新・恋愛掌篇集4「アンニュイ…… ── Les Sept Peches Capitaux」
ただ酒を呑みたいだけであった。
大柳にでも連絡を取ってみようか──。
彼は池袋にいるらしかった。それで僕らは西口で落ち合い、ロサ会館辺りの居酒屋で呑みはじめることに決めた。
編集者の僕は、なかなか腕のいいカメラマンでもある大柳と、以前一緒に仕事をしていたことがある。
二年ほど前の話で、僕はその頃、女性誌の編集者であった。
それから暫くは疎遠にしていたが、僕がフリーで動きはじめてから、また一緒に仕事をするようになっていた。
彼は、僕にとってはカメラの『師匠』みたいな存在でもある。
僕らは酒を酌み交わしながら、僕が仕事で撮影したヌード写真を肴に面白おかしく話をしていた。そのうちに、何とはなしに糀谷も誘ってみよう、そう思い立った。
彼はまだ仕事をしていて、夜半の二時過ぎにはねる、それから池袋に出ますよ──ヤツはそう言った。
糀谷は、カメラマン崩れであった。
ある著名なカメラマンの助手をしていて、電通でスチール撮影に携わっていたこともあるそうだ。
ヤツはヤツなりに、一流のカメラマンとして一本立ちをする、そんな夢を抱いていたらしいが、付き合っていた女のこととか、自分の才能とか適性への疑問が昂じては揚げ句にカメラを捨て、小さな広告代理店の、パッとしない営業マンとしての人生を選んだのだ。
ある意味──。
『ストイック』な男なのかもしれない。
僕と大柳は、日付の変わる頃に店を変え、糀谷が現れるまで、其処で呑み直すことにした。
しっとりとして落ち着きのある、それでいて気取るふうでもない雰囲気の店で、生ほたるいかの沖漬けと鰹のたたき、出廻りはじめたばかりの岩牡蠣と──肴はどれも新鮮であった。煤けたカウンターや卓上が、酒とか肴の旨さに一層と『興』を添えていたから、余計にそう感じたのかもしれない。
そんな雰囲気に酔い痴れては、僕らは八海山やら〆張鶴やら久保田やら、決して安くはない大吟醸をあれこれと試し愉しみつつ、より話に花を咲かせていた。

「大柳ちゃんて、まだあの夢持ってるの?」
「えっと──どんな夢だっけ?」
「あれだよ、ほら、スタジオ付きペンションの経営って夢さ、まあ随分と大笑いさせてもらったよ、あの話には」
「そんなにウケなくってもいいじゃないですか建部さん、その夢なら、まだちゃんと温めてますよ」
「へえ、そうなんだ──まあでもさ、いずれ夢を持つってのはいいことじゃないかな」
「そう云えば建部さんって夢あんの?」
「さあ、どうかな、夢ねえ──オレの夢ってのは何だろうな、そんなこと、ほんのこれっぽっちも考えちゃいなかったね」
「建部さんも、何か夢持った方がいいよ」
「そうだねえ」
夢ねえ──。
僕には、何ら思い着かなかった。
所詮、今のオレなんて、泡沫に流されて生きてるだけなんだよ。夢だなんて、オレにはそんなものありはしない──。
「でもさあ、大柳ちゃん順風満帆だよね、聞いてるよ、女性誌数誌から引っ張り凧なんだろ?」
「そうでもないですよ、ただチャンスがあれば頑張るし、それだけのことですよ」
それだけのことですよ──何気ないその言葉が僕には鈍く、そしてズシリと響くような気がした。
あの女との関係に挫折をしてこの方、僕はあまりに多くを誤魔化しては、ただ徒に流されてきただけに過ぎない、眼を背けたまま。
ひたすら酒に逃げ、虚しいセックスに逃げ、何もかもに倦み疲れては、呆然と立ち尽くしているに過ぎない。手を拱いたまま。
あまりに多くを失ってしまったのかもしれないな、いや、もしかしたら何もかもを失い、揚げ句に僕自身が泥流に掬われ呑み込まれている、そんな気さえする。
