「うちの自治体にも欲しい!」全国から視察が殺到する北見市の窓口改革は、なぜ成功したのか?
👆19分29秒_(デジタル庁ニュース)🎦YouTube「業務改革のススメ」~北見市の事例~ 書かないワンストップ窓口#1
序章:役所で待つことに疲れていませんか?
毎年、何度か役所の窓口を訪れる機会があります。転居届、印鑑登録、各種証明書の取得——働く現役世代にとって、役所の手続きは時間との戦いです。
仕事の合間をぬって訪れた窓口では、記入台で申請書に住所や氏名を何度も書き、複数の窓口を回り、長い待ち時間を過ごす。こうした経験は、多くの人が共有する「役所あるある」ではないでしょうか。
しかし、北海道の北見市では、この「当たり前」を覆す改革が進んでいます。市民が申請書に記入する必要がない「書かない窓口」と、複数の手続きを一度に完結させる「ワンストップサービス」。これらの取り組みが、全国の自治体や企業から注目を集めています。
では、北見市はどのようにしてこの改革を実現したのか。そして、その成功の秘訣は何なのか。この記事では、10年以上にわたる北見市の窓口改革の歩みを追い、働く私たちの「役所との向き合い方」を変える可能性を探ります。
第1部:「変えられない」を覆した、職員たちの小さな反乱
2009年:改革の種が蒔かれる
北見市の窓口改革の始まりは、意外にも地味なものでした。2009年、北見市総合計画に「市民サービスの向上」が位置づけられ、総合窓口の充実が推進されることになりました。当時、これが10年以上にわたる大きな改革の第一歩になるとは、誰も予想していなかったでしょう。
2011年:ワーキンググループの設置と「勇気あるプレゼン」

転機は2011年に訪れます。北見市役所に「窓口サービス改善ワーキンググループ」が設置されました。このグループには、現在の市民環境部窓口課管理係長である吉田和宏氏を含む職員たちが参加し、窓口業務の抜本的な改善を検討し始めたのです。
ここで重要なのは、職員たちが「システムありき」ではなく、「業務そのものの改善」から出発したという点です。彼らは窓口業務を「情報処理」と捉え、市民が何度も同じ情報を記入する無駄に気づきました。
窓口業務は情報処理である。市民が提供するデータは、本来は一度だけで十分なはずだ。
この気づきから、職員たちは庁内・議会への説得を始めます。これが「勇気あるプレゼン」の始まりでした。限られた予算の中で、新しいシステムの導入を正当化することは容易ではありません。しかし、職員たちは市民の負担軽減と業務効率化の両立という明確なビジョンを掲げ、関係者を説得し続けたのです。
2014年:職員が自作したシステムの誕生
2014年8月、北見市役所の窓口に、ある変化が起きました。戸籍住民課の窓口で、職員がMicrosoft Accessを使って自作した「かんたん証明申請」システムが運用を開始したのです。
このシステムは、本人確認書類の提示があれば、住所や氏名などを記入する必要がないというシンプルながら革新的なものでした。市民は申請書に記入する手間が削減され、職員も同じ情報を何度も確認する手間が減りました。
この小さな成功は、やがて大きな改革へと発展していきます。
2016年:本格的な「窓口支援システム」の導入
2015年から本格的な開発が始まり、2016年10月に「窓口支援システム」が導入されました。このシステムは、単なる申請書作成支援ツールではなく、住民異動届の受付から各種手続きのワンストップ受付まで、幅広い機能を備えていました。
しかし、ここで注目すべきは、北見市が既存のパッケージシステムを導入するのではなく、自分たちの理想の窓口を実現するためにシステムをゼロから開発したという点です。これには、データ連携やシステムの要件定義など、多くの苦労が伴いました。また、市の一般財源を投じるため、財政部門や議会との調整に膨大な時間を費やす必要もありました。
第2部:アナログBPRがDXの鍵——北見式「書かない窓口」の秘密
「書かない窓口」と「ワンストップサービス」の仕組み

北見市の窓口改革の柱は、「書かない窓口」と「ワンストップサービス」の二つです。
「書かない窓口」とは、市民が申請書に記入する手間を削減するシステムです。マイナンバーカードなどの本人確認書類を提示すれば、住所や氏名といった基本情報は自動的に入力されます。市民は必要な項目を確認し、署名するだけで手続きが完了するのです。
「ワンストップサービス」は、複数の課にまたがる手続きを一つの窓口で完結させるサービスです。例えば、引越しの場合、従来は転居届、児童手当の変更、各種保険の手続きなど、複数の窓口を回る必要がありました。しかし、ワンストップサービスでは、これらすべての手続きが一度に処理されます。

システム導入前の「アナログ業務改革」が成功の鍵
ここで重要なのは、北見市がシステム導入の前に、徹底的なアナログ業務改革(BPR:Business Process Re-engineering)を実施したという点です。

北見市は、体験調査を実施して課題を洗い出し、申請書の様式を統一し、手続きチェックシートを改善するなど、業務フロー全体を見直しました。つまり、「何をシステム化するか」を決める前に、「本来、何が必要か」を徹底的に検討したのです。
吉田和宏氏は、後のインタビューでこう述べています:
システムを導入する前に、アナログでの業務改革を十分に進めることが大切です。業務の手順や流れを見直したうえで、仕事の流れにあうシステムの導入を進めていくという視点が重要です。
この哲学は、多くの自治体が陥る「デジタル化の罠」を避けるための重要な教訓です。単にシステムを導入するだけでは、非効率な業務がデジタル化されるだけに終わってしまいます。北見市は、この落とし穴を見事に回避したのです。
関連プロジェクト:RPAによるバックヤード業務の自動化

