まだバイバイしてない
娘がまだ2歳か3歳だった頃。
当時住んでいたアパートには、娘と同じくらいのちびっ子がいっぱいいた。
すぐとなりのアパートにも。
毎日その子たちと三輪車に乗ったりボールで遊んだり、それは賑やかだった。
傍らでママさん達と子育ての話なんかしながら、子どもたちが遊ぶのを見守っていた。
その日もお昼過ぎから夕方まで、みんなでわちゃわちゃ遊んでいた。
夕焼け空になった頃、誰からともなく「じゃあまた明日ねー」と声をかけ合い、それぞれ部屋に帰っていった。
私と娘が最後に残った。
「さ、帰ろ」
娘を促したが、一向に帰ろうとしない。
終いには突っ立ってわんわん泣き出した。
「もうご飯よ。みんな帰ったよ?」
それでも泣きやまない。
早くご飯の準備もしたいし、一日遊んで疲れてるし、もういい加減にして!と思った。段々と口調もきつくなり、
「もう帰るよ!みんな居ないよ!」と、娘の手を引っ張るが、わんわん泣いたまま動かない。
しばらく放置してみたがダメだ。
(わがままもいい加減にしてよ!)
うんざりしながら、娘の高さまでしゃがみこんで聞いてみた。
「なんで帰らんの?」
娘は泣きじゃくりながら言った。
「ヒロキくんにバイバイしでない」
ああーー。
私は泣いている娘の手をひいて、お隣のアパートの3階までふぅふぅ言いながら階段をのぼり、ヒロキくんちまで行った。
ピンポーン♪
「あ、ごめんね、ヒロキくんとバイバイしてないって言ってて…。いいかな?」
ヒロキくんが出てきてくれて、2人は無事バイバイをした。
そのあと娘はコロッと泣きやみ、嬉しそうに家まで帰った。
手を繋いで帰りながら思った。
泣くのにはちゃんと理由があるんだなぁ。
こんな小さな子にも納得したい事情があるんだなぁ。
***
このあいだスーパーで、買い物を終えた若いママさんが、子供を自転車に乗せようと悪戦苦闘しているのを見かけた。
泣いて抵抗し、乗せられたあともわんわん泣いている。
「なんで泣くん!」
ママさんは怒ってそう言っていた。
うんうん。怒りたくもなるよね?
まだ帰りたくないんだろうな。
欲しいものがあったかな?
一度自転車から降ろしてあげたらいいかもな?
などと、遠い目をしながら思った。
子どもが泣くのにはちゃんと理由があるんだから。
