インタビュー|離婚と鬱を乗り越えて。沖縄のベビーシッター「かぞく&i」が支える夫婦と家族の余白
「家族のために働いているはずなのに、気づけば家族から一番遠い場所に立っていた」
仕事、育児、夫婦関係。毎日を必死にこなす中で、知らず知らずのうちに心が限界を迎えてしまう保護者は少なくありません。
沖縄でベビーシッター事業を展開する株式会社かぞく&i代表の新垣 翔吾(しんがき しょうご)さんも、かつてはその1人でした。不動産業で家族を支えようと懸命に働く一方で、心を病み、離婚を経験。「この世から消えてしまいたい」と思い詰めた過去があります。
そんな彼が今、夫婦の時間や保護者支援を軸にベビーシッター事業を続けているのはなぜなのか。背景にあるのは、家族を失ったからこそ見えた支援の本質でした。
■株式会社かぞく&i
■代表 新垣 翔吾(しんがき しょうご)
沖縄を拠点に、法人ベビーシッターサービス「株式会社かぞく&i」を運営。2020年に個人で活動を開始し、利用者の口コミと信頼を積み重ねながら、現在は保育士資格と保育園勤務経験を持つスタッフ10名のチームへと成長。2025年に法人化。夫婦が向き合う時間を守る「保護者支援」を軸に、家庭に寄り添う支援を続けている。
幼少期から子どもと共にあった生活
しょうごさんの原点は、幼少期の暮らしにあります。実家は保育園の2階。1階からは、日常的に子どもたちの泣き声や笑い声が聞こえてくる環境でした。
「泣く子どもを見るのが当たり前でした。だから『子どもは泣くもの』という感覚は、自然と身についていたと思います」
子どもと関わることは特別なことではなく、生活の一部。その延長線上で、進路に迷うことなく保育士の道を選びました。保育士専門学校を卒業後、現場に立ちますが、そこで理想と現実のギャップに直面します。
「子どもと関わる仕事は好きでした。でも、好きだけでは続けられない現実もありました」

結婚と「家族を支える」という選択
数年働く中で、しょうごさんは将来への不安を感じるようになります。
「保育士の給料で家庭を支えていくことに、正直不安がありました」
23歳で保育士を辞め、東京へ。アルバイトをしながら宅建資格を取得し、不動産業界へ転身します。その後結婚し、沖縄へ戻り、29歳で一軒家を建てました。周囲から見れば、順調で理想的な家族像だったといいます。
しかし実際は、家族との時間はほとんどありませんでした。
「マネージャー職になり、深夜帰宅が当たり前。週に1日休めるかどうか。『家族のために稼ぐことが一番大事』と信じて働いていましたが、結果的に家族との距離は広がっていました」
妻は育児の多くを1人で担い、しょうごさんは仕事に追われる日々。お互いに時間にも気持ちにも余裕がなく、周囲に頼れる環境もありませんでした。「自分たちで何とかしなければ」という思いが、2人をさらに追い込んでいったと振り返ります。
「本当は支え合いたかったはずなのに、想いとは裏腹に、相手を思いやれない言葉や態度を取ってしまうことが増えていきました」

「このまま消えてしまいたい」10年前の自分
「10年ほど前、鬱になり、この世から消えたいと思った時期がありました」
責任ある立場で仕事を休めず、家族を支えたいのに支えられない。その罪悪感が、自分自身を追い詰めていきました。
「存在している意味が分からなくなっていました」
そして、離婚。
「もっと夫婦で話す時間を取れていたら。育児を1人に背負わせていなければ。今も後悔は消えません」
もし当時、ベビーシッターという選択肢を知っていたら…。
数時間でも夫婦で向き合う時間や、心の余裕があれば、違う未来があったかもしれない…。
幸せになりたくて結婚し、家族を守りたくて必死に働いた結果、守りたかったものを失ってしまった。その現実が、何よりも苦しかったといいます。
「子育ては家族だけでするもの」「人に頼るのは甘え」。そうした当たり前を疑えなかった過去の自分がいたからこそ、今はその価値観に疑問を投げかけています。
誰にも知られないゼロからのスタート
2020年、沖縄でベビーシッターとしての活動を開始。コロナ禍に入り、沖縄県内ではまだベビーシッター自体の認知がほとんどありませんでした。
「チラシを何千枚配っても問い合わせはゼロ。実績も知名度もありませんでした」
それからSNSアカウントを立ち上げ、発信に力を入れます。ラジオ出演やメディアにも出演するなど、顔や名前を知ってもらうのに力を入れていました。

