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DIE WITH ZEROと年金の接点

高校生の頃から遊んでいる女友達と、久しぶりに会った。初夏を感じる5月に、3人で須磨海岸に集まる。

40年以上の付き合い。アラカンらしく顔にはそれぞれの年月が刻まれている。けれど、話し出せば中身はほとんど変わらない。笑い方も、ツッコミ方も、話題があちこち飛んでいく感じも、昔のままである。

ただ、ひとつだけ決定的に違うことがあった。

まさかの「年金」の話が出てきたのだ。

耳を疑った。
え!? わたしらが年金・・・
そんな話、今までこのメンツでしたことがない。

当たり前である。あの頃から変わらない(つもりの)わたしたちにとって、老いとは他人のものだった。それどころか、わたしはついさっきまで年金が自分に関係するものだと気付いていなかった。年金を受け取れる年齢である実感がまるでなかったのだ。

それが今年は、須磨の海に足をチャポチャポつけながら年金の話をしている。

友達のひとりが言った。
「年金制度が、この先どうなるかわからんやん」

もうひとりが続けた。
「自分の体もいつまで元気かわからへんしな」

その言葉は、妙に現実的だった。
地下鉄の駅の階段を登るだけで息がはぁはぁ上がるし、スマホの画面に映る文字サイズは1cm角くらいある。

そして話は、こんな方向へ進んだ。

働かなくてももらえるお金ならもらえるうちにもらって、使えるうちに使ったほうがいいのではないか。

元気に動けるうちに、行きたい場所へ行く。食べたいものを食べる。会いたい人に会う。やりたいことを先送りにしない。

どうせ死んだら、あの世には何も持っていけないのだから。

その言葉を聞いたとき、わたしはベストセラー本の『DIE WITH ZERO』を思い出した。

死ぬときにいかに多くのお金を残すか。そこを人生の最終目標にするのではなく、生きているあいだに経験として使い切る。

もちろん、これは無計画に散財すればいいという話ではない。
生活費、医療費は絶対に必要だ。
家電製品は、わたしの都合などお構いなしに、ある日突然壊れる。だから、残しておくお金のことを考えなくていいわけではない。

とはいえ、お金の不安ばかりを握りしめて、今の楽しみをすべて後回しにするのは、かなりもったいない。

子育てに忙しかった時代は、子供のために、未来のためにガマンすることが正解だと思っていた。

できるだけ貯める。無駄遣いしない。
それは確かに大切だけど、人生も後半に入ると見え方が変わる。

子供の未来も自分の未来も大事だ。
しかし、「今の自分」もまた大事なのである。

今ならまだ体が動く。目が見える。足で歩ける。
人と会って笑える。本を読んで、心が動く。
コーヒーを飲んで、おいしいと思える。
当たり前のようでいて、これって、実はかなり贅沢なことじゃない?

それに、人生後半になると「時間」の重みが違うのだ。

とにかく、流れるのが早い。

1週間は7日あるはずなのに、月曜日のしいたけ占いを読んだと思ったらあっという間に木曜日のゴミの日がくる。気がつけば新しいしいたけ占いを読んでいる。あれ?火曜日と水曜日、どこ消えた?

「いつかやろう」と思っていることがあるんだけど、果たしてその「いつか」は本当に来るのか!?

自分自身を客観的に見れば見るほど、その疑いは大きくなる。
これは悲観ではない。現実である。
現実を見るからこそ、今を雑に扱ってはいけない。

インスタの起業女子のように毎日をキラキラ見せるのはわたしには向いていない。ていねいな暮らしのように、シンプルで大人シックな映えもいらない。ただ、自分の心が軽くなるように選択して生きていく。

読みたかった本を手元に置く。
会いたい人に「会おう」と言う。
行きたい場所に行く予定を入れる。
着たい服を年齢であきらめない。
食べたいものに罪悪感を持たない。
嫌なことに自分の時間を使わない。

人生後半の豊かさは、派手でなくていい。
自分の時間と心を、何に使うかを自分で選べることが大事。

「今を全力で生きる」と言うと、少し熱血に聞こえるかもしれないけど、わたしの思う全力は、もっとゆるい。

楽しむこと。休むこと。
嫌なものから離れること。
ネガティブやストレスを人生のデフォルト設定にしない。

まぁ。人間、生きていれば、面倒なことはある。
それでも、自分からわざわざ苦しい場所に居続ける必要はない。

今日の時間をいかに自分の「好き」に使うか。
そこに意識を集中させたい。

女友達との年金話は、妙にリアルで、妙に明るい未来予想図だった。
本来、老後の不安を語っているはずなのに。

たぶんわたしたちは、老いが進む年齢を実感しながらも年齢を横に置いて、しっかり楽しみたいのだ。

お金も、時間も、体力も、気力も無限ではない。
だからこそ、大事に使いたい。

あの世に通帳は持っていけないからね。
持っていけるとしたら、楽しんで生きた今世の経験だけだ。

さて、あなたは
今を楽しんで生きていますか?


<本日のおすすめ書籍>


『DIE WITH ZERO』 ビル・パーキンス著 ダイヤモンド社

お金を貯めることより、使い切ることの方が難しい、というのが著者の問いかけ。資産(ネットワース)より人生の充実度(ネットフルフィルメント)を優先するという考え方が軸になっています。

■著者のビル・パーキンスってどんな人?
テキサス州生まれ、ヘッジファンドマネージャーとして成功した後、映画業界にも進出した異色の経歴の持ち主。若い頃、上司から「はした金を貯めて何になる、今しかできないことに使え」と言われたエピソードが本書の出発点になっています。

■『DIE WITH ZERO』3つのポイント

  1. 記憶に投資する
    「記憶の配当(メモリー・ディビデンド)」という考え方。経験は一度きりだけど、その思い出は何度も自分を豊かにしてくれる、という発想。

  2. タイミングが命
    人生の充実度を高めるのは、その時々にふさわしい経験。時間とお金という限りある資源を、いつ何に使うかが鍵になる。若い頃にしかできないこと、健康なうちにしかできないことがある、という話。

  3. 死ぬときゼロでいい
    「将来のために貯めておこう」という日本人特有の貯金志向に対して、新しい視点を提示している本。まさに、共感!


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