モウリーニョに6失点を食らわせ、SCPにも3-0完勝。ポルトガルで再度脚光を浴びるボデ/グリムトの強さの背景
はじめに
2021年にローマ相手に6-1で勝ち、ジョゼ・モウリーニョにキャリア最大となる6失点を浴びせ、欧州全土にその名をとどろかせたボデ/グリムト。2024年9月には、ポルト相手に3-2で勝利するなど、ポルトガル人にとっては象徴的なインパクトを複数回生み出している。
これらの文脈から、2024年10月にポルトガルメディア「zerozero」が同クラブCEOへのインタビュー及び分析記事を掲載したが、本記事が再度ポルトガルで脚光を浴びている。というのも、ECLスポルティングCP戦に向けて記事内容が更新されたのが2026年2月25日。その後、同クラブ相手に3-0の完勝劇を演じた。
モウリーニョ、ポルト、スポルティング。ポルトガル人が世界に誇るネームバリューに三度サプライズを演じたボデ/グリムト。改めて、本記事の内容を①経営、②強化、③地域性の観点から要約することで、その強さの秘密に迫りたい。
①経営
本記事で強く指摘されているのは、ボデ/グリムトの成功がフローデ・トマセンCEO体制による優れた経営手腕の産物だという点。同氏が2017年にCEOに就任した当時、クラブはノルウェー2部に所属していた。本記事によれば、2017年のクラブ総予算は約420万ユーロ。それが取材時点2024年には移籍収入を除いて約2,500万ユーロまで増加した。
フローデ・トマセン自身が本記事へのインタビューで強調したのは、クラブは「将来の目標達成」よりも「足元の仕事の質」を重視してきたという点。具体的には、リーグ優勝や欧州大会への出場を目先に置くのではなく、毎日の仕事の品質、クラブ内の連携、前向きなエネルギー、同じ方向を向く組織を育てることなどを優先。その積み重ねが、2部からの昇格⇒2019年2位⇒2020年優勝、さらに2021年と2023年の優勝というポジティブなサイクルを生んだのだという。ノルウェーの制度上、クラブが巨額の外部資本に頼る構造は構築できない。したがって、ボデ/グリムトの成功は、サッカー界で散見される札束に物を言わせて成り上がった事例ではなく、適切なクラブ運営に基づく理想的な成長モデルとして扱われている。
同氏は、クラブ経営の本質は結果よりも「仕事文化」にあると語り、真の人間関係、互いへの敬意、共同体意識、組織としてのハングリー精神などがクラブの競争力の源だと述べる。その象徴がヒェティル・クヌートセン監督の長期政権である。同氏は昇格期にアシスタントとして入った後にトップ監督となり、7シーズンにわたってチームを率いている。フローデ・トマセンはこれをクラブと監督の「完璧な結婚」と呼び、引き抜きの関心があってもクラブの競争環境が保たれる限り彼は残るだろうと自負している。
②強化
強化面で同記事が伝える核心は、ボデ/グリムトが良い選手であれば誰でも獲得するわけではなく、文化への適応性を強く意識して人を集めるクラブだということ。フローデ・トマセンはリクルートのターゲットを、ノルウェー・スウェーデン・デンマークなどスカンジナビア圏に置いていると明言する。背景として、これらのクラブは言語、感覚、表現文化などが似通っているという。その結果、チームの中核にはスカンジナビア系選手が置かれ、本記事の取材時点では先発の5〜6人が自前育成かつノルウェー北部出身だった。ボデ/グリムトが単なる育成売買型クラブではなく、地元とアカデミーを軸にしながら外部人材(後述)を統合していく構造を持っている表れであった。
また、一度クラブを出た選手が外部で力を付けて数年後に戻ってくるサイクルも競技的な強さの秘訣と言えよう。記事内では例として、イェンス・ペッター・ハウゲ(ACミランやフランクフルトに所属)、パトリック・ベルグ(RCランスに所属)、フレドリク・アンドレ・ビェルカン(ヘルタ・ベルリンやフェイエノールトに所属)らの名前が挙げられている。単なる「ステップアップクラブ」ではチームが弱体化する傾向にあるが、そうではなく、クラブを羽ばたいた選手たちから帰還したいと思われるクラブであることが競争力の源泉となる。強いクラブであっても、文化的な引力がなければこうした復帰する選択は起きにくい。
一方で、「内輪」だけのクラブというわけでもない。ヴィクター・ボニフェイス(ナイジェリア)のように、スカンジナビア外から大成功した例もある。中核は北欧文化圏出身選手で固めつつ、外部の才能も受け入れ、最終的にはクラブ文化へ統合する。そのチーム編成のバランスが、ポルトガルの強豪相手にも揺らがないチーム作りにつながっている。
最後に、選手の「再生工場」であるという側面も見逃せない。ニキータ・ハイキンがその象徴である。チェルシーの育成組織、ナシオナル(ポルトガル)U19を経ながら居場所を失い、ほぼキャリアの最終局面でボデ/グリムトにたどり着いた選手が、今やクラブの守護神に成長した。彼自身が、2020年のリーグ優勝を「ポルトガルならリオ・アヴェやエストリルの優勝に近い」と表現している点も、このクラブが達成した偉業を端的に示している。
③地域性
地理条件そのものが①で言及した組織の文化形成に作用しているという点も、本記事の重要な論点となってる。ボデは北極圏の北に位置し、極端な寒さ、白夜、人工芝といった特異な環境を持つ。かつてこうした条件は選手獲得の障害だった。しかし成功を重ねた今は、欧州の舞台に立てるクラブとしてスカンジナビア選手を引きつける特別な魅力に変わったとフローデ・トマセンは述べている。
ニキータ・ハイキンの証言は、選手がどのような生活をしているかそのリアルを補足している。ボデは街として小さく、気晴らしも少なく、誰もが選手を知っていて、プライバシーも少ない。だからこそ、集中しやすく、落ち着いて成長でき、サッカーに没頭できる。ハングリーな選手たちは、土地の不便さや閉鎖性を、集中と成長の環境へとポジティブに変換しているのだ。
まとめ
経営面では、巨額投資ではなくフローデ・トマセン体制による組織づくりと日々の仕事の積み上げ。強化面では、スカンジナビア中心のリクルート、自前の選手育成と将来的な復帰、市場でポジションを失った選手の再生、文化への適合可能性を重視したチーム形成。最後に、土地の特性をむしろ武器に変える共同体性、地方都市クラブとしての誇りの共有。一言でまとめると、明確な経営方針とそれらに連動する文化醸成やチーム強化。結論としては何とも当たり前の帰結となったが、実はクラブ経営においてこれらを実現するのはそう簡単ではない。これらを確実に実行するリーダーシップやクラブとしての基礎力こそが、ボデ/グリムトの強さを支える背景と言えそうだ。
