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【映画批評】『アイミタガイ』故・佐々部清監督が遺した企画を草野将吾監督が見事に紡ぐ!!亡くなった友人が繋ぐ不思議な縁の物語

はじめに

人と人の縁とは不思議なものである。人生において出会いというものは、必要な時に必要な人と巡り会う。こればかりは偶然の必然ともいうべき人生の神秘であり、これだけ科学や社会システムが発達しても人と人の縁のメカニズムは究明できない。本作はまさに、そんな不思議な人と人のご縁の神秘についての心温まるヒューマン映画だ。

本作は、中條ていの連作短編集「アイミタガイ」を黒木華主演で映画化し、親友を失った女性を中心に思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇だ。「台風家族」の市井昌秀が脚本の骨組みをつくり、2020年に他界した佐々部清監督が温めていた企画をもとに、「彼女が好きなものは」の草野翔吾監督がメガホンをとった。当初は、亡くなった佐々部清監督が監督を務めるはずだったが、シナリオの段階で亡くなり、代わりに新進気鋭監督がメガホンをとった。作品自体が亡くなった佐々部清が繋いだ縁を感じ、作品のテーマと作品の制作過程がシンクロする不思議な映画だ。

物語

ウェディングプランナーとして働く梓(黒木華)は、親友・叶海(藤間爽子)が亡くなったことを知る。恋人・澄人(中村蒼)との結婚に踏み出せずにいる梓は、生前の叶海と交わしていたトーク画面に変わらずメッセージを送り続ける。同じ頃、叶海の両親である朋子(西田尚美)と優作(田口トモロウ)のもとに、とある児童養護施設から娘宛のカードが届く。そして遺品のスマホには、溜まっていたメッセージの存在を知らせる新たな通知が入る。一方、金婚式を担当することになった梓は、叔母の紹介でピアノ演奏を依頼しに行ったこみち(草笛光子)の家で、中学時代の叶海との記憶をよみがえらせる。


本作は、梓(黒木華)の友人、叶海(藤間爽子)が生きている時系列から始まる。その直後、撮影でバプアニューギニアに旅立った叶海は、現地の事故で命を落としてしまう。梓は叶海が死んでも普通に取り繕いながら日常を送る。
しかし、叶海の不在を受けとめきれない梓は、これまで叶海と交わしてきたLINEのトーク画面に日々メッセージを送り続ける。今でも叶海が生きているかのように
梓は、死んだ叶海にLINEを送り続けることで平常心で仕事や日常を続けようとする。

一方、娘を失った叶海の両親・朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)は、四十九日を終えても遺品のスマホを解約できずにいたが、そこには叶海の死後に届いた新しいメッセージの存在を知らせる通知が溜まっていた。すべての差出人は梓。叶海の死を知らないかのような、他愛もないメッセージの数々に、朋子はそっとつぶやく。「きっとこの子、全部わかってる。私たちと一緒で、まだ整理がついてないのよ」そこに、死んだはずの叶海が送ったというプレゼントへのお礼のカードが二人に届く。二人は不思議がる。そこで生前、叶海が朋子と優作は、生前に叶海が取材先の施設で出会った子供たちと交流を重ねていたことがわかる。

仕事で金婚式を担当することになった梓は、ピアノの演奏者を探していたところ、高齢婦人のこみち(草笛光子)を知る。ホームヘルバーをしている叔母の範子(安藤玉恵)の紹介で訪れた住宅街の家屋。そこは中学時代に叶海と二人でビアノの音色を聴いた大切な場所だった。こみちは人の心を癒やすはずの音楽で若者を戦地に送り出してしまった過去から、人前でピアノを弾くことを封印していたが、範子の"お節介"と梓の想いに触れて演奏を引き受ける。

そんなある日、梓は近江八幡に住む綾子(風吹ジュン)を訪ねる。父方の祖母である綾子とは、両親の離婚後も関係が続いていた。滞在中に隣家でポヤ騒ぎが起こったものの、一緒に来ていた澄人の活躍で事無きを得る。不始末を詫びる隣人に「こんなんは、相身互いや」と伝える綾子。「誰からも何もしてもらわへん人って、居らんと思う。気いついてないだけで、いろんな想いが巡って、自分のところに届いているんよ」。両親のいがみ合いを目の当たりにしてきた梓は、結婚にも二の足を踏んでいたが、頼りなく感じていた澄人が思いのほか手際よく火を消す姿を見て心が動く。

一方、朋子と優作は、児童養護施設所長の羽星(松本利夫)に招かれる。山梨の施設に足を運んだ朋子と優作は、トイレの個室の壁に飾られた叶海の写真を目にする。誰にも見られず、何も気にせず、無防備に自分の心と向き合えるギャラリー。そこには子供たちに囲まれて写る娘の笑顔があった。

梓の彼氏の澄人(中村蒼)は、毎朝近鉄名古屋線の同じ車両、同じ吊革につかまって通勤している。交際中の梓との仲に不満はないものの、どこか行き詰まりも感じる。両親が離婚した経験から結婚願望はないと梓からは告げられていたが、叶海を失った悲しみから立ち直れない彼女を支えるためにも、二人の関係をもう一歩前に進めたいと思っていた。そこに指輪を買いに行った指輪店で店主と出会う。澄人は梓に告白するが、まだ梓は結婚と向き合えない。

最後、梓と叶海の両親である朋子と優作が数年ぶりに会い、会話を交わす。澄人が毎日同じ電車で一緒になったサラリーマンが、叶海の父・優作だとわかる。澄人が寝過ごしそうな優作を起こしてあげたことで、優作は、叶海が亡くなる前、最後に会えたのだった。

