「うちは何の店ですか」と聞かれて、すぐ答えられますか
店の中を見渡すと、キッチン用品も、文具も、コスメも、食品も並んでいる。品数は十分にあるのに、初めて来たお客さまには、この店が何を大切にしているのかが伝わらない。
生活雑貨店では、こういうことがよく起きます。
オーナーや店長さんに「うちは何の店ですか」と聞くと、「雑貨を中心に、文具とコスメ、それから食品も少し……」と、取扱商品を順番に説明してくれることがあります。
でも、それは品揃えの説明であって、店の方向性を示す言葉ではありません。
前回の記事では、店の「長所」は経営者の思いだけではなく、お客さまの支持の中にあると書きました。今回は、そこで見つけた「長所」を、「何を選び、何をやめるか」という日々の判断基準へと変えていきたいと思います。
「うちは何の店か」を考える目的は、格好のよいお店の紹介文をつくることではありません。お客さまにすでに支持されている「長所」をもとに店の軸を定め、仕入れや売場づくりで迷ったときに、立ち戻る場所をつくることです。
コンセプトは、単なるキレイな言葉ではありません
コンセプトというと、少し大げさに聞こえます。経営理念のような立派な文章や、広告に使う気の利いたコピーを考えなければならないと思う人もいます。
私は、もっと実務的なものだと考えています。
店のコンセプトとは、「誰の、どんな暮らしに関わる店なのか」を決め、その方向へ店の判断を揃えるための物差しです。
たとえば、二つの商品で仕入れに迷ったとき。限られた売場をどの部門に多く使うかを決めるとき。季節商品をどこまで広げるかを考えるとき。そのたびに「こちらの方が、うちの店が育てたい方向に合っている」と判断できれば、品揃えにも売場にも少しずつ一貫性が生まれます。
反対に、その物差しがなければ、売れそうな商品を見つけるたびに仕入れ、競合店で人気の売場を見れば同じことを試し、季節が変わるたびに店の表情まで変わってしまいます。
商品は増えても、店の輪郭はかえって見えにくくなります。
幅広い品揃えが悪いわけではありません。生活雑貨店は、異なる商品を組み合わせて暮らしを提案できる商売です。問題は商品が多いことではなく、それらを選んだ理由が一つにつながっているかどうかです。
店の方向性の土台は、すでに店の中にあります
店の方向性は、オーナーが白い紙に向かって、ゼロから考え出すものだと思われがちです。しかし、長く営業している店なら、その土台はすでに店の中にあります。
繰り返し売れている商品。遠くからでも買いに来てくれる部門。欠品すると問い合わせが増える商品。スタッフが自信を持って薦められる売場。そこには、この店がこれまで積み重ねてきた「長所」が表れています。
「こういう店にしたい」というオーナーの思いは、もちろん大切です。ただ、その思いだけで方向を決めると、オーナーの理想と、実際のお店との間に距離が生まれることがあります。
逆に、いま売れているものだけを追いかければ、店がこれからどこへ向かうのかは決まりません。
大切なのは、すでに支持されている「長所」と、これから育てたい店の姿を重ねることです。
私は多くの店を見てきましたが、オーナーが「うちには強みがない」と話していても、数字や売場を見ると、ある部門だけ販売効率が高かったり、その店らしい組み合わせで商品が動いていたりすることがあります。
お店の「長所」は、新しく「発明」するものではなく、すでにある小さな兆しを見つけ、意志を持って育てるものなのだと思います。
何でもある店から、軸のある店へ
生活雑貨店には、さまざまな部門があります。器、キッチン用品、食品、服飾、コスメ、文具。どの部門も必要だからこそ、全部を同じ力で見せたくなります。
しかし、売場の広さも、仕入れに使える資金も、スタッフの時間も限られています。すべてを同じ優先順位で育てることはできません。
そこで考えたいのは、どの暮らしの領域を、この店の中心に置くのかということです。
たとえば器と食品とキッチン用品を扱う店でも、「食卓を整えること」を店の中心に置けば、三つの部門はばらばらではなくなります。器を選ぶ基準も、食品の仕入れも、売場での組み合わせも、同じ方向へつながります。
一方で、「家事の負担を軽くすること」を中心に置くなら、同じキッチン用品でも選ぶ商品は変わります。デザインが美しいだけでなく、手入れがしやすい、収納しやすい、短い時間で使えるといった機能が、より大事になるかもしれません。
店の中心を決めるとは、一つの部門だけに絞ることではありません。複数の部門を、何のために組み合わせるのかを決めることです。
これが定まると、品揃えの幅を残したままでも、店に一本の筋が通ります。「何でもある店」と「いろいろあるけれど、選んだ理由が伝わる店」の違いは、ここにあります。
店が大きくなるほど、共通の物差しが必要になる
店の方向性がオーナーの頭の中だけにあっても、日々の仕事では機能しません。むしろ、店が大きくなり、仕事を分担するほど、コンセプトは組織を動かすための共通の物差しになります。

