ひとりで暖房をつけられなかった冬の話
真冬の昼間、
私は家の中で、
外に出るときと同じ格好をして過ごしていた。
それが、
私にとっては普通だった。
ずっと以前のことだけど、
家にひとりでいる時間、
なるべく暖房をつけないでいた。
日中は日が入るから、
寒さも
「我慢できないほどじゃない」
と思っていたし、
何より、
自分ひとりのために暖房を使うのが、
なんとなく、もったいない気がしていた。
だから、
ヒートテックを何枚も重ね着して、
その上に
ウルトラライトダウンのベストを着て、
さらに
フリースも着ていた。
かなり、
もこもこだった。
正直、寒かった。
寒さに加えて、
着込みすぎて体は動きにくく、
肩も凝っていた。
それでも、
我慢していた。
そのことを、
誰かに話したことはない。
隠していた、というより、
それが自分にとっては当たり前で、
「自分には
これくらいがちょうどいい」
そんなふうに、
思い込んでいた気がする。
何枚も重ねた
ヒートテック姿で、
ふと、
鏡に映った自分を見て、
「ブサイクだな」
と思った記憶がある。
でも、
そのまま
着替えることはなかった。
家族が帰ってくる時間が近づくと、
私は急いで暖房をつけた。
自分のためじゃなく、
家族のために、
部屋をあたたかくしなきゃ、
そう思っていた。
「やっとつけられる」
と思ったわけでもなく、
「自分もあたたまろう」
と思ったわけでもない。
ただ、
家族が寒くないように。
それだけだった。
今の私が、
その頃の自分に
声をかけるとしたら、
アドバイスじゃなく、
事実をひとつ言うだけなら、
「もっと
肩の力を抜いていいと思うよ」
たぶん、
それくらい。
あの頃の私が、
何を感じていたのかは、
もう正確には分からない。
でも、
ひとりで
暖房をつけられなかった、
という事実だけは、
今も
体に残っている。

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