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塩レモンとイタリアン乳首の邂逅




レモンには、すべてが詰まっている。

お菓子や飲料、おかずに米や麺にと、レモンを使ったものは数限りないし、虫除けや掃除、挙句の果てにはお肌の手入れにまで使える。
アメリカでは「役立たず」の隠語スラングをレモンと言うから罵倒にも使えるし、単眼の巨人サイクロプスに襲われた際にも、その一つ眼にレモンをギュッと絞ってから股間を蹴り上げれば退治することだって可能だ。

レモンといえば、酸っぱい──お馴染みのクエンだが、漢字で書くと「枸櫞くえん」と、じつにザギザギとした禍々しさを放っている。特に「櫞」の殺傷能力は高く、滷肉飯ルーローハンの「滷」に比肩する危険な風貌フォルムだ。滷と櫞の群れに追われたら、脇目を振らずに走るしか──死から逃れるすべはない。

🏃‍♂️💨  滷櫞滷櫞滷櫞滷櫞



逸れたうえに、散らかって暴れ出した話を戻そう。

つい最近、テレビを観ていたところ、「塩レモン」というものを紹介していた。この塩レモンは、美味しいうえに長期保存が可能な調味料だという。レモン果汁入りの産湯を浴びて育った檸檬偏愛家シトロニストの私は、空想のクエン酸で唾を口いっぱいに溢れさせながら、地元の青果直売所へ走ったのだった。

手に入れた横浜の地レモンだが、なんというか──実ににレモンレモンしい色、そして形をしている。
ちなみに、レモンの先端にある突起を乳頭と呼ぶ。乳頭といえば乳首のことだが、レモンの突起をよくよく観ると、乳頭になぞらえたことも納得の形だ。レモンを凍らせてすり下ろすことを「豊橋式」というが、乳頭から連想して「ほうきょうしき」と読んだ男性諸君は巨乳で心が支配されている。しかと反省し「とよはししき」と憶えて帰ってくれ。

チクビ話ついでに、せっかくだから世界では乳首を何と呼ぶのか調べてみた。

「外国語 乳首」

などとスマホに入力するときには、さすがにいささか情けない気持ちになったが、好奇心は羞恥心をも凌駕するものだから仕方がない。
世界の乳首を紹介したいところだが、レモンの話に「戻ってこれない」気もするので、特に良かった語感の二カ国乳首を抜粋する。

まずは、ドイツ語の乳首「ブルストヴァルツェ」だ。
ポチッとした乳首にしてはいかめしすぎるその名前。ブラを外してブルストヴァルツェ閣下が現れたら、せっかくのブルストもヴァルツェしてしまうこと必至だろう。

そして、イタリア語の乳首「カペッツォロ」だ。
ドイツに続いて、いかにもイタリアらしい語感で、なんというか──とても美味しそうだ。新鮮な地中海の魚介を香草とオリーブオイルでマリネ。カペッツォロをたっぷりとすり下ろしてボナペティート、といったところだろうか。「あとひと味が足りない」といった場面では、ぜひ使っておきたい乳首調味料だ。

ちなみに、乳首の黒ずみには、メラニン色素の生成を抑制するビタミンCを豊富に含むアレ──そう、レモンが効くのかもしれなくもなくもない。

レモンが戻ってきたところで、話も戻しておこう。

国産のレモンなので、防カビ剤やワックス塗布の心配はないだろう。とはいえ、皮まで安全に使いたいので、念のために表面を湿らせた粗塩でこすり洗いし、30秒ほど煮沸した。

続いて、へたを取ったレモンをくし切りや輪切りにし、種を取り除いて重さを計っておく。
ペーストにしない場合は、ここで使いたい大きさに切っておこう。

切ったレモン重量の20%の粗塩を投入する。
10%ほどの濃度で作るレシピが多かったが、保存性の向上と、料理に使う目的で塩分を高くした。

続いて、ハンドブレンダーでペースト状にしていく。幅広のボウルで行ったためにレモン果汁が飛び散って難儀したので、この作業は細長の容器で行うか、フードプロセッサーに任せるのがいいかもしれない。

