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【エッセイ】書いて、生きると決めたあの日


 わたくしには、何があっても曲げられない選択があります。
 
 それは、双極性障害の躁状態になると、浪費してしまう可能性があるため『クレジットカード』を持たない事を決めているのです。
 また、鬱気味の時の買い物も実は危険である為、『クレジットカード』は持ちません。
 

 でも。
 その選択を試される事件が起きました。

  
 2026年7月1日。
 推しのオフィシャルサイトで、有料メンバーシップが始まりました。
 有料メンバーシップの開始が発表された日から、登録出来ることが嬉しくて毎日有頂天でした。
 心の底から嬉しかったのです。
 推しを更に応援出来る。と。
 
 ですが、現実を甘く見ていた。頭を鈍器で叩かれるような衝撃を受けました。
 
 当日、発表された支払い方法はクレジットカードのみ。
 わたくしが持つデビットカードもバンドルカードも使えないのです。

 その事実が、死にたくなるほど心を酷く乱す事になるとは思いもしませんでした。

 
 
 時は遡ること、2004年4月。
 18歳になったわたくしは、コンビニエンスストアで初めてクレジットカードを作ることを進める営業に出会いました。
 
 この時、営業に押し切られてクレジットカードを作るのですが。
 クレジットカードを作ったことは、大きな失敗でした。
 当時は、理由が分かりませんでした。
 今思えば、鬱気味の状態だったのです。 
 結果を言えば、もちろん支払いをしました。
 でも、お店などで限度額ギリギリの高額商品を購入せざるを得ない状態に誘われ、断れなかったのです。
 
「契約しないと帰れませんよ」と、三人の男性に囲まれて言われました。
 クーリングオフ制度が浸透する前だったのです。

 間違いなく情報弱者であったことは認めます。

 わたくしは考えました。
 欲望に忠実な訳じゃなかった。
 むしろ逆でした。
 何でも「断れない」現実。
 自分が苦しくなる事が度重なるたびに過呼吸を起こして来た時の内容を徹底的にノートに書き出しました。
 
『いつ?』
『だれと?』
『何を話した?』
 
 見えてきたのは、『営業を断ることが出来ない』現実でした。
 そして、何故断れないのか、悩むようになりました。
 
『嫌われるのが辛い?』
 違う。
 
『誰かに好かれたいから?』
 違う。
 
『自分の価値を証明したいから?』
 違う。

 
 答えが出たのは、2021年の2月。
『双極性障害』の診断が下ると同時に、主治医は口を開いたのです。
 
「柘榴さんの場合、鬱気味になると判断力が無い状態になるんです。元気な時は、ご自分の意思があるのは間違いない。でも、クレジットカードの失敗は全部鬱気味の時ですね」
 
 ヒアリングを通じ、カルテを見直した主治医は、包み込むような声色で告げたのです。
 一切責めることはありませんでした。

 それは、文字通り。心にも春風が舞い込む部屋での出来事でした。

「柘榴さんは、鬱気味の時はその場で決めなきゃ行けないような場所には行かないこと。どうしても行かなければならない時には、先にメモを書いておきましょう」

 そう、鬱気味の時は判断力が無いと知って、今までの怖さの正体が分かったのです。

 

 そして、2026年7月1日。
 クレジットカードを持たないと決めたわたくしの選択は、激しく揺らぎます。
  
 自分を守る為の選択『クレジットカードを持たない』か。
 推しの有料メンバーシップに入れないからと『クレジットカードを持つ』か。

 推しを応援出来ない現状を理解した瞬間、酷い脂汗と発熱、そして危険が伴う希死念慮があらわれました。
 たったクレジットカードだけで?
 そう思うかもしれません。
 わたくし自身も、何度も思いました。 
 
 ですが、推し活は、心の安定を強く強く支えている。
 それが事実です。
 でも、わたくしにとってクレジットカードは、人生を大きく狂わせかねない存在なのです。
 過去の二の舞はごめんです。

 自分の身を守る為の、生きるための選択すらも揺るがす、大きな問題でした。

 
 その時、わたくしは書く選択をしました。

 
 心の中に渦巻く希死念慮を捉えて、身体の外に追い出す為に。
 命を大切にするために。

 どれだけ推しを応援したいのか。
 どれだけ支払い方法の選択肢がないことが悲しかったか。
 提示された金額を払いたい。
 だからこそ、支払い方法の選択肢を広げてほしい。
 それが、わたくしの本当の願いだったと気付きました。

 それらを一つずつ書き出していくうちに、気持ちは少しずつ整理されていきました。
 
 そして、最後まで残ったのは、
『メンバーシップに登録出来ない、推しを応援出来ないわたくしは無価値だ』
 という思い込みでした。

 希死念慮の正体は、『無価値』というレッテルを、自分で自分に貼り続けていたこと、だったのです。

 わたくしは大切な推しの音楽を聴きながら、また書き始めました。

 
 何故、無価値だと決め付けてしまったのか。
 何故、自分を信じることが出来ないのか。

 
 そして、書き出した文章を見て。
 ふと、気付きました。

 わたくしは『自分で選ぶこと』を放棄していることに。

 推しは何も悪くない。
 それを知っていながら『登録出来なかった』事実をサイトを運営する会社の体制のせいにしようとしていたのです。

 違う。
 それだけは、ダメだ。

 ファンとして、それだけはしてはいけない。
 誠意ある行動を取るべきだと、頭に浮かんだのです。

 だから、要望を書いて提出する、という行動を取ることにしました。
 PayPayなどの他の支払い方法を増やして欲しい、と。
 勿論、要望を伝えた所で実現するかは不明です。
 でも、登録出来るファンが増える事を祈っているのも本心なのです。

 そして。
 わたくしは、クレジットカードを作らない。
 これまで通り、自分を守る選択をすることに決めました。
 正直、身を切られるような心の痛みを感じました。
 
 自分が選択したことで、身体を一瞬で蝕んだ希死念慮がみるみる落ち着いていくのを感じました。

 行動に責任を持つ事で、現実を割り切る事が出来たのです。
 苦しくて、辛くて。
 悔しくて。
 馬鹿みたいに大声を上げて泣きました。

 有料メンバーシップのお金をはらうだけが、推し活じゃない。
 今までどおり、誠意を持って。
 ファンメールを送ったり。
 推しから受け取ったインスピレーションを創作に昇華したり。
 全力で生きる事が推し活なのだと、わたくしなりの答えに辿り着いたのです。
 
 書くという選択が、病気と思い込みに打ち勝ち、自分という命を救った。
 推しとの絆は『書く選択』によってより強いものになったのです。
 わたくしは、『ペンは剣より強し』という言葉を身をもって経験したのです。

 
 書いて、生きると決めた日。
 それは『自分を生きる一歩』を踏み出した瞬間でした。
 

広臣 柘榴

#あの日の選択
#ちび創作大賞

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