20~30坪ほどの小型店であれば、オーナー自身が店長を兼ね、仕入れから売場づくりまで、ほぼすべてを管轄できるかもしれません。オーナーの考えが、そのまま日々の判断に反映されやすい規模です。
ところが、100坪、200坪と店が大きくなったり、店舗が複数になると、オーナーと店長が別になり、その下に部門担当者がいるという体制が増えてきます。
そうなると、オーナーが示したコンセプトを、店長がそのまま担当者に伝えるだけでは足りません。店長がその意味を自分なりに咀嚼し、「この店では何を大切にし、何を優先するのか」という現場の判断基準へ置き換えて、担当者へ伝える必要があります。
最近は、200坪ほどの生活雑貨店も増えています。その規模になると、スタッフが12〜15人ほど在籍し、社員は店長だけで、ほかはアルバイトという体制も珍しくありません。器、食品、コスメ、服飾など、部門ごとに担当者を決め、それぞれが発注する店もあります。
大型店には、十前後の大部門が入ることもあります。店長だからといって、そのすべての商品に詳しいわけではありません。むしろ個々の商品については、日々その売場に立ち、仕入れや接客をしている部門担当者の方がよく知っていることもあります。特にコスメなど、担当者とお客さまの年齢が近い部門は特にその傾向が強いかもしれません。
私は、それを問題だとは思いません。店長が一人ですべてを知ろうとするより、各担当者の知識や感覚を活かした方が、品揃えにも売場にも厚みが出ます。
店長に必要なのは、すべての商品知識を持つことではありません。オーナーが示したコンセプトを深く理解し、現場で使える判断基準へ翻訳すること。そして、各担当者の提案や発注が店全体の方向から外れていないかを見ながら、それぞれの専門性を同じ方向へ束ねることです。
だからこそ、すべての商品をオーナーや店長が一品ずつ確認するやり方には限界があります。発注前に相談する仕組みがあったとしても、新商品、追加発注、季節商品の入れ替えまで、上層部だけですべてを見切ることはできないからです。
担当者が自分の好みや、その場で売れそうかどうかだけで商品を選べば、各部門は少しずつ違う方向へ進みます。一つひとつの商品には問題がなくても、店全体で見ると、何を大切にしている店なのかが分からなくなっていきます。
だから必要なのは、発注のたびにオーナーの許可を取ることではなく、担当者自身がオーナーと近い目線で判断できる状態をつくることです。
「この商品は、うちが大切にしている暮らしにつながるか」「この部門の長所をさらに育てるか」
同じ問いを使って考えられれば、任せられる範囲は広がります。
前職の船井総研時代に、「単純・明快・繰り返し」という考え方を学びました。難しい説明を一度するより、短く分かる言葉を、発注会議や売場変更、朝礼など日々の仕事で繰り返し使う。コンセプトを共有するときにも、この考え方は役立ちます。
大切なのは、コンセプトの文章をスタッフ全員が暗記することではありません。新しい商品を見たときに、なぜ仕入れるのか。売場を広げるときに、なぜそこへ人と資金を使うのか。それを店の方向性に沿って説明できることです。オーナーがいない場面でも判断が大きくぶれなくなって、初めてコンセプトは店の力になります。
そのコンセプトで、何をやめるか決められるか
コンセプトが本当に役に立つかどうかは、きれいな一文になっているかではなく、日々の取捨選択に使えるかで分かります。
何を仕入れるのか。何を置かないのか。どの売場を育て、何を縮めるのか。限られた資金と時間を、どこへ優先して使うのか。
経営では、何かを選ぶたびに、別の何かを選ばないという判断が生まれます。ところが店の方向性が曖昧だと、「売れるかもしれない」「他店でも扱っている」という理由だけで商品が増え、やめる判断が難しくなります。
まずは、最近仕入れた商品をいくつか並べてみるとよいと思います。それぞれについて、なぜ自店で扱うのかを、店の方向性に結びつけて説明できるでしょうか。売れているかどうかだけでなく、この先も店の軸を育てる商品なのかを考えてみます。
説明がつかない商品があっても、すぐに排除する必要はありません。たまたま説明し切れていないだけかもしれますせんし、お店の新しい「長所」が芽を出していることもあります。だから、第一印象だけで決めつけず、売場と数字を見ながら、商品の判断軸、そのものも確かめていきます。
「うちは何の店か」が定まるとは、取扱商品を短く説明できることではありません。
何を選び、何をやめるか。その判断を、店の中で揃えられることです。
店の方向が定まっても、それだけでお客さまに選ばれるとは限りません。ただ、方向が定まっていなければ、選ばれる理由を磨くこともできません。まず店の内側に物差しを持つこと。私は、それが「うちは何の店か」を考える意味だと思っています。
ぜひ一度、時間を作って考えてみてください。
生活雑貨研究所
所長 佐橋賢治
