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また変な仕事が降ってきた【幕間寸劇】接待計画

火曜日の午後。第二課のオフィスに、奇妙な音が響き渡っていた。

「シュッ……ササッ! ああっ、惜しい!」 「なるほど烏丸課長、今の『ササッ』というステップが重要なのですね。シュッ……ササッ! こうですか?」

私が自席から恐る恐る振り返ると、直属の上司である烏丸課長と、赴任してきたばかりで若葉マークの新山センター長が、丸めたカレンダーをゴルフクラブに見立てて変なステップを踏んでいた。 (……また課長が変なことをしている。しかも今回はセンター長まで巻き込んで) 私は深いため息をつきながら、席を立って二人の元へ歩み寄った。

「課長、センター長……仕事中にゴルフの練習ですか?」 「おお、明里さん! 違う違う、ただのゴルフじゃないよ。今週末の天道社長や役員とのコンペに向けた、『接待の最終調整』だよ! これは私たちの重要な実務だ!」 特段のマネジメント技術を持たず、上のご機嫌を取ることを唯一の処世術としている烏丸課長は、堂々と胸を張った。横に立つ新山センター長も、真面目な顔で頷いている。

「私はゴルフが初めてでしてね。烏丸課長から、コースに出る前の『最も重要な基礎』を叩き込んでもらっているところなんですよ」 「基礎って……なんかスイングのフォーム、全然練習してなくないですか? さっきから変なステップ踏んでポケットをごそごそやってるだけで……」 「明里さん、君は分かってないな!」 烏丸課長はカレンダーをピシッと私に突きつけた。

「接待ゴルフで『自分のスコアを良くするスイング練習』なんて、三流のやることだ! 私が今、センター長に一番真面目に教えているのはそこじゃない!」 「えっ?」 「今教えているのは、 社長の打ったボールが深い林に消えた瞬間に、自分のポケットから全く同じ番号のボールを自然に芝生に落とし、『あっ、社長! こんなフェアウェイの真ん中にありましたよ!』と叫ぶイリュージョンの手捌き だよ!!」 「……はい?」 「そして次が、 社長がダフった瞬間に、0.2秒の反射速度で『いやぁ! 今のは上空の風が巻いてましたねぇ!』と自然な言い訳を代弁してあげる発声練習 だ!!」

「えええっ……!? それをセンター長に教えてるんですか!?」 私が極端にミスを恐れる防衛本能から大声でツッコミを入れると、ゴルフ初心者の新山センター長は、感心したように深く頷いた。

「いやぁ、勉強になります。クラブの振り方よりも先に、社長のミスを無効化する反射神経と、ボールをすり替える手品が必要だとは。やはりビジネスとゴルフは奥が深いのですね」 (疑うことを知らないの!?) 赴任してきたばかりで素直すぎる新山センター長は、烏丸課長の狂った接待スキルを「ゴルフの正式なマナー」だと完全に信じ込んでしまっている。

「接待とは準備がすべてだからね! センター長、次はあの『楽々』に計算させましょう。社長が気分良くプレイできて、かつ進行を遅らせないための、私とセンター長の『完璧な接待スコアの配分』のシミュレーションを!」 「おお、ついにAIを活用するのですね! 日々埜さん、申し訳ないがお願いできるかな?」 「……なんで接待ゴルフの要件定義までAIにやらせるんですか」 私は呆れ果てながらも、自席に戻って会社にテスト導入されている生成AI「楽々」のチャットボックスに、狂った要件を打ち込んだ。

ピロンッ。 すかさず、モニターにAIからの回答が打ち出される。

『承知いたしました。過去の役員コンペのデータに基づく最適解を提案します。 14番ホールの池越えでは、社長のショットの直後に意図的に自分のボールを池に打ち込み、社長のミスへの心理的ハードルを下げる【防衛的池ポチャ】を推奨します。 なお、社長が完全に空振りをした際は、「今のスイングの風圧で、地球の自転がわずかに速くなりましたね!」と叫ぶと、服従パラメーターが最大化されます。確定は保留します』

