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【妄想エッセイ】白雪姫のもうひとつの物語|王妃の孤独

「鏡よ鏡。この世で1番美しいのはだぁれ?」

王妃が問いかける、その少し前。


鏡は、ほんのわずかに震えていた。






誰も知らないけれど、
あの鏡は嘘をつけなかったわけではない。


ただ……
「美しさ」の定義を、変えられなかっただけだ。






王妃は若い頃、
本当に美しかった。




国中が息を呑むほどに。




王も、家臣も、
鏡さえも。






けれど誰も、彼女の孤独を知らない。






王妃はいつも、比べられていた。






先代の王妃と。
隣国の姫と。






そして……
まだ幼い白雪姫と。






「美しいですね」と言われるたび、
彼女は思った。






「それ以外に、私の価値はないの……?」






美しさは、祝福のようでいて、
檻でもあった。






一方、白雪姫はまだ知らない。






自分が「物語の主役」になることを。






森で小人たちと歌い、 無邪気に笑うその裏で、


王妃は、何度も鏡の前で立ち尽くしていた。






「この世で1番美しいのは、白雪姫です」


鏡の声は冷たい。






でも王妃は、
その奥に、別の言葉を聞いていた。






「あなたはもう、選ばれない」






選ばれない。


それは、女にとって静かな死だ。






王妃はリンゴを手にする。

毒を塗りながら、
指先は震えていた。






嫉妬だけではない。






恐怖だった。






もし、この世で1番の美しさを失ったら……
私には、何が残るの……?






森へ向かう馬車の中で、
王妃は一瞬だけ、願った。






どうかあの子が、
リンゴを受け取らないでほしいと。






けれど残酷なことに、
疑うことを知らない無垢さもまた、白雪姫の美しさなのだ。






白雪姫は倒れ、
ガラスの棺に横たわる。






冷たくなったあの子を残し、
城へ戻った王妃は、 塔から静かに森を見下ろした。






胸が、痛かった。






これで、私が1番美しいはずなのに。






鏡は、もう何も言わない。


問いかけても、沈黙する。






王妃は初めて気づく。






美しさだけを競う物語に、
勝者はいないのだと。






静まり返った部屋の中で

王妃は鏡に触れながら、別れを告げるように尋ねる。


「鏡よ鏡。この世で1番美しいのはだぁれ?」






鏡は沈黙したまま、

憑き物が落ちたような、穏やかな女の顔を映し出していた。






王妃は、微笑む。


少しだけ、楽になった。


もう、誰かと比べて怯える夜はいらない。






静かにドレスを脱ぎ、
王冠を外し、
誰の視線も届かない森へ消えた。


森は暗くなかった。
月明かりが、彼女を祝福していたから。






毒に侵されたのは、
白雪姫だけではなかった。






王妃もまた、
「選ばれなくなる恐怖」という猛毒を、
ずっと飲み続けていた
のだから。






鏡は今日も、沈黙している。

その冷たい表面は、ただ真実の静寂だけを映していた。



これは妄想エッセイです。


誰もが知る「白雪姫」の物語。

その裏側に、もしも語られなかった孤独が潜んでいたとしたら……。


天野エリカさんの新作フォトギャラリーに息を呑み、
そこにある光と影に誘われるようにして、悪役と呼ばれた王妃の心に光を当ててみました。


私の執筆の源となったエリカさんの美しい世界はこちらです👇


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