特別じゃないけど、特別な毎日——1ヶ月ちょっとの、お弁当の旅

「来週から、給食ないからね!」

朝陽(あさひ)がそう教えてくれたのは、7月半ばの朝だった。
小学校の夏休みが近づいてきた。

「……ってことは、お弁当だ!」

その言葉を聞いたとき、僕は思わず笑ってしまった。

「そうだね。パパ、楽しみにしてたよ」

待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる朝陽と、僕は小さくハイタッチをした。
それは、今年の夏が始まった合図だった。

僕にとって、お弁当づくりはちょっと特別な時間だ。

普段は給食があるから、朝陽にお弁当を作る機会は限られている。春休み、夏休み、冬休み——
そういう節目にやってくる“お弁当の日々”は、ある意味、僕にとっても季節の風物詩のようなものだ。

冷凍食品も使うし、すごい手の込んだことはしない。
だけど、「今日のお昼は、これを食べるんだ」と思いながら作る時間は、穏やかで、心地よい。

朝陽が起きてくるのは、だいたい6時半過ぎ。
その頃には、お弁当はもうとっくに完成している。
彼女にとっては「お昼のお楽しみ」であり、ふたを開ける瞬間が、小さなワクワクのひとつになっている。

とはいえ、何が入るのかまったくのサプライズではない。
実は、前日の夜にある程度、二人で“メニューの認識合わせ”をしている。

そのタイミングは、お風呂。

「明日のお弁当、なに入れるの?」と朝陽が聞いてくるので、「たぶんハンバーグの残りがあるから、それと玉子焼き、ミニトマトかな」

「ブロッコリーもほしいな」

「了解!」

そんな会話が、毎晩のお風呂タイムの恒例になっている。
事前に希望を聞いておくと、食べ残しも少ないし、彼女自身も“明日のお楽しみ”としてちゃんと意識してくれる。

これは、朝陽と僕だけの小さなプロジェクトのようなものだ。

弁当箱の中身は、日によってまちまちだ。

・玉子焼きとミニトマトは毎日固定
・タコさんウインナーとブロッコリーは気分次第
・メインはハンバーグ、唐揚げなどは日替わり

「今日は星のポテトある?」
「おにぎりは一口サイズを3つね」
「おにぎりはパパ特製おにぎりね」

そんな小さなリクエストが、毎日のようにある。
それに合わせて僕も、朝の段取りを考える。
限られた時間のなかで、できることを積み重ねていく。

学童から帰ってくると、第一声がいつも決まっている。

「今日も完食だったよー!」

そう言って見せてくれる空っぽのお弁当箱は、僕にとってはご褒美だ。
何を入れたか、どれが一番おいしかったか、また食べたいものは何か——

そんな会話が、夕飯の時間につながっていく。

たとえばある日はこうだった。

「今日のウィンナー、切れ目なかった」

「あ、あれは忙しかったからノーカットだった。味はどうだった?」

「ふつう」

「そっか(笑)」

「でもおいしかったよ?」

なんとも素直というか、子どもらしいというか。
でも、そういう何気ないやりとりが、僕は大好きだ。

夏休みも折り返しに入る頃、朝陽がふとこんなことを言った。

「給食も好きだけど……お弁当の方がいいね」

「なんで?」

「なんか、おいしいし。ちょっとだけ、楽しい」

その「ちょっとだけ」という言葉に、妙にリアルな1年生らしさを感じて、僕はひそかにうれしくなった。

いつもじゃなくていい。
たまに、こうしてお弁当を通じてつながる時間があるだけで、それは十分に特別だ。

毎朝のお弁当づくりには、正直、時間もかかるし手間もある。

だけど、それを超える「何か」がある。
それはきっと、「食べてくれる人がいる」ということのあたたかさであり、「その人の一日を想像しながら用意する」ということの愛おしさだ。

1年生の夏。
朝陽は少しずつ、自分のことを自分でやれるようになってきた。
言葉にするのが難しい気持ちも、なんとなく態度や表情で伝えてくれるようになってきた。

僕はそんな彼女の成長に寄り添いながら、毎朝、弁当箱を開ける。
冷蔵庫を開けて、フライパンを熱して、ふたを閉じる。

たったそれだけの朝が、この夏を、忘れられないものにしてくれる。

8月末まで続くお弁当生活。

その終わりが見えてくると、少しだけさみしさもある。
でも、それでいい。

「特別じゃないけど、特別な毎日」は、きっとこうやって積み重なっていくんだと思う。

今日も明日も、ただの朝。
でもその朝は、確かに——僕たちだけの、ひとつの物語だった。

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湯鶴の裏方より

このnoteでは、湯鶴というひとりのパパの日常をもとに、仕事・育児・人生にまつわる物語を綴っています。

無料物語では、子どもとの時間で考えたことや、仕事をする中で考えていることなど、毎日のなかにあるささやかな気づきを描いています。

でも実は——
誰にも言えなかったことや、少し勇気がいるようなことは、有料物語で綴っています。

湯鶴がこれまで向き合ってきた葛藤や選択。
その背景には、言葉にならなかった想いがあります。

僕は、湯鶴の“裏方”として、そのひとつひとつを記録してきました。

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どれかひとつを選ぶのではなく、どれも大切にしていきたい。うまくできない日があっても、それでも今日を重ねていく。そんな湯鶴のまなざしと向き合いながら、言葉を編んでいます。

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