が残ります。

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●「墜落機」
これのラストはもうド直球ですよ。
戦争で名誉の戦死を遂げたと思われていた主人公が実は生きていて
命からがら生存するんですけど
お国では「名誉の戦死を遂げた英雄」として祀り上げられているから
帰ってきてもらっちゃ困るってことになるんです、
そして政府からもう一度戦死してこいと不条理な命令を受けるんですが…
というお話でラストは痛快といいますか
当時の戦時下における日本の状況を痛烈に批判したパロディ短編になっております。

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●「風穴」
これはすごいです。これこそ手塚治虫節全開の変態短編ですね。
主人公と友達の酒井は同居していて、さらに主人公はマネキンに「ゆかり」と名付けて2人と人形1体で住んでいたんですけど主人公は「ゆかり」に恋をしており完全に一人の人間として扱っているんです。
ここに奇妙な三角関係が生まれ
血みどろの争いになっているというお話でありますが
この無機物、無形のものに生命が宿る描写は手塚先生の十八番ですよね。
これが今回ちょっとブラックな展開になっているというお話であります。

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●「八角形の館」
「もし今選んだ道に疑問をもったら」「やり直せるとしたら」という人間誰もが一度は思ったことがある願望を皮肉を込めてマンガにした短編です。
自分の進路に迷っている少年たちに向けて描かれた作品でしょうけどなかなかにブラックです(笑)
手塚先生の後悔なく好きな道に進みなさいというメッセージでしょうけど
受け取り方によっては「失敗したら終わりだよ」とも受け取れかねないシュールさがありますね。
これはやはり手塚先生自身も連載時は病んでいたんでね
その影響が作品のブラックさに滲み出てしまいましたね。

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はいというわけでダイジェストはこの辺で
このような短編が全部で17編収録されておりますのが「ザ・クレーター」であります


例えスランプな時期であっても湯水のように溢れ出た創作意欲
それを何のフィルターもかけずに書いたらこういうのが出来てしまった的な短編集でありハッピーエンドがほぼないというダークでどれもふしぎな余韻の残る短編ならではの醍醐味をもった作品群になっています。

ぜひご覧になって頂きたいと思います。

そして本作は豪華版も出版されておりますので
こちらもご紹介しておきます。

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こちらは1冊に全話収録し、
ページ数の制限によるエピソードの削除や、未収録ページやカラーページ
幻の各話「次回予告」なども完全網羅した特別版です。

これまで各話の作風の多様性から、テーマ別での分類分けされて出版されることが多かった作品集ですがこれは単行本化初の連載順にて掲載
これは初刊行から実に52年を経ての待望のお披露目であります。

そしてオリジナル原稿からの新規スキャンですので圧倒的な高画質使用。
さらに連載時に毎回の最終ページに手塚先生による筆のカットを含めた「次回予告」を初めて全収録されているようです。
これも今回の特別版のみでの初公開だそうです。

巻末の図説にて、単行本未収録カット、あるいは加筆カットについて
連載版と単行本版の差異を解説したまさに完全版仕様であります。



ぜひチェックしてみてください。
最後までご覧くださりありがとうございます。

本編収録はこちら↑







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