第4回「後輩から、相談されたこと、ありますか?」
僕の営業人生の物語、第4回です。
前回、妻に泣かれて、働き方を変えた話をしました。
僕はあのとき、心を入れ替えたつもりだったんです。
でも——「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言いますよね。
働く時間は変えました。家族との時間も作るようになった。でも……仕事の「中身」は、実は何ひとつ、変わっていなかったんです。
今日は、それを思い知らされた、ある一言の話です。
1、昇進試験に、3回連続で落ちた
29歳のとき。二社目の会社で、昇進試験がありました。普通の営業から、課長へ。ワンランク上がるための試験です。
僕は、受かる気満々でした。
落ちる気なんか、しなかった。だってその会社で、一番売れていたのは、僕でしたから。
——1回目。落ちました。
まあ、その回は誰も通らなかったので、「出来レースか何かかな」と思っていました。
——2回目。さすがに通るやろ。
……また、落ちました。理由は、わからない。
——そして、3回目。三度目の正直です。
今度は、万全でした。上司に相談して、会社が大事にしている方針も踏まえて、プレゼン資料まで作り込んだ。面接では質疑応答にもきっちり答えた。内容的には、我ながら良かったと思う。
——また、落ちたんです。
もう、許せませんでした。
「なんで落ちたんか、理由を教えろよ」 「何が、悪いねん」
ずっと、そう思っていました。一番売れてるのは俺やのに。数字で結果を出してるのは俺やのに、と。
……心当たり、ありませんか? 「結果は出してるのに、なぜか評価されない」という、あの理不尽な感覚。
2、上司の一言に、僕は詰まった
あるとき、その不満を、上司にぶつけたんです。
「本当に、なんでなんですか? 僕に、何が足りないんですか?」
すると、上司は、こう聞き返してきました。
「山田くんさ——後輩から、相談されたこと、あるの?」
……僕は、めちゃくちゃ、詰まりました。
思い返してみたんです。
「どうやったら売れるんですか?」と聞かれたことは、ありました。売れてましたから。
でも——「山田さん、ちょっと相談があって……」と、親身な相談を持ちかけられたことは、たぶん、一回も、なかったんです。
指摘は、山ほどしていました。アドバイスも、しているつもりでした。
でも、向こうから、頼ってこられたことが——ない。
一回も、ない。
3、「自分みたいなやつに、相談したいか?」
なぜ、相談されなかったのか。
当時の僕を、正直にお見せします。
数字はトップクラス。「自分はできる営業マンや」と思っていた。だから、後輩を「自分より下」という意識で見ていました。
すると、どうなるか——後輩の「できないところ」ばかりが、目につくんです。
「そのやり方、めっちゃ非効率やと思うで」 「なんで、そんなことすんの?」
良かれと思って、言っていました。本気で。
そして途中からは、もっとひどかった。「どうせ聞いてきても、やらへんし」とわかってからは——「喋りかけてくんな」というオーラを、全開で出していたんです。めちゃくちゃ忙しい風を装って、「お前らと喋ってる暇なんかないんや」という空気を、まとっていました。
上司のあの一言のあと、僕は初めて、客観的に自分を見たんです。
「……自分みたいなやつに、後輩は、相談したいか?」
——ないな、と思いました。
できないことばかり指摘してくる、怖い先輩。弱みを見せた瞬間、詰められるのが目に見えている。「そんなん、お前の気合いが足らんねん」と言われるのが、わかりきっている。
誰が、そんな先輩に、弱みを見せますか。
そして——ここが、一番切なかったところなんですが。
僕、実は、後輩の面倒を見るのが、好きだったんです。育てることに、興味があった。
でも、慕われていないから、それが、できない。薄々、感じてはいたんです。「俺、避けられてるな」って。
数字を出す力と、人から慕われる力は——まったくの、別ものでした。
4、「相手のため」と言いながら、主語はいつも「自分」だった
そして、気づいてしまったんです。
これ——家での話と、まったく同じや、と。
前回お話しした通り、僕は「家族のため」と言いながら、家族を犠牲にしていました。
そして仕事では、「後輩のため」と言いながら——後輩を、ひたすら追い詰めていた。
「相手のために」が、口癖だったんです。なのに、よくよく見ると、主語がいつも、自分でした。
「俺が教えてやる」 「俺が正しい」
相手が、本当は何を求めているのか。
それを、一回も、見ていなかった。
家でも、職場でも、僕は同じ間違いを、繰り返していたんです。
5、今、娘が「お父さん、話聞いてくれる?」と言ってくれる
この話には、少しだけ、その後があります。
今、僕は本当にありがたいことに、人から相談される機会が、めちゃくちゃ増えました。
家族でも、そうです。高校生の娘が、「ちょっとお父さん、話聞いてくれますか?」と言ってくれる。この前も、1時間、2時間と、話を聞いていました。
——でも、昔は、違ったんです。
娘からも、相談なんて、されませんでした。
当たり前です。今考えると、僕は娘にも、まったく同じことをしていましたから。
「話を聞くよ」と言いながら、気づけば自分の話ばかり。「俺はこう思うよ」「こうした方がいいよ」——娘の話を、聞いていない。
そんな相手に、相談しようと思いますか? 「あの人に言ったら、全部自分の話にすり替えられる。自慢話が始まる」——そう思われていたはずです。
変わったのは、僕が「聞く」ようになってからです。
数字を出しても、慕われへんかった僕の、一人よがりを。自分本位を。
「後輩から、相談されたこと、ありますか?」
——この一言が、初めて、気づかせてくれたんです。
あの上司の質問が、僕の人生を、大きく変えてくれました。
6、あなたは、「相談」されていますか?
今日の問いは、あの上司の言葉を、そのままあなたに渡します。
あなたは、後輩から、部下から、子どもから——「相談」されたこと、ありますか?
指示やアドバイスは、していると思います。でも、向こうから、頼ってこられることは、ありますか?
もし「……ないかも」だとしたら。
それ、能力の問題じゃありません。
相手が本当に求めているものを、まだ見れていないだけ——かもしれません。昔の僕みたいに。
そして、それは、変えられます。僕が変われたんですから。
コメントで、教えてください。「相談、されてます!」も、「……詰まりました」も、大歓迎です。詰まった方、大丈夫です。僕は上司に聞かれて、詰まったまま、しばらく何も言えませんでしたから(笑)。
さて、次回の予告です。
この一言をきっかけに、僕は少しずつ、「やること」を変え始めます。
そしてそれが——僕の営業人生を、第二の、根底からひっくり返す出来事につながっていくんです。
物語は、いよいよ後半戦へ。フォローして、お待ちください。
最後に。
「最近、誰からも頼られてへんな……」
そんな心当たりが、もしあったら。
それは、変えられます。あなたが本当は何を持っていて、どう関わればいいのか——親子関係でも、後輩との関係でも、経営者の方ならナンバーツーや従業員との関わり方でも。一緒に見つけていきましょう。
僕も、自分の力で変わったわけじゃありません。人からの問いかけで、変わりました。
今度は、僕があなたに、問いかける番です。
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今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、また明日、第5回でお会いしましょう。

