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【映画】遠来〜トモベのコトバ〜

 7月13日(月)夜、横浜シネマリンで「遠来〜トモベのコトバ〜」(監督・伊勢真一)を観た。客席にはわたしともうひとり、ふたりだけだった。

 友部正人は、1996年から20年にわたって生活の拠点をニューヨークに移していた。この映画は、そんな彼の日々の暮らしを追ったドキュメンタリーである。

 ニューヨークの街、地下鉄、セントラル・パーク。さまざまな人種が入り混じった人々、犬、猫、そして小鳥たち。小鳥たちのさえずりが日本で聞くのと全然違って、とってもやかましいのが面白かった。鳥もひとと同じように、アメリカと日本で違う言葉を持つのだろうか。
 ギターを片手にニューヨークを歩き、アパートの窓辺でつまびき、セントラルパークで歌い、街の中で詩を読む友部さん。そこに住んでいるはずなのに、その姿はまるで初めての街をさまよう旅人のようだ。
 一方で、ニューヨークシティマラソンに出場するために、毎朝ランニングを続けるストイックな姿も印象的だ。その傍らにはいつも、妻で写真家の小野由美子が寄り添う。

 映画のタイトルにもなった「遠来」は、東京にいながら、ニューヨーク、インド、フランス、台湾にいる友を想う歌だ。ジョン・レノンの死をきっかけに作ったこの歌を、友部さんは40年以上歌い続けている。

君がニューヨークにいるのと同じように 
ぼくは東京にいる
君がニューヨークでアパートを借りているのと同じように
ぼくは東京で借家住まいだ
君はニューヨークで新しい友達を見つけただろうか
ぼくは東京で見つけたよ
そしてぼくも君も東京とニューヨークで
歌のことを考えている

「遠来」詞・曲 / 友部正人
アルバム『ポカラ』収録(1983年徳間ジャパンコミュニケーションズ)

 「ぼく」はインド、フランス、台湾の友達に想いを馳せたあと、歌をこう締めくくる。

君が地球にいるのと同じように
ぼくは地球の上にいる
夜になるとたくさんの街の灯が
つながってひとつになるのを見たことがある
ぼくらはいつもどこか遠くから
ぼくらのいる星を眺めている
そしてぼくも君もこの地球の上で
わかりあえないまま距離ばかりをたいせつにしている

 10代の頃、誘われて出かけたイベントで、出演バンドがどれもつまらなくて退屈していたときに登場したのが、友部正人だった。たったひとりでギターを弾き、「私の踊り子」を歌った。他の誰とも違った。圧倒的だった。
 今日の「遠来」が、あの日のようにわたしの心をつかんで揺さぶった。友部さんの音楽は、たとえ聴いていないときでも、ずっとわたしの奥底で、静かに鳴り響いていたのだ。
 そして、遠くや近くにいる友達のことを想った。わたしたちの間の途方もない距離を越えてつながることが、果たしてできるだろうか。

 友部夫妻は、一人息子が成人したのを機に、ニューヨークへの移住を決めた。そのとき夫婦は離婚しかけていた、だからここで新婚生活をはじめたかったという由美子さんの言葉に、同じように一人息子を育てているわたしは衝撃を受けた。人間ひとりを成人させるのは生半可なことではない。きっと、余人には想像しがたい色々なことがあったのだろう。身につまされるどころの話ではなかった。

 夜の闇に包まれたワシントン・スクエア・パーク、その木の下に高田渡の骨を埋めた、と語る友部さん。「高田渡と自分は一本の木だったけれど、渡は根っこで自分は花になりたかった。花には根っこの気持ちがわからないことがある」そんな言葉も心に残った。その直後に流れる「一本道」も素晴らしかった。

 ニューヨークシティマラソンに出場する朝、由美子さんが作ったお雑煮を食べる姿や、自宅でのパーティで友人の子供たちにおにぎりを握ってあげる姿をとても新鮮に感じた。ああ、友部さんもこうやって、この土地に根を下ろして生活をしているのだと当たり前のことをしみじみと実感させられた。この何気ない毎日から、他の誰にも考えられない、またたく星々のような言葉が立ち上るのだ。

 映画は友部さんの日常を追いながら、何の脈絡もなく、唐突にはじまる歌や詩を記録し続ける。
 「八時十五分」では、台所でハンバーグを焼くにおいと、原爆で人々が焼け死んでいくにおいが交錯する。
 もしかして、友部さんがニューヨークで生きることを選んだのは、敬愛するボブ・ディランがいたからではなく、わたしたちを皆殺しにしようとした国の、一番大きな都市で祈りを捧げるためだったのかもしれない。

 上映後、伊勢監督と少しだけ話した。監督はできるだけ毎日劇場に足を運んでいるのだと言う。「友部が映画の中で毎日歌ってるんだから、おれが来ないわけにいかない」なんてすてきな友情だろう。
 できるだけ多くのひとに、友部正人の世界に触れてほしいと願わずにいられない。
 そして、何より今、彼の歌を聴きたい。

パンフレットに伊勢監督のサインをいただいた。

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