「法人化したら手取りが減った」——売上1,000万円で法人成りした人が踏む、社会保険料の地雷【令和8年税制改正対応】
この記事を読むと分かること
なぜ「売上1,000万円で法人成り」というネットの定説が危険なのか
法人化した瞬間に発生する「年間40〜60万円の固定コスト」の正体
同じ売上1,500万円でも、業種によって結論が真逆になる理由
あなたの事業における「本当の分岐点」を数字で出す方法
【購入者特典】売上・業種・役員報酬を入れるだけで手取りを判定できるシミュレーターツール
「そろそろ1,000万だし、法人化するか」——その判断、待ってください
個人事業主として売上が伸びてきた方から、毎年この時期に同じ相談を受けます。
「売上が1,000万円を超えそうなので、消費税の免税を狙って法人化しようと思うのですが」
そして、そのうち何割かの方が、法人化した翌年に「こんなはずじゃなかった」と青ざめます。
理由はシンプルです。法人成りで手取りが増えるかどうかは、売上ではほぼ決まらないからです。
にもかかわらず、ネット上には「売上1,000万円が目安」という情報が氾濫しています。この数字だけを信じて法人成りに踏み切ると、消費税の節税メリットを軽く上回るコストが発生し、数年単位で見れば数百万円を失うことになりかねません。
この記事では、その「本当の分岐点」を数字で明らかにします。
この記事を書いている私について
現在、最大60億円規模の法人および富裕層クライアントの税務・財務を担当しています。
実務では、個人事業主の方の法人成り支援を数多く手がけてきました。単に「税金が安くなるか」という表面的な計算ではなく、社会保険料の影響まで織り込んだ緻密なシミュレーションの作成から、司法書士等の専門家と連携した移行手続きまでを一貫して行っています。
この記事を書いた理由はひとつです。間違った知識で法人化して後悔する人を、これ以上見たくないからです。
「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えるクライアントには、ある共通点がありました。ネットの情報を信じ切り、自分の状況に合わせたシミュレーションを一度もしていなかったことです。
第1章:「売上1,000万円で法人成り」が危険な理由
なぜネットの情報は「売上1,000万円」と言いがちなのか
結論から言うと、これは**「消費税の課税事業者になるタイミング」だけを切り取った、極めて偏った情報**です。
個人事業主は、売上が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の納税義務が発生します。ここで法人を設立すれば、要件を満たすことでさらに最大2年間、消費税が免税になる——この一点だけを取り出したのが「1,000万円」という数字の正体です。
たしかに、この仕組み自体は事実です。問題は、それ以外のすべてを無視していることにあります。
【重要】インボイス登録をしていると、この免税は使えない
さらに見落とされがちなのがここです。
免税事業者になれるのは、あくまでインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)として登録していない場合に限られます。国税庁も、適格請求書発行事業者である場合は納税義務の免除の特例から除外されると明示しています。
つまり、すでにインボイス登録をしている個人事業主が法人成りし、法人でもインボイス登録をするなら——そもそも消費税の免税メリットは発生しません。
BtoB取引がメインの方は、取引先から仕入税額控除のためにインボイスを求められるケースが大半です。その場合、「消費税の2年間免税」を理由に法人化する意味は、事実上ゼロになります。
なお、免税を受けるにはこのほかに以下の要件もあります。
設立時の資本金が1,000万円未満であること
2期目も免税を受けるには、特定期間(設立から6ヶ月間)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円以下であること
「消費税だけ」を見てはいけない
消費税が免税になるのは魅力的です。しかし法人を設立した瞬間、個人事業主時代には存在しなかった重たいコストが、まとめてのしかかってきます。
消費税の節税額が50万円だったとしても、新たに発生するコストが100万円なら、差し引き50万円のマイナスです。
これが、法人成りで最も多い失敗パターン——「木を見て森を見ない」状態です。
では、その「森」にあたるコストとは何なのか。次章で具体的に見ていきます。
第2章:法人成りで発生する「見えないコスト」の正体
① 税金より恐ろしい「社会保険料」(役員報酬の約30%)
法人化すると、社長ひとりの会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が絶対義務になります。
ここが最大の落とし穴です。
個人事業主が加入する国民健康保険・国民年金と異なり、**法人の社会保険料は役員報酬の約30%**という重い割合でかかります。
令和8年度の実際の料率で計算すると、健康保険9.90%(協会けんぽ全国平均)+厚生年金18.3%+子ども・子育て支援金0.23%=28.43%。40〜64歳の方はこれに介護保険料1.62%が加わり、**約30%**になります(ほかに事業主のみ負担の子ども・子育て拠出金0.36%)。
たとえば役員報酬を月額40万円(年収480万円)に設定した場合:
年間の社会保険料 ≒ 144万円
「会社と個人で折半(労使折半)」と説明されますが、社長ひとりの会社であれば、会社負担分も実質的にはあなたの会社の利益からの持ち出しです。財布が別に見えるだけで、出ていくお金は同じです。
そして決定的な違いがここにあります。
上限の有無個人:国民健康保険 + 国民年金上限あり(年間およそ133万円で頭打ち)法人:健康保険 + 厚生年金上限なしに近い(役員報酬に比例して増え続ける)
※国民健康保険の賦課限度額は令和8年度で113万円(医療分67万円+後期高齢者支援金分26万円+介護分17万円+子ども・子育て支援納付金分3万円)。介護分は40〜64歳のみ加算されるため、39歳以下の方の上限は96万円となります。これに国民年金(年約19.9万円)が加わります。
つまり、役員報酬を高く設定すればするほど、社会保険料は青天井で膨らんでいく。これが「法人化したのに手取りが減る」現象の最大の原因です。
② 赤字でも必ずかかる「法人住民税の均等割」
個人事業主なら、大赤字の年は税金がゼロになることもあります。
しかし法人は違います。たとえ利益がゼロでも、法人住民税の均等割が毎年確実に発生します。
資本金1,000万円以下・従業員50人以下の場合:
都道府県民税(標準2万円)+ 市町村民税(標準5万円)= 年間7万円
※東京23区は特例として一括で都へ7万円を納付。また自治体によっては超過課税を採用しており、7万円をやや超える地域もあります。
③ 税理士報酬という固定費
法人の決算申告は、個人の確定申告のように自力で乗り切れるものではありません。
一般的な税理士事務所に依頼した場合の相場:
項目金額月額顧問料2万〜3万円(年間24万〜36万円)決算申告料月額の4〜6ヶ月分(8万〜18万円)合計年間 約32万〜54万円
コストの合計:法人という「箱」の維持費
均等割と税理士報酬を合わせると:
法人を維持するだけで、年間およそ40万〜60万円が確定で出ていく
これは利益が出ていようがいまいが関係なく発生する、純粋な固定費です。
さらに、これに上限なく膨らむ社会保険料が乗ってきます。
ここまでが「なぜ危険か」の話です
ここまで読んで、こう思われたのではないでしょうか。
「じゃあ、結局いつ法人化すればいいんだ?」
ここからが本題です。
一般的な記事は「利益700万〜800万円が目安」と書いて終わります。しかしこれも、業種を無視した平均値にすぎません。
実際に計算すると、同じ売上1,500万円でも、業種によって結論が真逆になります。
店舗型(飲食店など)→ 法人成りすると手取りが約20万円減る
フリーランス型(コンサルなど)→ 法人成りすると資産が約68万円増える
同じ売上高です。それでも答えが逆になる。
なぜこんなことが起きるのか。そして、あなたの場合はどちらなのか。
ここから先では、実際の数字を並べながら、その構造と「本当の分岐点」の出し方を解説します。
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