それと知らぬ間に、僕は泥水に呑み込まれでもしたんだろうよ。そうなるまで気づきもしないだなんて、とんだお笑い草だね、まったく。
懸命に泥流を掻き分けてはずぶ濡れの頭を擡げ、喚き、あるいはそれに、看過ごすことなく手を差し伸べようとする、そんな人影を眼にしたこともある──そんな気もする。
それでも僕は、その手に縋る間もなくまた呑まれるのさ。結局はその繰り返しさ。
やれやれ、またしても無限カノンか──。
こうして酒に現を抜かしている今でさえ、多分、僕は何かを失いかけている。
店は二時で『看板』であった。
僕らは、時間を気にせずに済むというそれだけの理由で、地下道入口脇の「大都会」で再び呑み直すことにして、カメラマン崩れには、そう電話で伝えた。やがて彼も合流した。
「それにしても糀谷ってさ、何でカメラ諦めちゃったの」
底意地の悪い僕は、改めてヤツに『挫折の物語』を独白させてみようとしていた。
「そりゃ簡単っすよ、ケイシイ……喰えないからっすよ。夢じゃあ喰ってけないっすから」
「だって電通で仕事してて、それに腕の確かな広告カメラマンに就いて勉強してたわけでしょ? やっぱりもったいないと思うな」と大柳が僕に同調した。
「そりゃ大柳さんみたいに才能があれば、オレだってカメラ続けてたと思いますよ、結局は才能っすよ、オレには才能がない──それと、金っすよ金、すべては金の上に成り立ってるんっすよ、愛も夢も希望も」
糀谷は、まるで達観しているふうだった。蓋し名言だ──と、生ビールのジョッキを傾けながら、僕はそう思ってみた。
そんな他愛もない話に興じて僕らは……結局、朝の六時過ぎまで呑み続けた。
それでも、僕はちっとも酔えなかった、ただ頭が重たいだけであった。
そのうえに『やるせない』ほど虚しかった。
兎も角も、このどうしようもない虚しさを、何処かで吐き出さなければいけない──そういう必要さえ、切実にも感じるほどに。
僕らは、そのまま改札口には向かわず、何とはなしに東口方向へと通じる地下道へ脚を運んでいた。
糀谷は、疲れて土気色の貌と頭をゆらゆらと傾け、大柳は、呑みつけない日本酒のせいで、どんよりと曇る黄ばんだ眼差しを頻りと瞬かせ、僕はといえば、死んだ魚の眼を所在なげに泳がせながら『どうしようもない虚しさ』にぼんやりとして──揺蕩う重い足取りをふらふらと運んでいた。
そうだよ──。
やるせないほどに膨張し続ける虚しさを、何処かで吐き出さなければいけない。
ふらふらと歩む僕らの鼓膜を、夜明けても名残惜しげにギターを掻き鳴らす、ストリート・ミュージシャンらしき若い男の歌声が弾いていった。
薄汚れたTシャツと、黒ずんだデニムのパンツに身を包む彼の姿が、まるで『生命の焔』で赤々と燃えている、そんな気がした。
僕の眼には、少なくともそんなふうに映ったのだ。
僕らは彼に興味を抱き、二、三、言葉を交わしてから『うた』をリクエストしてみた。コピーとかオリジナルを取り揃えて、彼は含羞む人懐っこい笑顔で歌い続けた。
静岡から毎週末、こっちに来て歌っているんですよ──何曲か歌い終えて彼は、そんな言葉を笑顔とともに漏らした。
東京の夜の街を彼方此方へと渡り歩き、それぞれの喧騒に掻き消されそうになろうとも、彼は歌い続けている。
いつか大きな、ちゃんとしたステージでやりたいんですよね、と……彼は彼のほんの「ささやかな夢」を、とても熱っぽく語る。
何てことだろう──それを耳にして僕は、僕自身が熱情に満たされていくような錯覚を憶えてしまった。
気づけばカメラを取り出していて、彼に喰らいつくみたいにファインダーを向けていたのだ。
なぜだろう?
