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『悪魔はいつもそこに』—悪は、誰のものか

監督 アントニオ・カンポス
主演 トム・ホランド、ビル・スカルスガルド
製作年 2020年
上映時間 138分
ジャンル サスペンス/クライム/スリラー


※本記事には広告・PRが含まれます。


視聴方法

Netflixで配信中(2026年6月時点)。見放題・レンタルの区分や最新状況は各サービスで要確認。

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あらすじ

第二次世界大戦後のアメリカ南部。オハイオ州とウェストヴァージニア州の片田舎を舞台に、信仰と暴力が日常に溶け込んだ世界が描かれる。父から受け継いだ傷を抱えながら生きる青年アーヴィンの周囲に、腐敗した牧師、連続殺人犯、堕落した保安官など、さまざまな「悪」が引き寄せられるように集まっていく。複数の人物の運命が静かに、しかし確実に絡み合っていく群像劇。




見どころ

悪意のない「悪」が漂う空気感

この映画が不気味なのは、悪を行う者たちが悪の自覚をほとんど持っていないことだ。戦後特有の閉塞感と信仰心が混ざり合い、歪んだ行動が「普通」として成立してしまう。その陰鬱な空気が画面全体を覆っていて、観ている側の背筋をじわじわと凍らせる。

全てが一人に収束していく構成の妙

複数の視点と時系列が並走しながら、最終的にすべてがアーヴィンという一点へと流れ込んでくる。その設計の精巧さが見事で、ばらばらに見えたエピソードが一つの必然として結びつく瞬間の緊張感は格別。サザン・ゴシックの文脈を踏まえながら、映画的な快楽として成立させている。

キャスト全員が別の顔を見せる

トム・ホランド(『スパイダーマン』シリーズで知られる俳優)がアーヴィン役でダークな覚悟を体現し、ロバート・パティンソンが偽善に満ちた説教師を怪演。セバスチャン・スタン、ライリー・キーオ、ミア・ワシコウスカら豪華な面々が、それぞれ濃密な存在感を放つアンサンブルキャストとなっている。


制作背景

原作はドナルド・レイ・ポロックが2011年に発表した小説『The Devil All the Time』。邦訳は新潮文庫『悪魔はいつもそこに』(熊谷千寿訳、2023年4月26日刊)。サザン・ゴシック文学の系譜に位置づけられ、戦後オハイオ州とウェストヴァージニア州の田舎町を舞台に複数の人物の運命が交錯する群像劇として書かれた。ポロック自身、無名時代を経て50代でデビューしたオハイオ州出身の作家で、映画版にも深く関与している(※1)。

監督・脚本はアントニオ・カンポス。脚本は実弟のポーロ・カンポスとの共同執筆で、英語版のナレーションはなんと原作者ポロック本人が担当している。製作陣にはジェイク・ギレンホールも名を連ねた。

キャスティングの裏話も興味深い。カンポス監督がトム・ホランドにアーヴィン役をオファーした時点で、監督自身は『スパイダーマン』をまだ観ていなかったという。「ピーター・パーカーとは違い、ナチュラルに毒づきFワードを口にする役として起用した」と語っており、ホランドのことを「彼の世代で最も素晴らしい俳優の一人」と称賛している(※2)。2020年9月16日にNetflixで世界配信された(※3)。


感想

スコア:4.2 / 5.0

すっきりした気分と、哀れむ気持ちが交互にやってくる。そんな複雑な余韻がずっと残っていた。

アーヴィンという人物に、心を持っていかれた。自分の運命に抗わず、しかし覚悟を持って向き合う姿。葛藤がないわけじゃない。でもその覚悟は、映画を観ているうちにどこかずっと前から決まっていたのだと分かってくる。罪がひとつ、またひとつとのしかかっていく中で、彼は祈らない。それなのに、神の存在を感じさせるシーンがある。空包のシーンだ。あのシーンで、映画『クラッシュ』(ポール・ハギス監督・2004年)の「透明マントのシーン」をふと思い出した。人智を超えた何かが、アーヴィンの側にいる。神に頼らない者に、神の御加護が働いている。見方を変えれば、彼は神から遣わされた使者のようにも映る。

戦後特有の空気感が映画全体を包んでいて、それがまた不気味だった。悪いことをしている人間が、悪いという自覚をほとんど持っていない。その感覚の薄気味悪さが、ずっと画面に漂い続ける。悪が引き合い、絡み合い、気づけばアーヴィンへと収束していく構造は、よくある「人々のつながり」ものとは一線を画していた。悪いものが繋がって近づいてくる、というのはあまり見たことがない展開だった。

ラストに向かうにつれて、ラジオからベトナム戦争のニュースが流れてくる瞬間がある。その一瞬で、哲学的な空気が現実に引き戻される。世界は大きく動いている。この物語で起きたことは、歴史の尺度でいえばちっぽけかもしれない。でも、だからこそ見応えがあった。

あまり期待せずに観始めたら、キャスト陣の豪華さに驚いた。ホランド、パティンソン、スカルスガルド、スタン。それぞれが深みを持って役に宿っているからこそ、ストーリーに厚みが生まれていた。Netflixにこんな映画があったのか、という発見でもあった。


他の人の見方

IMDbスコアは7.1/10、Filmarks平均は3.6点(約15,000レビュー、2026年6月時点)という評価を得ている(※4)。

トム・ホランドの『スパイダーマン』とは全く異なるダークな演技への驚きが多くのレビューで触れられており、「新境地を見た」という声がある(※5)。ロバート・パティンソンが演じる偽善的な説教師の怪演も特に話題となっており、「この役のためだけでも観る価値がある」との評価がある(※5)。豪華アンサンブルキャストによる重厚なサザン・ゴシック群像劇として肯定的に評される一方、群像劇ゆえの情報量の多さに「登場人物の整理が難しい」と感じる声も一部にある(※4)。


こんな人に

・「善と悪」の境界線が曖昧な、重厚な人間ドラマが好きな人
・トム・ホランドやロバート・パティンソンの意外な一面を見てみたい人
・複数の視点が絡み合い、一点へと収束していく構成の映画が好きな人
・アメリカ南部の信仰・暴力・貧困を描いたサザン・ゴシックの世界観に興味がある人
・ハリウッド大作より一歩踏み込んだシリアスな映画にそろそろ挑戦してみたい人


関連商品

📖 原作

著:ドナルド・レイ・ポロック (著), 熊谷 千寿 (訳)

出典・参考

※1 BFI Sight and Sound
※2 THE RIVER / SlashFilm
※3 Collider
※4 IMDb
※5 Filmarks / IMDb

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