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Uberはどうやって問いを変えずに答えを変えたのか


Uberが創業以来ずっと向き合ってきた問いは、とてもシンプルです。

「都市の移動をどう変えるか?」

この問い自体は、創業時からほとんど変わっていません。変わったのは、その問いに対する答え方のほうでした。



二人のCEO、二つの答え

創業者トラビス・カラニックが信じていた答えは、極端なまでにストレート。Uberとは、「世界のあらゆる都市で使われる、ただ一つの標準的な移動インフラ」になるべき存在でした。

だから戦い方も、徹底して「世界制覇」前提。できるだけ多くの市場に同時進出し、どの国でも同じシステムを敷き、中央集権的な本社が世界をコントロールする。文化も「Always Be Hustlin'(常に奮闘せよ)」と、攻撃的でスピード重視のものに。

結果、2016年のUberは600以上の都市でサービスを展開。企業価値は680億ドル。「Uberする(to uber)」という動詞が生まれるほどの存在感。外から見れば、完全に「勝者の答え」でした。

ところが、その裏側で数字は悲鳴を上げていました。中国では年間10億ドル規模の損失を出し撤退。東南アジアでも消耗戦。2017年には世界全体で45億ドルの損失を計上。本当に勝算がある市場は、世界の4割前後にすぎないことが、データで明らかになっていた。

2017年、カラニックは会社を去ります。CEOだけでなく、会長も取締役も退任。「世界制覇」という答えを体現してきた本人が、完全にいなくなりました。

バトンを引き継いだのが、外部から招かれたダラ・コスロシャヒ。オンライン旅行会社ExpediaのCEOを12年務めた人物で、Uberの文化には染まっていないし、カラニックの答えに対する忠誠心もない。

彼が描いたのは、まったく違う姿でした。

「世界のすべてを制覇する会社」ではなく、「選んだ市場で、誰よりもいい価値を出す会社」。

コア市場を選び、利益を出しながら勝ち切る。勝算の薄い地域は、提携や株式保有で間接的に関わる。文化も「正しいことをする(We do the right thing. Period.)」へ。意思決定も、本社一強から地域の独立性を尊重する形へ。

2024年時点のUberは、約70カ国で事業を運営しつつ、上場後初の通期黒字を達成。中国や東南アジアでは、DidiやGrabの株主として「間接的な参加者」になる道を選びました。

同じ問いに、まったく違う答え。Uberはそれを、現実の経営としてやり切っています。

では、どうやって?


答えを変えるために必要だったもの

創業者がいなくなっても、その答えは組織に染み込んでいます。ビジョンはアイデンティティに、戦略は意思決定のルールに、文化は評価や採用の基準に。簡単には消えません。

Uberが答えを変えられたのには、いくつかの条件がありました。カラニックの退任、数字による限界の可視化、外部から来たCEO、そして2019年IPOという時間の締め切り。

ただ、これだけでは足りません。

組織には必ずこんな感情が残るからです。「創業者の答えがうまくいっていないのは、なんとなくわかる。でも、じゃあどんな答えならうまくいくのか?」

別の答えが見えていなければ、人は「我々は失敗した」を「やり方が悪かっただけだ」にすり替えてしまう。行われるのは目標の微調整やコスト削減であって、答えそのものの入れ替えではありません。

コスロシャヒには、「別の答えでも成功できる」という証拠が必要でした。しかも、IPOまでの約21ヶ月という限られた時間の中で。

社内で小さな実験を始めても、成果が見えるまで数年かかるかもしれない。外部との協業も、信頼構築に時間がかかる。

彼が選んだのは、買収でした。


Careemという「別の答え」を買う

2019年3月、Uberは中東のライドシェア企業Careemを約31億ドルで買収します。

Careemが向き合っていた問いも、Uberと同じ。「この地域の人々の移動と生活を、どうよくするか」。ただ、答え方はまったく違いました。

ビジョンは「この地域の人々の生活を簡素化する」という、とてもローカルで具体的なもの。サービスもアプリ前提ではなく、電話予約や現金決済など現地の生活スタイルに合わせて設計。ドライバーを「Captain」と呼び、四半期ごとにフィードバックの場を設け、サービスを共につくるパートナーとして扱っていました。