多分、このようなことかもしれない。つまるところ、僕の何処かで燻る虚しさを追い遣っては、彼に漲る『生命の焔』を、僕の裡へと取り込みたかったんだ、きっと──。
それでも、虚しさは燻り続けたままであったし、僕らは結局、彼に別れを告げては、すごすごと立ち去るよりなかった。
彼の眩しいポジが、僕の陰鬱なネガを無意識のうちに否定している気がして、それでひどくいたたまれない気分へと陥ってしまったから、そうに違いない、きっと。
地下道を抜けて広がる、湿り気と灰白色に包まれし朝に覆われた、墓地の如き池袋の街──。
その到るところで堆く山をなす、きっと『七つの大罪』が繰り広げられていたであろう『不夜城・池袋』から吐き出される、悦楽の夢の痕とでも呼ぶべき塵芥──。
ところどころに打ち捨てられる、そんな欲望のなれの果てには、黒き神の使者達が聖餐式を挙げるために群がり、あるいはしゃがれた声でイントロイトゥス──入祭唱を朗詠しながら、掠めるように夢の痕を捉えて滑空していた。

虚ろな眼差しでそれを追いながら、僕はこんなことを呟いていた。
Krähe wunderlich Tier,
du weißt von meinem Sehnen.
Essen Sie bitte, meine Eitelkeit aus!
──鴉、奇妙な生き物よ、オレの願いは判っているだろう。オレの虚しさを、喰い漁ってくれ!
ミューラー交じりの、どうしようもなく不可思議な言葉で、僕は小さく、そう吐き捨てていた。燻り続ける虚しさばかりに満たされるせいで、何しろ頭が張り裂けそうであったからかもしれない。
重たい頭を持ち上げて、僕は改めて、湿り気を帯びては灰白色に霞む虚空へと眼を遣りつつ、徐にも口を開いた。
「大柳ちゃん、何処かで抜いてくか?」
大柳は呂律の廻らない口調でそれに答えた。
「いいですよ、何処かで抜きましょうよ」
糀谷の顧客に、東口で早朝から営業をしている、個室マッサージがあるらしい。
僕と大柳は、糀谷の案内で、その個室マッサージへと足を運んだ。
何しろこんな時間だし、たいした娘なんていないと思うよ──僕は大柳にそう告げた。彼はどんよりと曇る眼差しを振り向け、ただこくりと頷くだけであった。
案の定、早朝シフトの三人の風俗嬢はお話にならない娘ばかりであった。ひとりはまだしも、残りのふたりは──マシな娘には、もうとっくに客がついていた。僕らの他にも物好きはいるのだ、日曜の朝から抜きにやってくる物好きが。
僕は大柳に優先権を与えた。
彼は随分と太った方の娘を選び、結果として僕には、残り物のガリガリに痩せた娘を宛行われる宣告が下され、なればとて僕は、甘んじて受け容れる意を決した。
招福を祈りつつ、僕は痩せた残り物を待つことにした。
束の間、プレイ・ルームに案内された僕は、どう眺めたところで「福」とは縁のなさそうな娘を目の当たりにした。
クスリをやっているな──直感的に、僕はそう思った。
そして、まるで冥界を訪れたオルフェウスか、あるいはイザナギノミコトにでもなったかの気分へと襲われた。
オルフェウス、か──そう云えばオレはその昔、伴侶にしようと決めた女を傍らにしたことがあったっけな。引き裂かれ方は異なるにせよ。
声なき声で、そう呟いてみては、あの女の貌を思い出そうとしていた。
ところが、脳の何処かで像を結ぶそれは、あまりに隣接した場所に設けられた展望台から仰ぎ見る、どうにも巨大な瀑布──例えばナイアガラのそれのように、白っぽくぼやけて映るだけであった。
「あたしね、実家がラーメン屋なのよ、この近くなんだけどさ、普段はそこで仕事手伝ってんのよね」
僕を揺すぶり喋る女の声に、僕はふと我に返った。
「そう」