そして、澄人に呼び出されていた梓は、死んだ叶海へプロポーズへの返事を迷っていることを相談していたが、「やっちゃえ」と返信が来る(返信をしたのは叶海のスマホを持っていた朋子)。梓は、一歩踏み出し、澄人のプロポーズを受ける。

二人は指輪店に行くが、店は閉まっていた。そこに店主が孫を連れてやってくる。孫が、梓が担当した金婚式での引き出物をコレクションに加えるため、店に来たという。二人は指輪店に入って行く。

一見関係ない人と人が亡くなった叶海の縁で繋がっていく新しい脚本の形


この映画は、親友を事故で亡くしたヒロインの再生物語であるから、映画を見る前は、ヒロインがひたすら悩んだ表情ばかりの映画だと思っていた。しかし、観てみると人と人の出会いの話で心が明るく元気になる映画だった。

一つのシーンが終わると、キャメラは通りすがる人をフォーカスし、今度はその人のドラマが始まる。児童施設、タクシー運転手、指輪店の店主などここまで風呂敷を広げて良いのか?と思ってしまうが、群像劇の中でもヒロイン・梓の葛藤と変化を軸にしているため、すべてがその軸に繋がって行くのだ。

梓の葛藤は、「友人が死んだことをきっかけに自身の結婚と向き合う」ことである。梓は両親の離婚を原因で結婚にトラウマを抱えており、ウェディングプランナーながらも、結婚しないことを条件に澄人と付き合っていたのだった。

彼氏の澄人と親友の父優作の話が最後から待ってきたり、梓が返事がないLINEに送り続けていた伏線が、朋子の「やっちゃえ」という返信で回収され、それが主人公の変化につながるなど、群像劇がパズルのように噛み合う。

最後の梓の手を友人が引っ張るモンタージュが素晴らしい。幽霊などファンタジー要素を使わずにドラマの手法で最後、死んだ友達の存在が見えるのだ。

本作は、黒木華や田口トモロウ、草笛光子など豪華キャストだが、中でも叶海役の藤間爽子の徹底した存在感がたまらなかった。死んでしまうので冒頭しか出てこないのだが、「この役が本当にいるようだ」というリアリティでその存在が、映画全体を支えていた。藤間爽子は、撮影前から草野監督と何度も打ち合わせをしたそうだ。衣装が良かった。カメラマン役は難しいが違和感はなかった。藤間爽子はT B Sの『マイファミリー』でブレイク。『サイレント』や日本舞踊と女優の兼業である。自然で素朴な存在感が、黒木華と合っている。

三人の監督によって完璧に執筆・演出された見たこともないシナリオの形

今回、3人の監督がシナリオを手がけている。その過程を見ていこう。

初稿を手がけたのは「台風家族」 などの市井昌秀監督だ。市井さんの脚本を高く買っていた宇田川プロデューサーの依頼で、土台となる構成を完成させた。今回シナリオにあたって、市井さんは、梓を主人公にして叶海と友人という設定にし、梓が死んだ叶海にLINEを送ることで物語が進んでいく。

その初稿を読んで監督に名乗りを上げたのが名匠・佐々部清である。佐々部と市井は、市井の自主映画時代から交流があったといい、2017年には佐々部の監督作として動き出した。しかし、2020年3月に佐々部監督が急逝。

佐々部からのバトンを受け取ったのが草野翔吾監督。草野監督は、市井さんの稿、佐々部さんの稿、原作から良い部分を取りこぼさないように全シーンに手を入れて、梓と叶海の回想シーンも群像劇にしたそうだ。

演出的にもシナリオ的にも群像劇として成立しているのは、この三人が脚本家としてだけではなく、監督目線でシナリオを書いているというのも大きいと思う。

撮影とロケーションについて

撮影も、明るい絵でルック主義ではないのが良かった。映画の舞台を桑名に決めたのは佐々部監督で、シナリオハンティングのために現地にも足を運んでいる。草野監督も撮影前に一人で桑名やその周辺の町を見て回った。

桑名は、町に入って、そこからどこへ出て行くにしても川を渡らなければならない。そんな地形が今作のドラマをより魅力的にしている。

草野監督はこう語る「佐々部さんの脚本の稿には町の名前までしつかり書かれていたんです。原作でも舞台は特定されていないのですが、佐々部さんが桑名で撮りたいと考えた思いを大事にしたかた。僕自身が現地で感じたこと、 桑名らしいと思った風景の特徴を大事にしながら、 特別な場所の特別な話に見えないように撮ろうということは、 撮影の小松高志さんとも最初に話していました。桑名の町の中には水路があるんですけど、川と水路を軸に登場人物たちの生活の地図が想像できたらいいなと思ったんです。」

3人の監督により、短編集だった原作が一つの群像劇になり、そんな群像劇の心の所在を佐々部監督が選んだ桑名の街が視覚的で立体的に表現している。

総括

本作は、人生の悲しみを描きながらも決して重くならないお芝居と映像で心温まる明るいヒューマンドラマだった。

本作は悪い人間が出てこない。人と人の善意の中のつながりにフォーカスを当てている。今作の場合は、人間ドラマに毒がないのが良かった。人生の持つ悲しみを描いているため、人の悪意を描かなくても、ドラマとして深いものができるのだ。

演出☆☆☆
映像☆☆☆
物語☆☆☆☆☆
テーマ☆☆☆☆☆

82点

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