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お店の個性は、長所を伸ばした先にある

お店の売上が落ちてくると、悪いところばかりが目につきます。

前年を割った部門。動きの鈍い商品。成果の出ない売場。会議でも、どうしても不振部門の話が先に出てしまいます。

原因を探し、品揃えを増やし、売場を変え、場合によっては担当者まで替える。弱いところを直せば、店全体がよくなるように思えるからです。

もちろん、放っておいてはいけない問題はあります。粗利益を大きく損なう部門や、店の信用に関わるような接客、売れ筋商品の欠品、過剰在庫などは直さなければなりません。

ただ、人も仕入資金も限られる中で、できていないことの修正にばかりに力を使ってよいのでしょうか。

店をよくするとは、欠点を一つずつ埋めることなのでしょうか。それとも、自店の可能性を見つけ、そこからお店の未来をつくっていくことなのでしょうか。

私の前職の創業者であり、カリスマ経営コンサルタントだった舩井幸雄が提唱していた「長所伸展」という考え方を今日は紹介したいと思います。


売れない部門より、売れている部門を見る


あるお店で、キッチン部門が伸びないことが課題になっていました。アイテム数を増やし、売場も広げました。商品が悪いわけでも、売場づくりが極端に悪いわけでもありません。それでも、その店のお客さまがキッチンを買いに来る理由は、まだ十分になっていませんでした。

一方で、服飾雑貨はよく売れていました。バッグを見に来たお客さまが、財布やアクセサリーも一緒に買う。スタッフにも商品知識があり、入荷すると自然にご紹介できていました。

ところが、会議の時間も仕入資金も、売れないキッチン部門に多く使われていました。服飾雑貨は「順調だから、そのままでよい」と見られていたのです。キッチン部門も昔は生活雑貨店の花形部門だったので、その成功体験を忘れることが出来ない、ということもあったかもしれません。

これは珍しい話ではありません。

人は、できていることより、できていないことに目を奪われます。テストで八十点を取れば、できた八十点より、落とした二十点が気になる。

店の経営でも同じことが起きます。

しかし、すべての弱点を平均点まで直した店が、お客さまから選ばれるとは限りません。品揃えも接客も売場も無難だけれど、わざわざ行く理由が見つからないお店になることもあります。

お客さまがお店を覚えるのは、欠点がないからではありません。

「あの店はバッグが面白い」
「贈り物なら、あのスタッフに相談したい」。

そんな少し偏った魅力が、店の輪郭になります。

欠点を直すことは、お店の平均点を上げる仕事です。長所を伸ばすことは、その店が「何者なのか」を明らかにする仕事です。

似ているようで、目指している方向が大きく違います。

長所は、伸ばして終わりではない


「長所伸展」という言葉は、本当によくできていると思います。

※ちなみにこのような四文字熟語はなく、船井流経営法の造語だったと思います。

「長所」とは、そのお店がすでに持っている良さや強みです。そして「伸展」には、ただ大きくするだけでなく、そこから先へ広げていくという意味があります。

たとえば、器がよく売れている店があるとします。器の品数を増やすだけなら、長所を伸ばした段階です。そこから、その器に合う箸や布もの、食品へ品揃えを広げ、食卓の提案として売場をつくる。接客やSNSでの発信にもつなげていく。

やがてお客さまから

「食卓のものを探すなら、あの店へ行こう」

と思ってもらえるようになる。ここまで進むと、一つの売れ筋が、店全体の力へ展開されています。

つまり長所伸展とは、単に売れている商品をもっと売ることではありません。

すでにある小さな強みを見つけ、磨き、周辺へ広げ、やがて「その店らしさ」にまで育てていくことです。

そして、店の長所は、経営者が頭の中で勝手につくるものでもありません。多くの場合、お客さまが先に見つけてくれています。

繰り返し売れている商品。遠方から来店するお客さま。自然に関連買いが起きる売場。特定の相談になると指名されるスタッフ。売上や店頭での反応、再来店の様子などを通じて、

「この店の良さは、ここにある」

と教えてくれているのです。

だから「長所伸展」の出発点は、新しい強みを探し回ることではありません。まず、いま支持されているものを、きちんと見ることです。

なぜ舩井幸雄は、長所だけを見たのか


舩井幸雄も、初めからこの考え方に辿り着いていたわけではなかったようです。船井総研在籍時代に聞いた話だと、舩井幸雄が船井総研の設立後、アメリカから入ってきた合理的な経営理論や管理手法を小売業へ当てはめましたが、当初は思うような成果が出なかったといいます。

