最終回:やりたいこと(Will)がなくても、キャリア(足跡)は未来へ繋がっていく〜15年かけて辿り着いた技術職のキャリアの答え〜
「仕組みやルールという下地を整え、個人も組織も両方の利益を最大化する強い組織を作りたい」
精密機器メーカーへの転職後、ポータブルスキルの真価を実感した私は、そんな新しいビジョンを抱くようになりました。
しかし、現実の組織はそう簡単には変わりません。
目の前には、相変わらず散らかった実験室があり、ルールなき作業があり、納期遅れが日常化した風土が横たわっています。
「3S(整理・整頓・清掃)を徹底しよう!」
「これからは納期遅れに厳しいルールを設けます!」
「当たり前」という正論を振りかざして、一気に変革を迫る選択もあるかもしれません。
しかし、そんなことをしても誰もついてこず、上手くいかないのは目に見えていました。
正論だけでは、組織は動かないのです。
1.「否定しない」から始める、泥臭い下地作り
そこで、私が現在取り組んでいるのは「小さな取り組みを通じて、メンバーに自身のメリットを感じてもらうこと」です。
「この人の言う通りにやってみたら、自分の業務がすごく楽になった」
「やる前は何となく面倒だと思ったけど、前よりも負荷が減った」
そう実感してもらうことから、すべての信頼関係は始まります。
そのために、私は現場でいくつかの作法を意識しています。
これまでの彼らの進め方を決して否定しない。
「なぜやるのか」のメリットを相手視点で説明する。
最初は小さな一歩から。
長年その職場で戦ってきたメンバーのやり方を尊重し、決して過去を否定しない。
その上で、「ここに少しだけルールを設けると、明日からの実務がこれだけスムーズになりますよ」と、相手のメリットに寄り添って、一歩ずつハードルを越えていく。
「この人の言うことをやれば、自分にもメリットがある」と感じてもらいながら、徐々に次のステップへ進めていく。
この泥臭くも誠実なアプローチこそが、私が15年のキャリアの中で身につけてきた「仕事の進め方」であり、今まさに現場で仕掛けているリアルな挑戦です。
こうして組織の「下地」を整える側に回ったとき、私は20代の頃からずっと抱えていた大きな呪縛から完全に解き放たれていることに気が付きました。
2.15年越しの結論:やりたいこと(Will)は、最初からなくてもいい
20代の頃、自己啓発セミナーの帰り道に「やりたいことが見つからない」「技術を楽しめない自分には致命的な欠陥がある」と絶望していた私へ、15年経った今、ようやく腹落ちした答えを伝えることができます。
「やりたいこと(Will)は、最初からなくてもいい」
世の中のキャリア論は、よく「まずやりたいこと(Will)を描け」と言います。しかし、そんな言葉に焦る必要はまったくありません。
目の前の課題に、本気で、必死に取り組んでいれば、必ず次の路(みち)が開けてきます。そして、できること(Can)が増えたその先に、「あ、自分はこれがやりたいんだ」というWillが後から自然と湧き出てくるのです。
「やりたいこと(Will)」は最初から用意するものではなく、目の前のことに本気で取り組んだ結果として、後から付いてくるもの。これが、私の15年間の足跡が教えてくれた真実でした。
3.闇の中にいるすべての技術職へ
今、かつての私と同じように「自分には何も積み上がっていない」「この仕事は向いていないのではないか」と暗闇の中にいる20代・30代の技術者のあなたへ。
明日からの仕事を、ほんの少しだけでいいから「自分なりに解釈して、自分なりに工夫」してみてください。
世の中に、無駄な仕事なんて何一つありません。
どんなに理不尽に見える仕事であっても、そこで自分なりにもがいて得られた経験は、数年後、あるいは10年後のあなたを裏切らない強力な武器(ポータブルスキル)になって、必ず自分を助けてくれます。
とはいえ、私自身、いつでもそんな立派なマインドで仕事ができていたわけではありません。サボりたくなったことも、逃げ出したくなったことも、できないことも数え切れないほどありました。
それでも私は、「目の前のことに必死に取り組む」「自分と向き合い続ける」ということだけは、手放さなかった。
キャリアとは、あらかじめ描く地図ではありません。
あなたが明日、目の前の仕事に必死に向き合ったその一歩一歩が、振り返ったときに、未来へとまっすぐ繋がるあなただけの美しい「足跡」になっているはずです。
(おわり)