北見市の改革は、フロント業務だけに留まりません。バックヤード業務の効率化も同時に進められています。
2020年4月以降、北見市はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して、証明書発行や住基システムへの異動入力といった定型業務を自動処理化しています。これにより、職員が手作業で行っていた業務が大幅に削減され、より人間にしかできない対応が必要な業務に時間を割くことができるようになりました。
その結果、来庁者の手続き時間や待ち時間が減少するだけでなく、職員の時間外業務も削減されています。つまり、市民にも職員にも、双方にメリットがある改革が実現したのです。
第3部:全国が注目!市民の満足度と、自治体・企業への波及効果

市民からの反応:「スムーズで早い」
北見市の改革の成果は、何よりも市民の反応に表れています。窓口を利用した市民からは、「スムーズで早い」という声が上がっています。待ち時間が減り、記入する手間が減ることで、市民の負担は大きく軽減されました。
働く現役世代にとって、役所の手続きにかかる時間は貴重です。北見市の「書かない窓口」は、その時間を取り戻す手段となっているのです。
全国的な注目と受賞

北見市の取り組みは、すぐに全国の自治体から注目を集めるようになりました。
2022年8月、内閣官房が主催する「夏のDigi田甲子園」において、北見市の取り組みは実装部門(市)でベスト4を受賞しました。このコンテストは、デジタル田園都市国家構想の実現に向けた優れた取り組みを表彰するもので、北見市の「書かない窓口」がワンストップ・ワンスオンリーな窓口手続きとして、全国で一層の普及が期待される点が評価されたのです。
さらに、2023年6月には、「日本DX大賞2023」において、行政機関・公的機関部門の優秀賞を受賞しています。
そして、先日2025年11月28日(金)には、NHK総合テレビジョンの「NHK NEWS おはよう日本」で、「進む自治体の"窓口改革"」として北見市の取り組みが特集されました。これは、北見市の改革が、全国的な注目を集めていることの証です。
他自治体からの視察と関心
北見市の成功に伴い、全国の自治体から視察の申し込みが相次いでいます。北見市の取り組みは、すでに全国の自治体で模範とされており、市のウェブサイトには各種資料が掲示されています。
吉田和宏氏は、他の自治体に対して、以下のようなメッセージを発しています:
役所の業務は変えてはいけないと思っている方が一定数いるように思います。しかし、役所の業務は変えていいんだ、変えられるんだということをお話しさせていただいています。
このメッセージは、多くの自治体が「現状維持」に甘えている中で、北見市が示した「改革への勇気」の重要性を物語っています。
終章:あなたの街を変えるために——北見市から学ぶ「行動のヒント」

「新庁舎でなくても可能」というメッセージ
北見市の改革で特筆すべき点の一つは、新しい庁舎を建設することなく、既存の施設で実現されたということです。多くの自治体は、新庁舎の建設と同時にシステム導入を検討しますが、北見市は異なるアプローチを取りました。
これは、重要な教訓を含んでいます。改革に必要なのは、新しい施設やシステムではなく、業務を変える勇気と、継続的な改善への姿勢なのです。
「地道な改善の継続が大切」
北見市の改革は、一夜にして成し遂げられたものではありません。2009年から2016年にかけて、7年間の歩みがありました。その間、職員たちは小さな成功を積み重ね、失敗から学び、改善を続けてきたのです。
デジタル庁も、この取り組みを全国に広めるため、専門家派遣や情報共有プラットフォームなどの支援策を用意しています。これは、北見市の成功が、他の自治体にも再現可能であることを示唆しています。
あなたの街を変えるために——行動のヒント
では、働く現役世代である私たちは、この記事から何を学び、どのような行動を起こすべきでしょうか。
第一に、あなたの街の行政サービスについて、意見を持つこと。 役所の窓口で待たされたとき、書類が多いと感じたとき、その不満は単なる「愚痴」ではなく、改善の種になり得ます。
第二に、改善を求める声を上げること。 北見市の改革も、職員たちの「これはおかしい」という気づきから始まりました。市民の声も、同じくらい重要です。市長へのメール、市議会への陳情、SNSでの発信——あなたの声が、改革のきっかけになるかもしれません。
第三に、地元の自治体の取り組みに関心を持つこと。 北見市のような先進的な取り組みは、他の自治体でも実現可能です。あなたの街の自治体が、どのような改革に取り組んでいるのか、知ることから始めましょう。
結び:「うちの自治体にも欲しい」から「うちの自治体もやる」へ
北見市の窓口改革は、「うちの自治体にも欲しい」という羨望の声を生み出しました。しかし、重要なのは、その次のステップです。
あなたが暮らす自治体でも、同じような改革は可能です。北見市の職員たちが示したように、改革に必要なのは、新しい施設やシステムではなく、現状を変えたいという強い意志と、継続的な改善への姿勢なのです。
働く現役世代の私たちが、地元の自治体に対して関心を持ち、改善を求める声を上げることで、全国の自治体に波及する改革が生まれるかもしれません。
北見市の成功は、決して遠い北海道の話ではなく、あなたの街を変えるための可能性を示しているのです。
参考資料
本記事は、以下の情報源に基づいて執筆しました。
総務省「地方公共団体における後年の人材育成の方策に関する研究会」事例報告スライド
YouTube「業務改革のススメ」~北見市の事例~ 書かないワンストップ窓口#1(デジタル庁ニュース)
一般社団法人デジタル地方創生推進機構「自治体DXの鍵はアナログな業務改革にあり——北見市『書かないワンストップ窓口』」
北見市役所「北見市役所の窓口サービス改善の取り組み経過」
愛媛県「行革甲子園エントリーシート」
NHK総合テレビジョン「NHK NEWS おはよう日本」(2025年11月28日放送)
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