ハンドブレンダー作業を終え、飛散した塩を含んだレモン果汁を拭き取っていたら、床やテーブルがピカピカになった。冒頭でも述べたが、やはり──レモンにはすべてが詰まっている。

塩レモンペーストは清潔な瓶に詰め、常温で1週間ほど置いた。
出来たてのペーストは塩味と酸味のカドが強かったが、1週間後のものは良くこなれて、爽やかな旨味が強い。
完成した塩レモンは、肉に魚に米に麺にと何にでも良く合って、調子に乗ってガバガバ使っていたら、あっという間に瓶の半ばを切ってしまった。
瓶底が気になりだすと──なんだか哀しくなって、グッと塩レモンを節約したくなるのが人情というものだ。しかし、ここでアクセルを踏み込んで豪快に塩レモンを使っていくのが江戸っ子の心意気。仙台育ちで横浜在住の私に一切の江戸成分は含まないことはさておいて、ここは景気良く塩レモンを使っていこう。

🍋 🍋 🍋

🍥材料🍥3〜4人前

・焼きそば用の麺  3袋(450グラム)
・豚バラ肉薄切り  200グラム
・ニラ       2束


・塩レモン     大さじ3
・ごま油      大さじ1
・清酒       大さじ1.5
・砂糖       小さじ1
・顆粒鶏がらスープ 大さじ1

・にんにく     1かけ
・白ねぎ      3センチ
・炒め用サラダ油  適量
・水        50ml

【下ごしらえ】

・麺と肉を常温にしておく
・豚バラを食べやすい大きさに切る
・洗ったニラの水気をきって、5センチ幅に切る
・Aの調味料を合わせて、よく混ぜておく
・にんにく、ねぎはみじん切りにしておく

フライパンに油を引き、弱中火でにんにくとねぎを入れて香りを立たせる。豚バラ肉を投入し、塩胡椒(分量外)を少々振り、強火で炒めて取り出しておく。

麺をほぐさずに中火で2〜3分、麺を焼きつける。
片面に香ばしく焼き目が付いたら、麺をほぐし、さらに2分ほど焼きつける。

ここで使う中華鍋やフライパンは、麺が鍋肌に焦げ付かないように鉄製のしっかりと油が馴染んだもの、もしくはテフロン加工のものを使うのが安心だ。

水を加え蓋をして、強火で約30秒間蒸し焼きにする。
Aと豚バラを投入しざっと混ぜ、ニラを加えてしんなりするまで炒め合わせる。

皿に盛り付けたら黒胡椒(分量外)をたっぷりと挽いて、肉ニラ塩レモンそばの完成だ。


うずたかく盛られたニラから立ちのぼる──レモン芳しい湯気が食卓を包んで、ガル、ガルル、と、私の可愛いストマックちゃんが唸りをあげた。ふと妻を見やると、うつろなまなこで大皿を見つめている。どうやら、彼女の可愛いストマックちゃんもバウワウとした様相を呈しているようだった。

「いただきます」の〝ま〟あたりで、すでにフライング麺リフトである。そして──何かの競技かのように、夫婦は一斉に、そして一心不乱に食べ始めた。


──おお....これはいい....

ニラと豚バラ、そしてレモンが無双し、それを香ばしい麺が包み込んでいる。なんというか、この焼きそばをおかずにして──ご飯が食べたくなる。
米を炊かなかったことを後悔しつつ、ズゾゾズゾゾと箸が止まらずに麺の山は崩れていくのだった。


すっかりと大皿を空にして、歯に挟まったニラを舌先でもてあそぶ。私はごちそうさま、と満腹に身を委ねてソファへと沈み込んだ。


──しかし....


確かに美味かったが、満点ではない。
塩レモンを使いたくて、取り急ぎ過去の焼きそばレシピの応用で作ってはみたものの、あとひとつ──あとひと味が足りなかった。

それが何かは、私にはどうしてもわからない。
私はソファに横たわって懊悩した。


──あ。

仕上げに、イタリアの檸檬チクビカペッツォロをすり下ろして加えれば──

導いた結論は夢うつつのそれで、イタリアン乳首を最後に私は午睡ひるねに没入したのだった。


【写真:著者/著者の妻】


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