SNSでの発信やメディア出演を重ねる一方、男性シッターであることへの偏見や中傷にも直面します。
「『人妻狙い』『ロリコン』と言われたこともあります。それでも辞めなかったのは、過去の自分のように苦しんでいる家庭を知っているからです」
そこからさらに積極的に活動へ踏み出します。サロンとの提携、高校での特別授業、クラウドファンディングに挑戦。

この頃から「沖縄にしょうご先生ってベビーシッターがいるらしい」と少しずつ認知が広がり、シッター依頼も増えていきました。

利用者が語る「家族のための時間」
利用者からは、シッティングを通して「家族の関係が変わった」と感じた声が多く寄せられています。
「久しぶりに夫婦2人でデートができて、付き合っていた頃の気持ちを思い出しました」
「1人で子育てしているわけじゃないと初めて実感できました」
「しょうご先生と一緒だと子どもが楽しそうで、家族を大切にするための時間になってます」
こうした声に共通しているのは、子どもを預けたこと以上に、夫婦や家族の時間が取り戻された感覚でした。
しょうごさんは、ベビーシッターを困ったときだけのサービスではなく、記念日や夫婦が向き合う時間のために使ってほしいと、発信し続けています。
「子どものためだけでなく、家族の関係そのものを守る存在でありたい」

法人化とこれからのビジョン
2025年、株式会社かぞく&iとして法人化。
現在10名のベビーシッターが在籍しています。全員が保育士資格を持ち、保育園など現場での実務経験を重ねてきたメンバーです。エリアごとに担当スタッフを配置し、安定したシッティング体制を整えています。
「僕ひとりでできることには、どうしても限界があります。だからこそ、同じ想いを持つ人たちとチームで動くことに意味があると思っています」

2025年からは、有名リゾートホテル「ザ・ブセナテラス」との提携もスタート。観光シーズンの繁忙期には、ホテル内での駐在シッティングも行い、旅行中の家族が安心して過ごせる環境づくりにも力を入れています。
「仕事も、日々の暮らしも、その土台には家族があります。でも毎日に追われていると、一番身近な存在のことを、つい後回しにしてしまうこともある。それは誰かが悪いのではなく、余裕のない環境の中で必死に頑張っている結果だと思うんです」
ほんの数時間でも心と体を休める時間があること、夫婦や家族が向き合う時間を持てること。それだけで、家族の関係は少しずつ守られていくのではないか、そう語ります。
「全部を自分たちだけで背負わなくていい。人に頼ってもいい。そう思える選択肢があることが、家族が笑顔でい続けるための支えになると信じています」
ベビーシッターの利用に、不安や迷いを感じる人は少なくありません。だからこそしょうごさんは、なぜ不安なのか、何が怖いのかという声に一つずつ向き合ってきました。無理に利用を勧めるのではなく、安心して選べる環境を整えること。それが、今の役割だと考えています。

保護者支援を社会に根づかせるために
大切にしているのは、家族が必要なときに、安心して頼り続けられる支援が身近にあることです。
沖縄には、個人で活動するベビーシッターも多く、それぞれが強い想いを持って家族を支えています。一方で、シッター自身の体調不良や急な事情で対応が難しくなった場合、困ってしまうのは利用している保護者です。
「だからこそ、同じ想いを持つシッターがチームとして関わり、万が一担当が変わっても『誰が来ても安心できる』。そんな支援の形を大切にしています」

それは、利用する家族にとってだけでなく、働くシッターにとっても無理なく続けられる環境につながると考えています。
また、ベビーシッターは一部の家庭だけのものではないと、しょうごさんは言います。将来的には、もっと多くの家族が自然に選択肢として持てる存在になるよう、支援を続けられる仕組みとして社会に根づかせていきたいと考えています。
最後に、こう語ってくれました。
「僕は、過去に家族を守れなかったという後悔があります。でも、その経験があるからこそ、今は誰かの家族を支えられていると思っています。夫婦のために、家族のために、ベビーシッターをもっと身近な存在にしていく。それが、かぞく&iのビジョンです」

株式会社かぞく&i公式HPはこちら
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