【シリーズ】学校PCやらかし劇場~平成初期ヘルプデスクの日常~第2回:インターネットはYahooから始まると思っていた頃~
当時の私は、ITインフラSEとしてベンダーのエンジニアと一緒にサーバやネットワークを構築し、そのシステムの管理運用をしながら、ヘルプデスクとして現場にも立ち回っていました。
このシリーズでは、そんな学校の現場で出会った人たちが、PCもネットもよくわからないところから、少しずつITに慣れていく様子を、実話ベースで4コマ化しています。
前回は、緞帳の下げ方をヘルプデスクに聞いてきた職員さんの話でした。「PCも電気でおんなじでしょ?」—あの言葉が、このシリーズの原点です。
今回は、ネットワークの外の世界、インターネットと機械の仕組みをめぐる、ほほえましくも愛おしい時代の話です。

小話
1.インターネットが無くなっちゃいました
「自分のPCのインターネットが無くなっちゃったんです」
電話越しに、教員の方が深刻な声でそう言いました。
無くなった。。。インターネットが。。。あるのか、そんなこと。
私はとりあえず現場へ向かいました。
PCを確認すると、ブラウザは起動するし、いろいろなページも普通に開きます。
「つながっていますよ」
「でも……いつものが出ないんです。ほら、ここを開けたら、すぐYahooが出るはずなのに出てこないから、つながってないでしょ?」
……なるほど。
ブラウザのホームページ設定が変わっていただけでした。
Yahooに戻したら、教員の顔がパッと晴れました。
「あ、インターネットが戻ってきた!」
インターネットは、どこにも行っていませんでした。
当時は、ブラウザを起動するとYahoo! JAPANのトップページが開く設定になっているPCが多かったのです。
(※1)つまり多くの人にとって、「ブラウザを起動すること」=「インターネットを開くこと」=「Yahooが出ること」が一体になっている話をよくされました。
それが崩れると、インターネットが消えたように見えた。
たしかに、そう見えますよね。
そして、余談ですが、そういう方に限ってYahoo天気のピンポイント天気などは、本当にピンポイントまで開いて詳しく解説までできたりしていました。(私は教えられるまで、そんなものがあることすらわかりませんでした💦)
2.好きなサイトを見れたら、きっと覚えます
同じ頃、何度も同じ質問をしてくださる年配の教員がいました。
「これ、前も聞いたっけ?」と言いながら毎回同じことを聞いてくるので、こちらもメモすることを勧めてみました。
「メモを取っておくと、次から自分で見返せますよ」
すると、教員がいいことを思いついた顔で言いました。
「……好きなサイトを見られたら、きっと覚えると思うんだけど」
「……はい?」
「興味があれば頭に入るでしょ。だから好きなサイトが見たいの」
それは確かにそうかもしれない。
しかし学校のPCには閲覧制限があります。
「では、まずメモからいきましょう」
「そっか……じゃあ、メモと、好きなサイトと、両方で」
「……メモだけでいきましょう」

3.FAXで送った紙が戻ってきちゃいました
ある日、学生さんから「FAXが送れないんです」と相談を受けました。
現場に行って確認すると、普通に送れています。
送信完了の表示も出ています。
「送れていますよ」
「でも紙がここに戻ってきます」
……あ。
FAXは、紙そのものが相手先へ飛んでいくのではありません。
紙に書かれた内容が電話回線を通じて相手先で印刷される仕組みです。(※2)原稿は送信後に手元へ戻ってきます。
それを丁寧に説明すると、学生さんがようやく「そういうことか」という顔をしました。
でも、私には気になることがありました。
「何回試しましたか?」
「……何回も」
送信履歴を見ると、数十件の送信記録が並んでいました。
……相手先に、朝から同じ書類が何十枚も届いていたことになります。
その後の学生さんと相手のかたの会話については・・・、書かないことにします。
※1 当時の用語メモ
Yahoo! JAPAN:1996年にサービス開始した日本のポータルサイトです。検索、ニュース、メール、ショッピングなど多機能で、当時の多くの人にとって「インターネットの入口」でした。ブラウザのホームページに設定されていることが多く、「インターネット=Yahoo」という認識が広まっていました。
ブラウザのホームページ設定:ブラウザを起動した時に最初に表示されるページのことです。現在はGoogleやブラウザのスタート画面が多いですが、当時はYahoo! JAPANに設定されているケースが主流でした。
FAX(ファクシミリ):紙の内容を電話回線でスキャンして送信し、相手先で印刷する機械です。原稿そのものが移動するのではなく、「画像データとして送られる」仕組みですが、当時はその動きが見えないため誤解されやすかったです。
仕組みが見えないから、見えているものが全部になる
【画像:挿絵】
インターネット、FAX、コンピュータの操作。これらに共通しているのは、「中で何が起きているか見えない」ことです。
利用者から見えるのは、画面の表示と手元の紙だけ。だからこそ、見えているものを手がかりに、仕組みを想像するしかありません。

今のAIやITでも、同じことは起きています。
「ボタンを押したのに何も変わらない」
「AIに聞いたのに的外れな答えが来た」。
見えない仕組みへの解釈が、操作のズレを生みます。
当時の「Yahooがないからインターネットがない」は笑えますが、今の私たちも同じことをどこかでやっているかもしれません。
見えないものの仕組みを、どうやって伝えるか。それはIT教育の本質的な問いで、今もまだ続いています。
次回予告
次回は、アップデートのお知らせメールを読んで、「私だけに秘密のメールをくれた」と思った方の話です。
「自分にだけ、内緒でメールをくれたんでしょ?」
アップデートは、デートではありません(笑)