「また真面目な顔して致死量のボケを混ぜてきてる!!」 私が頭を抱えていると、画面を覗き込んだ二人が「おおっ!」と目を輝かせた。 「地球の自転! それは社長の自尊心をくすぐる完璧な言い訳だ! センター長、さっそく練習に取り入れましょう!『いやぁ社長! 今の風圧で自転が……っ!』」 「わかりました!『今の風圧で自転が……っ!』ですね! いやぁ、ゴルフというのは本当に体力が要りますね!」

おじさん二人が再び奇妙な発声練習を始めたのを見て、私は完全に遠い目になった。 「おい明里、そんな冷ややかな目で見るな。あれもある意味、究極の『予算獲得業務』なんだぞ」 不意に背後から声がして、大橋リーダーが胃薬の小瓶を弄りながら歩み寄ってきた。

「予算獲得……ですか?」 「そうだ。あの烏丸課長の涙ぐましい接待イリュージョンとヨイショのおかげで、うちの課の無茶なスケジュールの延期や追加予算が、役員会議で裏でスッと通るんだ。あの奇妙な素振りは、我々現場が生き残るための『政治的防衛線』なんだよ」 現場の空気を読み、トラブルを未然に防ぐ大橋リーダーは、烏丸課長の愚行をまさかの「防衛的マネジメント」の一環としてブラックに肯定してしまった。

(……この会社、やっぱりどこかおかしい) 私がこめかみを押さえて深いため息をついた、その時だった。

「お疲れ様でしたー!(ニコッ)」 定時の時刻を1分過ぎた瞬間。オフィスの端から、一切の悪気ゼロの満面の笑みを浮かべた事務員の小川さんが現れた。 「新山センター長、烏丸課長。オフィス内でカレンダーを振り回して奇声を上げ、ボールをばらまくのは安全衛生規定違反です。次にやったら総務部に報告して始末書ですよ!(ニコッ)」

「ひぃっ! す、すみません小川さん!」 小川さんの絶対的な鉄の掟の前に、接待ゴルフの要件定義は物理的に強制終了させられた。小川さんは風のようにオフィスを去っていく。 JTCの闇深き接待文化も、定時退社をキメる絶対防壁の前には無力だった。私は小川さんの背中に向かって、心の中でそっと手を合わせたのだった。

*** 【後書き】夢都

こんにちは、夢都です。 今回は本編の合間のちょっとした息抜き、幕間寸劇をお届けしました!

いやー、烏丸課長と新山センター長のコンビ、最高ですね! 烏丸課長が汗水流して教えていた「ゴルフの基礎」が、まさかの「社長のボールをすり替える手品(イリュージョン)」と「空振りを風のせいにする0.2秒の発声練習」だなんて! しかもゴルフ初心者の新山センター長が、それを「ゴルフの正式なマナー」だと大真面目に信じ込んで一緒にステップを踏んでいる姿は、想像するだけで笑えます。

AIの楽々が提案した「防衛的池ポチャ」と「地球の自転が速くなった」というボケを、二人して大真面目に練習し始める狂気。それを「あれも社内政治(予算獲得)だ」と肯定してしまう大橋リーダーのブラックな達観ぶりも、JTCのリアルな病理を表していてたまりません。

でも結局、どんな社内政治も、定時で帰る小川さんの「安全衛生規定違反です(ニコッ)」の一撃には勝てないんですよね。最強の絶対防壁、お見事です。

さて、少し肩の力が抜けたところで、次回からはいよいよ第四章へと突入します。 この「また変な仕事が降ってきた」シリーズ、楽しんでいただけたならぜひ下のボタンからチップをお願いします! 僕のお小遣い……じゃなくて、父の研究支援のために!

それでは、第四章でまたお会いしましょう!

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夢都 父の研究サポートのバイト代として「チップは好きに受け取っていい」って言われて、なんとなく引き受けてしまいました。本当に面白かったらで構わないので気が向いたらお願いします。父の研究支援にも回したいと思ってます。