その頃の船井総研には、経験の浅い若いコンサルタントがいました。コンサルティング先も、仕組みや人材が十分には整っていない成長途上の企業が中心でした。完成された大企業を基準にすれば、欠点はいくらでも見つかります。

しかし、できていないことを指摘するだけでは、人も会社も動かなかった。そこで、一社ごと、一人ごとに、すでに持っている強みを探し、そこを伸ばす。そうした実践の中で、「長所伸展」という考え方が形になっていったとされています。

私は逸話がとても好きです。

「長所伸展」は、人を気分よくさせるための褒め方ではありません。人も資金も限られる中小企業が、どこへ力を注げば、その会社らしい自信と成長が生まれるのか。現場でうまくいかなかった経験から生まれた、かなり現実的な考え方です。

同時に、その奥には一つの人間観があります。人は、欠点を矯正され続けることで最も力を発揮するのか。それとも、自分の持ち味を認められ、それが誰か・世の中の役に立つと分かったときに、より大きな力を出すのか。

舩井幸雄は、晩年、人間の研究に没頭していましたが、舩井幸雄らしい人間観だと思います。

経営者が何を見るかで、お店の文化は変わる


学生時代、私の本棚には舩井幸雄の本が何十冊も並んでいました。その後、三十歳で船井総合研究所へ入りましたが、高齢だった舩井幸雄から直接教わったことはほとんどありません。著書や社内に残る考え方、現場を一緒に回った先輩たちを通じて学びました。

それでも私が今も「長所伸展」という言葉を使うのは、舩井幸雄の言葉だからではありません。生活雑貨店の現場で試すと、実際に結果へつながる場面が多かったからです。

長く仕事をするうちに、これは売上のつくり方だけではなく、経営者自身の姿勢を問う言葉でもあると感じるようになりました。

経営者が弱点ばかりを見れば、スタッフは「失敗しないこと」を優先するようになります。売れない理由を問われ続ければ、新しい提案より、説明しやすい無難な商品を選ぶ。店から少しずつチャレンジが消えていきます。

反対に、うまくいった理由を一緒に考える店では、スタッフの見方が変わります。なぜ今日はこの商品が売れたのか。なぜこの売場で足が止まったのか。自分のどんな接客がお客さまの役に立ったのか。よかったことの中から、もう一度再現できることを探すようになります。

人は、見られた方向へ自分をつくっていくところがあります。経営者が何を問い、何を評価し、どこに時間を使うか。それ自体が、お店の文化になります。

長所伸展は、甘やかすことではありません。致命的な弱点・欠点には手を入れる。そのうえで、残った時間、人、売場、資金をどこへ配るかを決めることです。

すべてを同じ平均点へ引き上げるのではなく、そのお店がお客さまの暮らしの中で果たせる役割を見つけ、そこへ力を集める。経営とは本来、そのような選択の仕事なのかもしれません。

一番売れている部門を、もう一度見る


自店で確かめるなら、売れない部門の一覧をつくる前に、いちばん売れている部門を一つだけ見直してみてください。

なぜ、その部門は売れているのか。どの商品が入口になっているのか。誰がよく売っているのか。欠品や展開場所の悪さで、取りこぼしている売上はないか。

答えを会議室だけで考えず、実際の売場、在庫回転率、スタッフの話を重ねてみます。売れている理由が一つ見つかったら、フェイス数を増やす、売場を少し広げる、関連商品を一つ加える、発注量を見直すなど、一週間で試せる変更にします。

結果がよければ、もう一段広げる。動かなければ、やり方を考え直す。「長所伸展」も、思い込みではなく仮説検証です。

お店には、できていないことが必ずあります。しかしそれをすべてなくしてから前へ進もうとすれば、いつまでも準備は終わりません。

それよりも、いまあるものの中に、まだ十分に生かされていない可能性はないかと考えてみる。お客さまがすでに選んでくれている理由を見つけ、その良さがもっと自然に表へ出るようにする。

「長所伸展」とは、現状を肯定して変わらないことではありません。そのお店が、そのお店らしい方向へ、もっと大きく変わっていくための考え方です。

欠点を直せば、店は整います。けれど、店の未来は、長所を伸ばし、その先へ展開したところに見えてくる。

あなたのお店の「長所」を再発見してみましょう。そしてそれをピカピカに磨き上げてみましょう。

それではまた。

生活雑貨研究所
所長 佐橋賢治

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