「結構さあ大変なのよね、新しいお店とかオープンすると、お客さんてそっちへ流れるじゃない? 大きな会社なんかが、プロデュースで噛んでるとさあ、TVとか雑誌とかで派手に宣伝打つでしょ? それで一寸でも回転落ちると、金に物を云わせてまた新しい店で話題作って、てなるでしょ? 喰われっぱなしで、儲けも目減りするから、そいで結局は自分で自由になるお金なんて、ないも同然ってワケよ」
「へえ、そう──でもさ、家業を手伝って風俗じゃかなりキツイんじゃないの? 体力的にもだし、寝る暇だってないんじゃないの?」
どう考えても風俗向きには仕立てられていない女に、僕はそう水を向けてみた。
「でもさあ、確かに今は食べるに困らないけど、でもあたしだって少しは自由になるお金くらい欲しいわよ」
「まあ──そりゃそうだろうね」
「まあさ、それでいいのよ、ほんの少しのお金で……だってさ、仕方ないんだもん──あたしって見てくれ全然良くないでしょ? 顔はサルだし痩せ過ぎだし……何だっけ、摂食障害って言ったっけ? 拒食症とか過食症とか、信じらんないよね、ドカ喰いする余裕もないしさ、まあ此処で稼いだからってドカ喰いする気にもなんないけど、実家のラーメン屋とヘルスの掛け持ちで、いくら喰ってもさ、太りたくても太れやしないんだもん」
間違いなく風俗嬢向きに誂えられてはいないこの女の、いずれ容姿は百歩譲るにせよ──ともあれ口を吐いて出る一部始終は、客相手の話題としては聊か不相応な気がする。どれも愚痴ばかりじゃないか?
オレはそれでも、別に構わないさ。彼女の話は、存外のところつまらなくもない気がするから。
「ねぇ……あと一本、援助してくんない? 内緒で……そしたら、中に挿れてもいいからさあ」
援助、ね──それはいい、どうでもよかった。むしろ。
どうでもよかったから、応じてやった。それでも──。
勃ちそうな気もしない、寸分であれ。それでも──そういう気もしないなりに、余計に渡すのであれば、それなりに愉しませてもらおうか、とは思えど。
貧相な渓であった──。
植生も疎らで、枯れて潤いもない。
こうもなると、トレジャー・ハンターよろしく探索する気さえ、失せ消えてしまう。舌を引っ込めるよりないな、そう僕は判断した。遣える手札は、最早『手指』のみ、か。いや、いい。それならそれで構わない。
それで暫く、抜き差しを試みる。わずかにではあれ、潤ってくる。
それを確かめてから渓の奥深くへと、これも自らの手指で扱いた僕自身を沈めていった。沈めて、僕は後悔した。
茫洋とした空間は空虚で、夢の欠片もありはしない。
しばらく往還運動へ身を任せてみる。何も感じやしない。風俗には向いていない女の、作り笑いのような嘘の喘ぎ声が漏れるだけ。やがて──。
「ねぇ……あと、一本……そしたら、中、出していい、から」
「ふうん」──と僕は、嘘で取り繕うように鼻を鳴らす。残るは、そう。嘘だけ。僕にせよ、女にせよ。だから。
僕は満足したふうを装った。そうして……。
「気持ち、いいよ」と、心にもないことを──。
ともあれ、本音はうんざりだった。
青痣だらけ注射痕だらけの腕も、果てなく続きそうな愚痴も、薄暗いプレイルームも、嘘の繰り返しも。そんな何もかもが──。
うんざりだ──。
でも別に、どうだっていいことさ。
いずれもう、抜く気にもなれない。
どの途きっと──僕の抱える虚しさなんて、例え気の利いた、それも即製ではないプロの女が相手であれ、追っ払うことなんて適いやしないに決まっている。

ルームを出たのは、きっちり四十分後だった。
出入り口脇のスツールへと腰掛ける、どうにも表現の難しい色を面へと浮かべた大柳の姿を、僕はそこに認めた。
僕は訊いた。「どうだった?」
彼は答えた。「どうでしょ?」
大柳はとろんとした眼差しで、しかしながらわずかに肩を竦めては、呂律が廻らないのか、舌を噛みそうにしながらそう告げた。
どうやら、金と時間を無駄にしちまったな、そんな気がした。
なぜって?