2019年時点で中東15カ国、100以上の都市でサービスを展開。ユーザー3,300万人超、ドライバー100万人超。中東地域でおおむね6〜7割のシェア。Uberは同地域で3〜4割にとどまり、どうやってもCareemを押しのけられない状況でした。

Careemは、Uberにとっての"生きた代替解"だったのです。

標準化された一つのやり方ではなく、地域に根ざしたやり方でも勝てる。「世界制覇」ではなく「この地域にコミット」というビジョンでも事業は成長する。本社主導ではなく、地域主導のオペレーションでも機能する。それを、実績で証明していた。

Uberが31億ドルで買ったのは、市場シェアだけではありません。「自分たちとは違う答えでも、人は喜び、事業は成長する」という現実そのものでした。


統合しない、という決断

象徴的なのは、買収後の扱いです。

普通のM&Aなら、ブランドを統一し、システムを統合し、重複部門を削減する。しかしUberは逆を選びました。

Careemのブランドは残す。経営陣も残す。文化もそのまま維持し、運営は独立したまま。

コスロシャヒは、「2つの強いブランドが、それぞれのやり方で新しいアイデアを試す。それぞれの強みは壊さずに残していく」という趣旨のメッセージを出しています。

なぜ統合しなかったのか。

統合してしまえば、Careemの答えは消えます。同時に、「Uberのやり方だけが正解ではなかった」という生々しい証拠も消えてしまう。

Uberが買収で手に入れたかったのは、売上でもシナジーでもなく、「別の答えが機能している」という事実そのものでした。だから、あえて統合しなかった。別の答えが、別のまま存在し続ける状態を維持したのです。


さらに手放す

話はここで終わりません。

2023年、Uberはさらに踏み込んだ決断をします。Careemを「ライドシェア事業」と「スーパーアプリ事業」に分割し、スーパーアプリ事業の過半数(50.03%)をUAEのテレコム大手e&に売却したのです。

ライドシェアは本業ど真ん中だから、100%保有を続ける。一方、Careemが独自に育ててきたスーパーアプリという答えについては、「自分たちが支配するより、手を離したほうが伸びる」と判断した。

コスロシャヒはこう語っています。

「我々が支配的な株主であり続けることは、時にイノベーションを妨げる。最良のサポートは、距離を取ることかもしれない」

買収して、統合せず、最終的には支配権すら手放す。

別の答えを持つ組織が、別のままでいられるように、自分たちの関与をあえて弱めていく。普通のM&Aの教科書とは真逆の動きです。


問いを守り、答えを入れ替える方法

ここまで見てきたUberの動きは、典型的なM&Aとは目的が違います。

多くのM&Aは「売上の上乗せ」「シェア拡大」「コストシナジー」が目的。だから買収後は早く統合し、ブランドを統一し、重複を削る。

UberのCareem買収は違いました。

目的は、代替の答えを手に入れること。組織に「別の答えでも成功できる」という証拠を見せること。新しい戦略を、スライドではなく実例として手に入れること。

だから統合せず、独立性を維持し、支配権すら手放した。売上や利益だけ見れば非合理に見えるかもしれません。でも「問いを変えずに答えを変える」という目的にフォーカスすれば、極めて合理的な一連の動きでした。

組織が答えを変えられないのは、意志が弱いからではありません。「別の答え」が見えていないからです。

見えていないものを選ぶことはできない。だから人は、うまくいっていない答えにしがみつく。「やり方が悪かった」「もっと頑張れば」と言い聞かせながら、同じ答えを繰り返してしまう。

Uberがやったのは、別の答えを「見える状態」にすることでした。31億ドルで買い、統合せず、手放すことで、組織の中にもう一つの現実をつくった。

答えは、一つじゃなくていい。

その事実が見えた瞬間、問いを守りながら答えを入れ替える道が開けます。


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ハネイシ ユタカ|経営構造人類学者 ここまで読んでくださってありがとうございます! よろしければ応援お願いします! いただいたご支援は、今後の執筆・リサーチの時間や書籍代など、 アウトプットの質を上げるために大切に使わせていただきます。