詩|赤
私が初めて見た赤は、ドレッサーから転がり落ちた母の口紅。
床に歪な円を描いて、冷えた温床の隙間を探る。
理性の欠片から覗いたケダモノが、
地上に散らばった虚しさに顔を埋めて、
黄色くなった牙を突き立てる。
鋭く刺さったのは月光か、はたまた眼光か。
トゥーシューズを忘れたバレリーナは、
何も言わずにしなやかな腕を伸ばす。
いや、もうどうでもいい、か、
気持ち、いい、
気、持ちいい、
気持ちいいだけなのに、
私が昨夜見た赤は、グラスに透過したルビーの煌めき。
無知な身体に忍び込んだ鉄は逆流を繰り返し、
シーツに不規則な膨らみを生む。
わたしはわたしがすきなの。
滲んだアイラインを拭う大きな手が、
直感的に打ちつける感情そのものが。
いやもう、どう、でもいいか、
気持、ちいい、
気持ちい、い、
気持ちいいだけなのに、
私が最後に見る赤は、きっと母に似た成れの果て。