僕にせよ、あるいは大柳もまた変わらず──漠たる虚しさを、内奥の何処かへ引っ掛けちまったままだからさ。そのせいで、ソイツを唾棄するはずの白濁した「流れ」さえ、結局は堰き止められちまったからさ。
そうさ──。
何でさえ、吐き出されやしなかったのさ……精液でさえも。
上野、東京方面へと走る車輌に乗り込んで僕らは、しばらく無言のままでいた。
僕が乗り継ぎをしなければならない駅が近づく頃、大柳は思い出したみたいに口を開いた。
「ああ、そうだ実家に戻る準備をしなきゃ──建部さん、法事があったの、すっかり忘れてたよ」
「そう云えばそうだったよね、悪い、オレもすっかり忘れてたよ」
「いやいや、それはいいんですよ建部さん……でもね、いいですよ? あ、例の夢の話だけど、ほんとにね、綺麗な湖で、それと綺麗な木立で、ほら、いろんなミュージシャンも来るじゃないですか、スタジオが幾つかあって、暫く滞在してアルバムとか作ってくんですよね──リゾートの要素もあるんですよ、そう考えると」
大柳は楽しそうであった。
「そうそう別荘みたいなね、そんな建物もあるんだって、だからこれ、受けるよ? スタジオ併設のペンションって……バブルなんてさ、再来しないでしょ? 建部さんだって、そう云ってたじゃないですか、新婚旅行もねぇ、何が何でも海外って時代じゃなくなりますよ? だからさ、セルフ・ポートレイトなんかも撮れるように、簡単な撮影のテクニックも教えたりして、でね、機材とかも貸し出して……建部さん、これ、絶対にね、喜んでくれるひとっていると思うんだよな」
ああ、そりゃそうさ、受けないわけがない。あとは大柳ちゃん、あんたが商売として巧く運べるかどうか、それだけさ。
しかし彼には、確実に「バックボーン──寄す処」がある。故郷とか、彼を迎える家族もいれば、商売のネタになりそうなモノだって、多少なりとも転がっている。そして大柳ちゃん──。
あんたにはソイツを、実現するだけの実力も幸運も備わっている。
いや、夢に拘らずとも、あんたの名前、方々で見かけるようになってきたじゃないか? クラッシイ、コスモポリタン、シュプール──大柳ちゃん、あんたはラッキー・ボーイさ。
なぜって?
あるいは仮にだよ、この世界から淘汰されようと、君にはなだらかな湖水とか、気持ちのよい風が抜けていく木立とか、それにたくさんのカップルとか、家族連れの姿が具体的に像を結ぶんだろ?
でもねえ大柳ちゃん、僕にはさ──。
それがないんだよ──。
「ねえ建部さん、起きてる?」
「ああ、うん、ちゃんと聞こえてるさ──オレも夢を持たないとダメだね」
「そりゃ、夢はあった方がいい」
「そうだろうよ──ああ、乗り換えしないとな、いや悪いね、朝までつき合わせちゃってさ」
「いや、また呑みましょうよ」
虚しさに満たされたまま、僕は大柳と別れた。やるせないほどに虚しかった。
僕は大柳のように、まっとうに生きていくことも適わないのかもしれないし、それどころか、夢を捨てた糀谷のように「所詮は金」だなんて、そう達観することさえも出来ずにいる。
オレは一体、何処へ向かえばいいんだ?
※初出:2005年
© Yusuke Yawata
