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舞い踊れ!第三十三話:それよこせ いやいやこれは わたせねえ

「――〽揚屋が門を……行き過ぎ~る~……っ!」

――ダンッ!!!

最後の力を振り絞った足拍子が、仮設舞台の素木を激しく打ち鳴らした。

……終わった。 出し切った。正直、今の俺が出せるすべては、完全にこの場に出し切った。

肩が激しく上下し、荒い息が喉を焼く。全身から汗が噴き出し、着物が重く肌にへばりついていた。 この半年間、参蔵屋の離れに閉じこもり、毎日毎日、それこそ吐くほど踊り狂ってきたのだ。たぶん……多分だが、思い通りの踊りはできたと思う。 だが、ちゃんと踊れていたかどうかすら、もう自分では覚えていなかった。それくらい、俺自身としては空っぽになるまで出し尽くしていたのだった。

三郎助の三味線が、余韻を残してピタリと止まる。 文次の唄声も静まり返り、仮設の稽古場には、ただ俺の荒い息遣いだけが虚しく響いていた。

「……おい、巳之助」 見えない目の文次が、明後日の方向(仮設客席の天井の隅)を向いてボソッと囁いた。 「どうなった? あの大看板、どこかいったのか?」

俺は汗を拭いながら、おそるおそる正面の仮設客席へと視線の向けた。

そこには――大胡座をかいたまま、微動だにしない中村芝翫の姿があった。 目をカッと見開いたまま、腕を組み、まるで石像のように固まっている。微かに瞬きすらしていないように見えた。

俺は声が出ないため、首を大きく横に振って「駄目だ、まったく動かねえ」と、身振りで三郎助に伝えた。 俺の動きを見た三郎助が、正面の芝翫をじっと見つめ、おろおろと首を傾げる。

「おいおい……どうしたんだよ? 芝翫の奴、微動だにしねえぞ。俺たちの踊りがあまりにもくだらなさすぎて、座ったまま寝ちまったのか? ……いや待て、目がカッと開いたままだぞ!」 「なんだと!?」 目が見えない文次が、明後日の方向(稽古場の柱)を向いたまま驚いて声を上げた。 「目が開いたまま固まってんのか!? 死んでんのか、それとも目を開けたまま寝るタチなのか!?」 「ひぃっ! 怒りのあまり魂が抜けちまったんじゃないでしょうね!?」と、隅で見守っていた清吉が胃を押さえて悲悲鳴を上げる。

三猿の間に、生きた心地のしない冷や汗と、重苦しい不安がじわじわと広がっていった。

(おいおいおい……マジかよ。そんなに酷かったか? 俺たちの『供奴』は……)

だが――俺たちの不安をよそに、芝翫の頭の中では、まったく別の激震が吹き荒れていたのである。

(な……んだ、今の踊りと曲は……!?)

芝翫の脳裏で、先ほど巳之助が見せた泥臭くも鮮烈な所作と、耳に飛び込んできた歌詞が怒濤のように反芻されていた。

歌舞伎とは根本から違う、全く見たこともない新しい表現。 ……そして何より、芝翫の心を激しく揺さぶったのは、その歌詞の文句であった。

(『成駒』に……おまけに『浪花師匠のその風俗に似たか似たぞ似ましたり』だと……!?)

(おいおいおい! これはどう考えたって、この天下の中村芝翫――成駒屋の俺の吉原通いと、粋な男ぶりを讃えて作った曲じゃねぇか! 俺のことを歌って踊ってやがるんだ!!)

あまりの勘違いと、演者としての血が沸き立つような歓喜に、芝翫は言葉を失い、ただ「なんて俺にぴったりな曲なんだ!」と感銘を受けていただけだったのだ。

静寂が、どれほど続いただろうか。 仮設の稽古場の誰もが息を詰まらせ、永遠にも思える沈黙に耐えかねそうになった、その時――。

すっ、と芝翫が腕を解き、ゆっくりと立ち上がった。

芝翫はギラギラとした猛獣のような目を輝かせ、俺たち三人を見下ろすと、大音声で言い放った。

「――これは、俺の曲だ!」

「。。。。はあ?????」

文次が、間抜けた声を上げた。 三郎助は「ん? なんだ急に立ち上がって?」とポカンと首を傾げ、声の出ない俺は口を大きく開けて固まった。

芝翫は俺たちの顔などハナから視界に入っていないとばかりに、腕をまくり上げながら、仮設舞台の横にいる大旦那・大五郎に向かってドカドカと歩み寄った。

「おい、大旦那! 決まりだ! 歌詞の中に『成駒』だの『浪花師匠』だの入ってて、完全に俺のことを歌ってやがる! この『供奴』って新曲、本番ではこの俺が踊る! そこの冴えねえバケモノどもから、今すぐ曲も振りもぜんぶ取っ上げろ!」

(ん?あ?……あぁ~……なるほど、そういうことね)

文次が明後日の方向(仮設舞台の柱)に向かって激しく指を突きつけた。 「絶対に渡さねえぞ! これは俺たちが半年間! 離れに引きこもって血反吐吐く思いで作り上げた、俺たちの曲だ! 天下の大看板だか知らねえが、横からしゃしゃり出てきて横取りしてんじゃねえ!」

「そうだ、その通りだ!」と三郎助も三味線をぎゅっと抱え直し、元立方らしい鋭い眼光で芝翫を睨みつける。「お前が追い出した俺たちの作った曲を『俺の曲だ』なんて横取りしようたって、そうはいかねえぜ!」

芝翫はニヤリと不敵に口端を上げ、極太の眉を吊り上げた。 「素人のお前らが踊ったところで、ただの珍芸に見えて終わるのが関の山だ。だが、この天下の中村芝翫が踊れば、江戸中をひっくり返して大騒ぎになるんだよ! 芸の価値が分からねえ素人は、大人しく引っ込んでやがれ!」

「誰が渡すか、この泥棒ーーッ!!」と文次が叫ぶ。

「あらあら、それほどまでにこの方々の芸がお気に召したのですか?」


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夢都 父の研究サポートのバイト代として「チップは好きに受け取っていい」って言われて、なんとなく引き受けてしまいました。本当に面白かったらで構わないので気が向いたらお願いします。父の研究支援にも回したいと思ってます。